自分史コラム 結婚10年目に振り返る自分史
突然で恐縮ですが、本日10月1日、私と妻の10年目の結婚記念日「錫婚式(すずこんしき)」を迎えました。
こんな私的なことをテーマにコラムを書くのもちょっと気恥ずかしいのですが、タイトルのとおり私のライフワークは「自分史」なので、この10年という節目に、私たちの自分史を振り返って書かせてもらおうと思います。
人生の転機となった2011年
自分史は「シニアが晩年残す書籍」という認識が浸透していますが、自分史の持つ価値は、年齢を問わず、また書くことだけに留まらないということを私は常々お伝えしています。
いずれにしてもまず最初にやるのが下の自分史年表の作成。
ご覧になっていただくと分かるとおり、ヨコ軸は10年ごとに区切られた年表、タテ軸はその年にあった社会のできごとに加え、仕事や家族、友人といったような切り口に分かれており、それぞれのマスにいろいろなできごとを書き加えていくものです。今回改めて振り返ってみました。
この年表を整理していくたびに「記憶に残っていることってなかなかないもんだ」と感じますが、この3650日以上を私と妻は過ごしてきたわけです。
今回写真を遡りながら、この時間の濃さをしみじみと感じました。
結婚式をあげた2011年はご存じのとおり、東日本大震災、福島原発事故の年。私たちはこの時にすでに2年近く交際していましたが「2011年以前はなにをしていたかよく思い出せないよね」と話すほど、私たちにとって大きな変容でした。
原発事故で放射能が降り注ぎ、食物が汚染されたという事実を前に、それまでの人生の価値観が崩れ「自分らはなにをしていたんだろう」という思いが私たちの意識を大きく変えたのです。
「命は有限なのだ。それならば、悔いのないように生きたい。そのためにはお金に縛られず、恐れず、食べられるものをなるべく自分らで作る生活をしたい。」
そう強く感じたことがきっかけとなり、東京でサラリーマンとして再就職したものの、年末に退職。2013年から畑に通いはじめました。
この年に結婚式をあげたことは、私たちにとって大きな変容へのチャレンジの決意表明だったのだと今にして感じますが、すぐに仕事をやめて不安定なフリーランスに戻った私を、妻はよく支えてくれたとしみじみ思います。
私たちは当時、自分自身を振り返る余裕がなかったと思いますが、一生懸命生きている実感は感じていました。
親しい人たちとの別れ
そして2016年、デンマークとオランダへの学びの旅から帰国してすぐ、自然の多い神奈川県の中山間地に引っ越し。
地元の横浜から出ることは一生ないだろうと思っていた私たちにとって、これも大きなチャレンジでした。
家庭菜園での野菜、醤油や味噌づくりや、大きな木の伐採を手伝ったりと、忙しくも楽しくあっという間に過ぎていく暮らしのなかで少しずつ蓄積されていく生活の実感。
それは「ここにいればお金に殺されることはない」といった確信へと変わり、それは2011年以来、無意識に感じていた恐怖から私たちを救ってくれたのです。思えばこの恐怖からの脱却が、私の人生にとって最大の意識変容だったと思います。
しかしもう一つ残された課題がありました。それは親のことです。
すでに当時認知症を患い、施設に入っていた父はまだしも、実家に残った足の不自由な母はどうなるのか。
私たち夫婦にとっても大きな懸念だったわけですが、2018年に父がガンで亡くなって9ヶ月後、元気だった母もあとを追うように急死しました。
さらにその間に親しい友人が二人、これも急に亡くなりました。
立て続けに別れが続き、辛く悲しい時期でした。
ただ、いま振り返れば、妻をはじめ家族、友人らと支え合い励まし合って乗り越えてきたな、という感謝と信頼の思いがじんわりと心に滲みてきます。
自分史の講座では「過去の事実は変えられないが、過去の解釈は変えてもいい」とお伝えしています。
2018年から昨年までは、私自身がその事実に向き合う余裕はなかったのですが、いま改めてこのnoteを書きながら、その意味と価値を実感しています。
そして新たな自分史がはじまる
今年の7月からは猫の「きび」も新しい家族として加わり、私たちの生活に大きな癒やしと安らぎを与えてくれています。
いまこれを書きながら、改めて私の自分史は、妻をはじめとして本当にたくさんの人々とのなかでできあがってきたんだという感謝の思いでいっぱいです。
こうした思いを多くの人は「言われてみれば普通のことじゃない?」と思うかもしれません。
ただ過去の事実に向き合って、そこに沸き起こる、心からの思いを丁寧に感じとって言葉化するって、普段忙しいからなかなかできないもの。
そうしているうちに、そんな思いを伝えられないまま時間が過ぎていけば、いつかはその思いを忘れてしまったり、またいつ突然のお別れがきてしまうかもしれないのです。
結婚10年目の今日、この感謝を妻に伝え、読んでくれているみなさんにもお伝えし、今この瞬間を生きている歓びを分かち合いたいと思います。
また明日から、私たちの新しい自分史のはじまり。ワクワクドキドキしながら、手を取り合って一歩ずつ歩いていこうと思います。
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映画監督松井久子が編集長となり、生き方、暮し、アート、映画、表現等について4人のプロが書くコラムと、映画づくり、ライティング、YOGA等の…
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