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自分史コラム 人を引き寄せる祭りの魅力

いきなりタイトルと違った切り口ですみませんが、いろいろなところで自分史の話をして気づくのは、ほとんどの人が「自分史を特別なもの」と考えているのだということ。
よくSNSで友人があげている投稿に「それ自分史だね」というと、かなりの人が「あ、これも自分史なんだ!」という返事をくれるからです。
それには自分史ということばが当初、年配の人が晩年生涯を振り返って遺す書物として広く知られたという事実があるのだと思います。

しかし自分史は過去だけのものではありません。
現在進行形で生きている私たちの毎日だって自分史だし、これから10年先の未来も自分史。日々みなさんが何気なくあげているSNSだって自分史なのです。

言いたいのは「目の前で起きている全てのできごとが自分史だという視点をもってもらうと、日々を大事に過ごしたいという思いが強くなるよ」ということなのです。

そんな視点で日々を生きている私は先週末、京都市外の京北町で開かれた「ツクル森 あたらしいつながりの祭り」 に行ってきました。言うなれば、この祭りは私の自分史の恒例イベントになりつつあるわけで、今回はそういった視点からレポートすることにしました。

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この「ツクル森」「あうる京北」という京都府立の研修施設が所有する原っぱを会場に、アート&クラフト、オーガニックフードや世界の音楽祭といった豊富なコンテンツが、各所から勢揃いして行われる野外イベントです。

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今年が4回目で、私は去年に続き2回目の参加。昨年は友人が私をトークゲストの一人として呼んでくれたので、関西に住む別の友人にも声をかけ、参加しました。それがあまりにも楽しかったので、今年もこの祭りのためだけに京都へでかけることにしたのです。
 
しかも今年はトークに参加させてもらうだけでなく、実行委員会が設置する「ツクル森食堂」の手伝いも依頼され、京北で美味しいオーガニック料理を提供している方のチームにもジョイン。
会ったばかりのメンバーで、仕事であるにも関わらず、また最高に楽しい時間を過ごすことができました。

そこで、こんなふうに多くの人々を魅了するこの祭りの魅力はなんなのかを、去年に引き続き考えてみることにしました。

守谷

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魅力その1: 山里&無国籍のカオスなおもしろさ

京都市内から車で一時間半ほどの京北町は、鴨川の源流が流れており、太古から都をつくるための木材の中継地として栄えてきたそうです。近年は輸入木材に押され、過疎化が進んでいたところに、この美しい里山の風景に魅せられた移住者の人たちを中心にしたコミュニティができてきました。この祭りはそうした人たちの手によって始まったものです。

昨年参加した私は「なぜこのお祭りはこんなに盛り上がるんだろう、なぜ楽しいんだろう」という驚きの理由を「日本で守られてきた里山文化と、世界を俯瞰したクリエイティブな感性が融合することから生まれる無国籍感」だと書きました。


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そして今年も素晴らしいミュージシャンやダンサーの方が多数出演し、その無国籍感は健在でした。

魅力その2:クラフトコンテンツのクオリティ

そして2年続けて来てみて改めて感じたのが「ツクル森」の名前のとおり、いろいろな出店者の「ツクル」クオリティが高いこと。

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 赤黄青の三色をつかって感覚のまま描く「にじみ絵」のワークショップ。
 
オーガニックで本当に美味しいフードはもちろん、木工や楽器、にじみ絵などの参加型ワークショップ、販売品としてのアクセサリーや雑貨など、どのコンテンツもクラフトとしての質が高く、年齢や性別問わず、幅広い人が楽しめるものが揃っています。それがどのテントを見てもワクワクする空気感を醸し出しているんですよね。

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ツクル森食堂のランチプレート。ほとんどが地元を中心にしたオーガニック食材で作られている。

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ヒヨコ豆のペースト「フムス」を使ったサンド。

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地元の野菜や鹿肉を使った豊かすぎるまかない。

特に私がお手伝いした「ツクル森食堂」はじめとするフードは、無農薬有機野菜をふんだんに使った美味しいものばかり。この時だけは、全店のフードを食べられる胃袋が本気で欲しくなります。

魅力その3:土地のもつエネルギー

そして前回以上に感じたのが、京北という土地のエネルギーです。
まずその立地。電車の駅もなく、市内から町へ向かう山道は「え、この先に町があるの?」というようなクネクネロードなのですが、それを越えると突然日本の原風景である山里が現れるのです。

京北


太古の昔から、京都に必要な木材を供給して支えた土地でありながら、聞くところによると、都で敗れ落ちてきた人たちを匿うことが歴史のなかに刻まれているらしく、外部の人に対して地元の人が優しいのだとか。

それは近年になって急増している、都市部から移住したい人にとっては何よりの条件。そんな地元の人の優しさと、豊かな自然、里山が残るこの土地の空気が、この祭りに、日本人のDNAに響くものを持っているのではないかと感じました。

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魅力その4: やっぱり祭りは「人」

そしてやっぱりこの祭りの最大の魅力は「人」。恐らく今回は1日で3,000人を超える来場者があったかと思われますが、このお祭りは京北に住む8人ほどのボランティアメンバーが中心になって開催されているそうです。

私も少しばかりやったことがあるから分かるのですが、これだけの規模のイベントを滞りなく運営するのには、どれだけの仕事量が必要で、どれだけのストレスがかかるのか、想像するだけでも恐ろしいほどです。

