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結婚相談所に行ってみた その3

土曜日の10時55分、僕は待ち合わせ場所である、駅前ビルの入り口に行った。
駅からのアクセスも良く、ショッピング用の店やレストランが入っているので週末は人が多いが、まだ午前中だからか、そこまで混み合ってはいない。
今回は5分早く着いたので少し落ち着いていたが、初めて会う人を見つけられるように、少し気を張っていた。
ただ、そうしたのも数十秒だけだった。すぐに、175センチ、いやそれ以上ありそうな存在感のある女性が外から向かってきた。
僕はすぐに見つけることができて嬉しく、手を挙げて笑顔で「B子さんですか?」と聞いたら、「あ、はい、そうです! W男さんですか?」と笑顔で答えてくれた。
子どものような笑顔でめちゃくちゃかわいい。身長に対して顔が小さい。
写真よりも素敵だなんて、そんなの卑怯じゃん。
僕は鼓動が高まるのを感じながら、「あの、上のスタバでカフェでもどうですか?」と聞いて、再び笑顔の「良いですね!」を頂いた。

「鼻はちゃんとチェックしたのか?」とZ君が茶化すような声で聞いてきた。
僕はA子さんの時と同様、Z君に電話をして報告をしていた。
「またあれだろ? ここまで好印象だけど、マスクを取って鼻でガッカリする、ってパターンじゃないのか?」とZ君は笑いながら言った。
「ああ・・・そういえば鼻は特に見なかったな」
「はあ?」
「いや、あれかも、A子さんの時は向かい合わせで座ったけどさ、たまたまB子さんとはソファ席に座ったから、鼻を正面から見なかったんだわ」
「なるほどな。まあそういう座り方の方が最初は良いのかもね」
「もう鼻どころじゃなくてな、素敵な目をずっと見てたわ」
「そんなに?」

そう、そんなに僕はメロメロだった。
エレベーターじゃなくてエスカレーターを使いたい、とのことで、8階までエスカレーターに立って登った時からだ。
B子さんの視線がこちらを向いていない間だけ、全身をゆっくり見て、うわ、ヒールじゃないのにこの高さか、とか、バスケットボールをやっているだけあって身体がガッシリしているな、などとゆっくり観察した。
スタバの近くにあったパフェ屋を見て、「あ、イチゴのパフェ美味しそう」と言った時や、「スタバのポイント貯まっているんで、出しますよ」と僕が言って嬉しそうにした時も、胸がキュンとした。

「すごいな、そんな綺麗な人、結婚相談所にいるんだな」
「ね、俺もびっくり」
「それで、会話はどうだったんだ?」
「A子さんと同様、今の仕事の話もしたんだけど、B子さんは俺の転職歴みたいなのも興味持って聞いてくれてな」
「めっちゃ転職してるもんな」
「B子さんも『忘れちゃうと思いますけど』って笑いながら言ってたわ」
「すごいな、最初からそんな冗談を」
「そう! そうやって、遠慮し過ぎずに正直に言ってくれたわ」
「他に話題は?」
「俺の健康トークとかだな。味噌汁の出汁にこだわっている、とか、夜8時以降はご飯を食べない、とか、週3で走ってます、とか」
「まあ健康を気にして、スムージーとか自分で作る奴だもんな、W男は」
「月に100キロ走ってますとか言うと大体引かれるけど、B子さんは『その程度ぐらいですか』みたいなリアクションだったよ。B子さんも頻繁にバスケに行くから」
「それじゃあ、スタイル⚪︎、会話⚪︎だったということで」
「そうだね。運動⚪︎でもあるわ」
「そんで鼻はクエスチョンマーク、と」
「いや、鼻とかどうでもいいだろ」
「なんだよ、それ。A子さんの時と言っていること違うじゃねえか」
「そんで、1時間から1時間半くらい喋って、駅でお別れした感じよ」
「ほお」
「俺、この人とだったら結婚して良いかも、って思ったもん」
「あ、そう、そこまでね」

本来、ここまで想いが強いのならば、すぐにシステムにログインしてYESのボタンを押すべきなのだが、「もしこれでYESをもらえなかったら、人間不信になるな」「これから16時にC子さんと会うから、その後で」「いや、もしB子さんがすでにYESを押していて、僕がYESを押すのが遅れたらアレだしな、なんか、悩んだ挙句にYESを押したみたいになっちゃうな」とウジウジしていた。
帰りがけに行きつけの中華料理屋で麻婆豆腐を食べ、少し昼寝をしたら、覚悟が決まった。ログインしてYESを選択したら、トライアル交際が成立し、連絡先が共有された。
この時すでに15時。急いで僕は駅へと向かって、C子さんとの待ち合わせ場所に向かった。

電車で10分先にある待ち合わせ場所に行く途中、B子さんからメールで連絡が来た。
「W男さん! B子です。先ほどはありがとうございました。お話してて楽しかったです。LINEのIDをお伝えするので、良かったらそちらでやり取りしましょー?」
え、めっちゃ慣れてね?
パッとそう思った。
一体今まで何人の男とトライアル交際しているのだろう。
まあ、その辺りを話すのはタブーなので聞かないが、すぐにLINEで話そうとするのが、ずいぶん慣れた気がした。
そしてここで、LINEの連絡先交換をするのが許されているのだと知った。

受け取った直後、僕は返信をどうするか考えていた。
なんと言おう・・・なんか面白いこと・・・そして次につながることを・・・次はどこで何をしよう・・・。
いや、待てよ、これからC子さんに会うんだ。
もしかしたら、B子さんよりもC子さんの方が好き、となるかもしれない。
いくらB子さんが良かったとしても、C子さんを蔑ろにしてはいけない・・・。

ここで一旦、B子さんのことを忘れて、C子さんのプロフィールを見返し、復習することにした。
年齢は僕の6歳下。僕が小学6年生の時、彼女はまだ年長さん。小学校すら被っていない。
B子さんの9歳も下か。9歳も離れた2人と同じ日に会うとは。
なるほどな、理系の仕事をしているんだな。
ふむむ、あんまり運動はしていないようだな。
すると、電車が駅に着いた。時間はギリギリだった。試験直前の詰め込みのように、あまり内容を覚えていられなかった。
待ち合わせ場所の改札を出たら、それらしい、165センチで若い女性が壁を背に立っていた。顔は写真の通りだった。
走って近づいて、僕は「初めまして、B子さん」と声をかけた。
あ、やべ。
僕は頭の血がサッと引く感じがした。

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