“LOBBY”を徹底解剖! 飲食業素人でバーを開いた彼らが好きな仕事で生きるために考えていること。
『料理通信』2020年1月号の特集は「理想の働き方を叶える店づくり 21の事例」。好きな仕事を続ける21人の店づくりにフィーチャーした企画です。
特集内でどうしても取材したいお店がありました。東京・池尻大橋「LOBBY」。きっかけは、オーナーの井澤卓さんが書いたこのnoteです。
『料理通信』には「小さくて強い店は、どう作る?」という店づくり特集があり、2009年の第1弾からこれまでに第8弾まで発行。開業資金や借入金(どこからいくら借りたか)、物件取得費、内外装工事費、坪単価や運転資金に至るまで公開した開業データは、いつか店を開きたい方々に支持されていました。この10年の店づくり特集の軌跡は編集長がまとめています。
井澤さんの投稿は、オーナー自ら開業レポートを書き綴ったものです。こんなことまで公開していいの? というだいぶ踏み込んだ内容はLOBBYという店への興味を強烈に掻き立てました。飲食業界の方々が多数反応していたのも印象的でした。
主体的かつ客観的に緻密に分析され、言葉にされた投稿を読んで、私たちがインタビューで明かすべきことなどもうないのではないか? そんな思いを抱えながらも、それでも聞いてみたかったLOBBY開業の経緯と裏側。noteがきっかけで叶った取材だったので、noteに感謝する気持ちを込めて記事を掲載全公開することにしました。(井澤卓さんの記事を先に読んでいただくとより理解が深まるのでオススメです)
本業でなくても、経験がなくても、アイデアと実行力があれば好きなことを仕事にできる。デザイン会社を経営する30代チームが手掛けるバー「LOBBY」。開業費用から日々の売り上げまで赤裸々に公開、ストリートバーという業態を打ち出す彼らが考える、新しい飲食業のあり方とは?
それでは始めます。お読みください。
『料理通信』インタビュー版――“LOBBY”の店づくり
(text by Kei Sasaki / photographs by Daisuke Nakajima)
まずはご紹介から。井澤卓さん(右から2人目)が代表を務めるデザイン会社「&SUPPLY」のメンバー。左からCOOの倉嶋歩さん、デザイナーの土堤内祐介さん、右が店長の松井涼さん。松井さん、倉嶋さんはバリスタ、井澤さん、土堤内さんは学生時代飲食店でアルバイトした経験はあるが、バーは全員未経験。カクテル作りはYouTubeで学んだ。
1|経験、思考をオープンソース化する
「店づくりの一部始終をnoteで公開することは、開業前から決めていた」と「LOBBY」オーナーの井澤卓さん。店のコンセプトはもちろん、開業資金の内訳、初期投資の回収目標年数から逆算した月単位、一日単位の売り上げ目標に対する実績、その分析まで赤裸々だ。
「飲食をやりたい、店を持ちたいという人は昔も今も多い。素人の自分たちの経験をシェアすることで、好きなことで生きていきたいという人たちのTips になればと。そのためにはちゃんと利益が出ていないとダメだし、あまりボロ儲けしててもいやらしい(笑)」。
開業から半年、幸か不幸か“ボーダーライン上”の経営が「楽しい場にしたい」という想いと相まって、店のファンづくりのコンテンツにもなっている。
▲LOBBYの入り口。右手に見える緑色のサッシが「想像以上に高額だった!」とnoteにあったのでしげしげと眺めてしまった。
2|店を始める前に「考える力」を養う
井澤さん自身、自分の店を持ちたいと学生時代から考えていた。きっかけは、中目黒のカフェでのアルバイト。ときはカフェブームで、「店はめちゃくちゃ流行ってた」。ところが10年ほど前から中目黒に大型量販店や飲食チェーンが増え、町の様子と人々の消費行動が変わっていく。そんな中、成功体験に固執して方法論を変えられず、廃れて行く店を目の当たりに。
「飲食店経営は“何を提供するか”だけでなく、町の変化に合わせて立ち位置を変えていくことが不可欠。でも、日頃から考える習慣がないと、変化にさえ気付けない。まずは“考える力”を養う、鍛える仕事をしようと就職しました」。飲食店での実務経験と引き換えにYahoo、Googleで鍛えた広告マーケティングのノウハウが「LOBBY」の経営の土台になっている。
3|飲食業をビジネスとして成立させるには?