もちろん理想だけで語れない予算の問題もあるでしょうし、そのほかにも他所から遊びに来た私に見えない問題はたくさんあるでしょう。しかしそれはこのような大きなプロジェクトには多くの人が関わる以上、避けて通れない試練。

しかし京北をこよなく愛するメンバーの、日本各地から人が集い繋がる祭りを実現したいという思いが、いろいろな問題を乗り越えながらこの祭りを成功させてきた一番のエネルギーであることは間違いありません。

その思いを出店者や来場者が感じとり協力しあうからこそ、会場のどこに行っても、なんだかみんなが感じがよく、子どもたちが安心して走り回るピースフルな空気が会場に満ちているのだと思います。

私も実行委員会の廣海ロクローさんを友人に紹介してもらったのがきっかけでこの祭りを知りましたが、彼をはじめ京北のメンバーみんなが、外部の私らをあたたかく受け入れてくれたからこそ、リラックスして存分に楽しむことができたのです。

特に今回はコロナ禍を通じ、多くの人がこれまでにないストレスや不安、恐怖を感じていたはず。だからこそ、この祭りの開催を最後まで迷いながらも、責任を背負う覚悟で決めてくれた主催者のみなさんには、感謝以外のことばが見当たりません。

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このように私はツクル森で、2日間の素晴らしい時間を、素晴らしい人たちと過ごしました。仕事があるため、終了後すぐに京都駅まで行きその足で帰ってきましたが、メンバーのみなさんは翌日の撤収をふくめ、まだまだ仕事が残っていることでしょう。

この祭りは、いまの日本で急速に廃れつつある里山文化の新しいモデルの一つだと私は思っていますし、こうした祭りが各地で継承していってほしいと心から願いつつ、今回は人を呼び寄せる祭りの魅力を、私なりに分析してみたわけです。

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日本中の里山文化が消えかけている

しかしこの祭りに参加したことをきっかけに、私は京北がいま直面している大問題を知ることになりました。北陸新幹線を福井からこの京北の地下をトンネルを掘って、京都まで延伸するという計画が進められているのです。

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朝日新聞2017年3月15日記事より

現在の着工予定は2023年度。もしここに新幹線を通すとなると、京都市を支えている豊かな水源がトンネル掘削により枯れてしまう危険性があるうえ、工事で出る大量の残土(10トンダンプ140〜160万台分)の処理、また土中からヒ素などの有害物資が掘り起こされることによる環境汚染の可能性が指摘されています。

残土に関しては、今年の10月に静岡県熱海市で起きた土石流の原因として指摘されているほか、私が住む相模原市でも、リニアモーターカーのトンネル掘削残土の問題はまだ残ったままです。

また有害物質については、北海道でも進められている新幹線の延伸工事においてすでに基準値の270倍ものヒ素が検出される大量の土が出てきてしまい、その処分について地元住民を巻き込んで問題になっているとのこと。
全国がこんな状態であるにも関わらず、京都府は「2021年8月現在、処理場の選定や処理方法についてもまだ決定していない」という回答をしているそうです。

もちろん、京北のみなさんはこの問題について知っていて、現在は計画の白紙撤回を求める署名はじめ、さまざまな活動が展開されています。
この呼びかけに賛同いただける方は、下記リンクからぜひ署名のご協力をお願いします。

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この掘削が始まれば、掘り出されたヒ素などが地下水や川の水に流れ込んでしまったり、水源が枯れてしまうかもしれない。そうすればこの京北の豊かな自然が破壊され、農業が壊滅状態になるだけでなく、京都市全体の水が汚染される可能性は十分考えられるわけです。

このような外部要因はもちろん、この美しい里山を支えてきた人々の暮らしや文化が脅かされる危険は、数値化できるものではないうえに、失われた里山文化は、二度と元には戻すことはできません。

この問題を恥ずかしながら今まで私は詳しく知りませんでしたし、京都市内でもまだまだこの計画の問題点を知らない人がいるそうです。

しかしこの京北に限らず、水俣病などの公害病、福島原発の放射能問題、北海道新幹線、リニアモーターカーなど、巨大事業に伴う問題が、実は日本全国で起き続けており、そのたびに自然や人々の健康が破壊され、コミュニティが分断され、文化が失われてきたのです。

この素晴らしい京北の里山文化を継承していくために、祭りに参加した人はただ楽しかったというだけではなく、こうした計画があることを知り、なにかしらのアクションを起こしてほしいと、このことを書かせてもらいました。

自分史は「ハッピーエンド決め打ち」で


祭りのことをタイトルに掲げながらも、書き出しは自分史で、最後は新幹線の問題と、分かりにくいコラムになりましたが、私にとってこれは全て同じ文脈のもの。
ツクル森の人々に関わったことで、将来の京北、日本をどう後世に引き継いでいくかを考えアクションすることは、私自身の自分史だからです。

冒頭で申し上げた通り、いま目の前に起きていることの積み重ねが自分史。
過去だけのものではなく、あくまでも現在進行系であり、そしてそれが未来になっていくものなのです。
 
何年後かに「京北という素晴らしい場所があったけど、新幹線の計画で変わっちゃって、廃れちゃったんだよね」というニュースを聞く未来の自分史なんて絶対に嫌だ。
いくつになっても、この祭りに大好きな仲間たちと集い、笑顔で食べ、飲み、踊り、歌う。そんな「ハッピーエンド決め打ちの自分史」をイメージし、それを実現するためにできることをしていこうと思います。

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