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「センスメイキング(SENSEMAKING)」についてのまとめ

最近、”センスメイキング”という言葉が別の人からそれぞれ若干違う意味で使われて、おやおやと思うことが何度かあったので、自分なりにまとめながら理解することにしました。

プレジデント社から『センスメイキング』クリスチャン・マスビアウが発売されたのが2018年11月。帯には STEM<人文科学 とデカデカと書かれていて、書店でもこの売り文句が大きく宣伝されていました。

今はプログラマーやエンジニアの時代であり、文系でもせめて経済系や法律系の実学を学ぶ学部をでているならまだしも、純粋な人文科学の学部を卒業して肩身が狭い思いをしてきたサラリーマンにとって溜飲が下がる思いで著書を手にとったのではないでしょうか。

しかし、読了後、あれっと思った読者も多いはずです。ロジックツリーといった論理的思考のためのツールや、3C/SWOT分析のような経営分析ツールは習った次の日から活用できるフレームワークがあるのでわかりやすい。

一方、センスメイキングは明日から公式として使えるフレームワークではなく、美意識と同じように洞察や考察、経験を通じて蓄積していく能力です。したがって、『センスメイキング』を読んだからといって我が物顔で使えるツールはありません。

結果、コンサルおじさんがしたり顔でセンスメイキングが重要と言い、都度、なんのことだっけと検索するのが常態化しているような気がします。

1.Sensemaking と Make sense

念のため調べてみると、

Make sense:意味をなす、道理にかなう、うなずける、筋が通っている、当然である、つじつまが合う
(引用)アルク

一方のSensemakingはなんと、アルクやLongmanといった辞書には単語としてでてこないようです。Weblioでは「意味付与」と訳されています。

メイクセンスの方は、若干インテリが使うカタカナ用語として「それってメイクセンスだね」と筋が通ってるだとか納得できるといった意味合いで日本語として使われることもあります。

Make senseは”いまある状態”や”既に発せられた言葉”が筋が通っている状態であり、Sensemakingは意味を作りにいく、こちらから働きかけて新たに意味付けするといった単語になると思います。

2.『世界標準の経営理論』におけるセンスメイキング

2019年12月に入山章栄先生の『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社が発売されました。42章820ページの大作で、1日1章ずつ読んだ後に辞書的に使うというのが良いのではないでしょうか。ビジネスパーソン必携の書です。

この『世界標準の経営理論』における”ミクロ心理学ディシプリンの経営理論”の部の最終章(P.416-432)として「センスメイキング理論」が取り上げられています。

入山先生は「現在の日本の大手・中堅企業に最も欠けており、最も必要なのがこのセンスメイキング」とこの章の初めに書かれています。

ただし、脚注には、センスメイキングを生み出し発展させてきた中心人物である組織心理学者カール・ワイク氏はセンスメイキングはあくまで「視点」であり「理論」とはとらえていないようだとも書かれています。そう、視点というほうがしっくりくる気もします。

Sensemakingは辞書にも載っていない単語であり、定義もまだまだ曖昧ながら、入山先生は日本語として「納得」や「腹落ち」をあてています。

センスメイキング理論とは、組織のメンバーや周囲のステークホルダーが、事象の意味について納得(腹落ち)し、それを集約させるプロセスをとらえる理論
『世界標準の経営理論』入山章栄 P.417​

3.センスメイキングの全体像(『世界標準の経営理論』より)

以下の画像は入山章栄先生がダイヤモンドオンラインに寄稿している
孫正義の凄みは「センスメイキング理論」で解説できる」
から引用しています。

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センスメイキングのプロセス①環境の感知

ここでいう環境とは、危機的な状況、アイデンティティへの脅威、意図的な変化(イノベーション投資など)の3つが挙げられています。

社会的なマクロでの変化、自社を取り巻く競争環境の変化、そして自社内で起こそうとしている変化 といった切り分けができるでしょうか。これらを感知することからセンスメイキングは始まります。

センスメイキングのプロセス②解釈を揃える

上記のような環境の変化を感知した時、経営者はもとより従業員レベルで様々な意見が噴出します。

そこで組織・リーダーに求められる行動は以下とされています。

多様な解釈の中から特定のものを選別し(selection)、それを意味づけ、周囲にそれを理解させ、納得・腹落ち(sensemaking)してもらい、組織全体での解釈の方向性を揃えること
『世界標準の経営理論』入山章栄 P.423

ただし、客観的な情報を様々なフレームワークで現状分析をしても、ロジックだけで唯一無二の客観的な真実やとるべき行動が導き出せるわけではありません。

そこで重要とされるのが、ストーリーテリングであり、リーダーは自分が思い描くストーリーを語ることで、周囲の解釈を揃えていく必要があるとされています。

センスメイキングのプロセス③行動・行為(イナクトメント)