一方、プライベートでは自宅を「スペースマーケット」に登録し、時間貸しで賃料を得ていた井澤さん。その経験から、営業時間外に店舗を撮影スタジオやギャラリーとして貸し出すことを前提に店づくりを考えた。
「都内の撮影スタジオは高額。もっと手頃なレンタルスペースのニーズは、確実にある。空間に付加価値を持たせることは、飲食店としての顧客満足度を高めることにもなるし、将来的に空間プロデュースの仕事を手掛けることを目標にしているので、投資することにしました」。
4|普通のお酒飲みをワクワクさせる
では、その空間で自分たちは何を提供できるだろう? 改めて自分を振り返ってみると、「外食は好きなのに、ちょっと高い店でもお酒はレモンサワーやハイボールなど“いつもと同じもの”を頼んでしまう」ことに気がついた。
その時思い出したのが、大好きなシドニーやメルボルンの朝食文化だ。「キッチンで働く人が多国籍だから、サラダやパンケーキなどの定番でも店ごとに表現が違って、どんな皿が出てくるんだろう? とワクワクする。20ドルでアイデアに触れることができるんです」。そんなワクワク感を、飲むのは好きだけど酒の知識はそれほどない、自分のような「普通のお酒飲み」に提供できたら。
その想いを古くから通うバーに伝え、レシピ監修を依頼。普通のお酒飲みを「置いてきぼりにしない」レモンサワーやバイスサワーに自家製漬け込み酒を使ってひと捻り加え、「期待値を上回る」味を3ケタ〜提供する。カクテルメイキングはNBA(日本バーテンダー協会)のYouTubeを見て学んだ。コンセプトは「居酒屋以上、オーセンティックバー未満」の「ストリートバー」だ。
▲LOBBYスタッフが「勝手に師事」したという日本バーテンダー協会のYouTubeチャンネル。
5|自分たちが店に立つ
バーテンダーを雇うという選択肢もあったが、コスト面に加え、まったく知らない人と働くリスクを考慮し、まずは自分たちが店に立つことにした。
「元々、つながりを持つ僕らの周りに集まってくれる人々、僕らがつくった空間に共感してくれる人々から成るコミュニティを核に出来たら、店にも作り手の想いが反映された人格が生まれると」
実際、店に立ってみると、厨房の使いにくさに気付いたり、段差の多い空間で転ばないよう照明の当て方を変えたり、外食の際にも気付くことが増えて、自分たちの血肉になっている。
6|思考停止をやめる
「寒さや暑さなどあらゆる要因が客足を左右するのが飲食業。売上が悪い日は正直不安になるけど、それを“仕方ない”とするのは経営じゃない。収益を方法論から考えられるのは、ビジネスバックグラウンドがある僕らの強み。毎日LINE でやりとりする日報、PLも毎日集計し、週に2度のミーティングで、マインドセットを社員間で共有しています。LOBBYをきっかけに生まれたデザイン案件の利益もお店のメンバーに還元して、長時間労働、低賃金が当たり前の飲食業界を変えて行きたい」。
飲食業は一番身近でリアルな会社経営。上場企業と同じで「日々の収支を公開することは何のデメリットにもならない」という。
▲井澤さんが見せてくれたある日の日報(名前や金額はここでは〇〇に)。
7|好きなことで生きていけることを示したい
現在、事業の最前線である飲食業の売り上げは30%、ほかにも広告マーケティングやコンサルタント、壁画制作など複数の事業で会社としての経営を成り立たせている。
「技術や経験、十分な資金がなくても、マーケットのギャップを見つけてアイデアを組み合わせていく実行力があれば、仕事として成立させられることを実証したい。LOBBYは空間プロデュース、ゆくゆくはホテルを手掛けたいという僕らの夢を実現させるショールームでもあるから、お客さんもスタッフも楽しく働ける店を続けていくことが大切。そのための方法論を日々考え続けています」
8|LOBBYの空間づくり
――物件の持ち味を残す