入山先生のセンスメイキングを読み解く限り、このプロセス③における行動・行為はPDCAでいうところの最後のアクションとは意味合いが異なるようです。

入山先生が紹介するセンスメイキング理論は、主体と客体が分離した実証主義ではなく、主体と客体が相互に影響し合う相対主義を哲学のベースとしています。

組織内で解釈を揃えたリーダーが行動を起こし、環境に働きかけることで、新しい情報を感知することなります。

入山先生は、1987年にミンツバーグ氏が発表した論文”Strategy Crafting”からの下記を引用しています。

「優れた陶芸家は、最初は何を作りたいのか自分でもわからず、まずは泥をこね、ろくろを回し、次第に自分でつくりたいものがわかってくる」

まずは行動し、そこで自分たちが思い描いたストーリーとの整合性が図られて、そのストーリーに腹落ちしていく。そして、思い込むことで客観的にみたら不可能だったことを実現してしまうことが可能となる。

セルフ・フルフィリング(self-fulfilling:事故成就)という認知バイアスの一つとして「大まかな意思・方向性を持ち、それを信じて進むことで、客観的に見れば起き得ないはずのことを起こす力が、人にはある」ことをセンスメイキングの大きな命題としています。

また、孫正義氏や永守重信氏の事例を挙げて、以下のようにまとめます。

極めて主観的なストーリー・信念を強く語る。そこに正確性は必要ない。主観的だからこそストーリーがあり、だからこそ多くの人をセンスメイクして、彼らの足並みを揃え、巻き込めるのである。
『世界標準の経営理論』入山章栄 P.431

4.センスメイキングの闇?

コロナ禍の2020年7月現在、私たちはこのセンスメイキングをどう見ればよいでしょうか。また、WeWorkで大きな損失をだした孫氏に後付けで様々な批判が寄せられている状況をどう見るべきでしょうか。

欧州のリーダーたちと見比べて、日本政府についてはコロナ禍に立ち向かうストーリー性のなさを嘆く声が多いように思います。

また、”コロナ影響”と言って売上減少など短絡的にPLと紐づけるだけの経営者よりも、コロナが変える社会とその変化したコロナ時代に自社技術がどういう役割を果たすのかストーリーを語れる経営者への注目が集まりやすいのは火を見るより明らかです。

一方で、孫氏の妄信ともいえるWeWorkの成長ストーリーには砂上の城との批判が寄せられ、強すぎるリーダーシップの脆さが表出したとも言えます。

ストーリー性がなければ突破力もないし、人もお金も集まってきません。しかも、投資家は事業計画よりも経営者を見ると言います。その最たる例がWeWorkの創業者アダム・ニューマンへの孫氏の視線だともいえます。

センスメイキングは経営者個人の思い込みだけではなく、冷静な分析とストーリーはセットになっていなければいけないようです。

5.センスメイキングは複数ある?

ここで、冒頭の『センスメイキング』クリスチャン・マスビアウに戻りたいと思います。

入山先生のセンスメイキング理論は相対主義ということでしたが、バスビアウの『センスメイキング』はどちらかというと実証主義に寄っているように思います。

特に重要なのは、他の文化について何か意味のあることを語る場合、自身の文化の土台となっている先入観や前提をほんの少し捨て去る必要がある。自分自身の一部を本気で捨て去れば、その分、まったくもって新しい何かが取り込まれる。洞察力も得られる。このような洞察力を育む行為を著者は「センスメイキング」と呼んでいる。
『センスメイキング』クリスチャン・マスビアウ P.45

上記を前提としてマスビアウ氏は基本原則を紹介しています。

●センスメイキングの五原則
1.「個人」ではなく「文化」を
2.単なる「薄いデータ」ではなく「厚いデータ」を
3.「動物園」ではなく「サバンナ」を
4.「生産」ではなく「創造性」を
5.「GPS」ではなく「北極星」を

数値の羅列されたデータ分析ではなく、エスノグラフィーのように現地現場に足を運んでじっくりと一人一人の行動を洞察することの重要性を説いています。

入山先生が、自身の持つストーリーを他者に働きかけて集合知を広げていくことをセンスメイキング(意味を外部に植え付けていく)と呼んでいるのに対し、マスビアウ氏は得られた情報を洞察し意味を見出していくことをセンスメイキング(意味づけする)と呼んでいるように思います。

現代アートの重要作品であるマルセル・デュシャンの「泉」を例に考えてみます。男性用便器を深く洞察して”レディメイド作品”として美術的な意味を付与するセンスメイキングはマビアス氏。一方、これは”レディメイド”という新しい芸術なのだとストーリーを語ってコンセンサスをうみだしていくのが入山先生のセンスメイキング。

どちらも意味を付与することに変わりはないですが、付与する相手が周囲なのか、それとも得られた情報なのかによってセンスメイキングの行為が異なりますね。どちらが正しいということは全くないと思います。ただの定義の違いです。

しかし、もしかしたら、この微妙なずれがコンサルおじさんが「センスメイキングが大切」と言った際に生じる、なんだっけなぁという感覚の根源なのかもしれません。

実はマスビアウ氏の『センスメイキング』は発売当初に読んで以来、しっかりと読み返していないので、またあらためて考察の上塗りをしてみたいと思います。


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