なぜか隣の物件の配線が埋め込まれたまま途中まで壊された壁を活かした内装。お金をかけても作れない、「再現性のない空間づくり」をテーマに。
――壁は自分たちでペイント
通りから路地を入った奥まった立地。自分たちでペイントしたブロック塀や大きな窓ガラス越しに見える店内の壁画が店への動線に。&SUPPLYの壁画制作事業のショールームとしても機能する。壁画のないプレーンな壁は、アーティストや写真家に貸し出すギャラリースペースに。飲食目的以外で訪れる人の流れを作る。
――席ではなく段差に腰掛ける
広場で座れるところを見つけるように、席ではなく空間に段差をつくって自由に過ごしてもらおうと考えた土間スペース。用途を限定しない空間はスペース貸しにも好都合。
――なめらかな手触りと曲線
手が触れるところは無垢材を、グラスを置くところは耐水性のある石砂利を流して磨いた人造大理石仕上げ。「理由のあるデザインをしたい」と土堤内さん。
――側面も魅せるカウンター
ベンチに腰掛けた目線から眺めると、カウンター側面の意匠が目に入り、脚付きの美しい家具のよう。飲食店のバーカウンターというよりホテルのロビーを思わせる。
――デザイン力を物販につなげる
オープン当初からTシャツやバッグなどデザイングッズを販売。チャージなし、お酒やフードの単価も低いので、グッズ販売のインパクトは大きい。今後も増やして行く予定
――キービジュアルを作る
アーティストに店のキービジュアルを依頼し、コースターに。キービジュアルがあることでSNSでの拡散力が高まる。コースターを持ち帰る客も。
――ラムハイボールとバイオレットレモンサワー
ゴールドラムにパインを浸漬させ、黒糖を添えたハイボール(900円)。バタフライピーを漬けたウォッカをレモンジュースとハイサワーで割り、仕上げにすみれのスプレーを(800円)。
◎LOBBY
東京都目黒区東山3-6-15 エビヤビル1F(東急線池尻大橋駅より徒歩5分)
19:00 ~翌1:30LO/日曜、月曜休
TEL:03-6303-4814
Web:https://linktr.ee/lobby_ikejiri
instagram:https://www.instagram.com/lobby_ikejiri/
(『料理通信』2020年1月号「理想の働き方を叶える店づくり21の事例」P.54~55「飲食業素人でバーを開いた僕たちが好きな仕事で生きるために考えていること。」より転載)
【緊急告知】 LOBBYで読者イベントを開催します! 12/22(日)
LOBBYのインタビューは2時間以上に及びました。撮影は別日に設けていたため、ひたすら話を聞くことに徹した2時間強(通常の取材は約1時間が目安です)。編集を担当していた編集長・曽根が取材を終えた数日後、「彼らから、学べることがたくさんある」と口にしました。
そしてその手法は、私たちももっと突っ込んで聞いてみたい(そして自分たちの仕事にも生かしたい)。
LOBBYの店づくりには経営視点の方法論も、PR視点のメソッドも、“好きなことで働く”という生き方も、まだまだ聞きたいことが山積みです。
井澤さん曰く、「noteでの記事公開の目的は経験をシェアするため」。ならば、皆さんと一緒にリアルに経験をシェアできる場を設けたいと企画しました。そしてこれは、「note、はじめました」記念イベントでもあります。
店づくりに興味がある方、何から始めたらいいかわからない方、『料理通信』の店づくり特集が好きな方、『料理通信』は知らないけれどnoteが大好きな方(おそらく、note好きな方にも楽しんでいただける内容になるはず)、ぜひご参加ください。リアルだからこそ聞ける経験談をシェアしましょう!
当日は、LOBBYの井澤卓さんをゲストに迎え、編集長・曽根清子による公開取材のような形で進行します。小規模な会にして、生々しい質問にもとことんご回答いただこうと思っています(何でもお答えします! とおっしゃった井澤さん、どうかご覚悟を!)。1時間半のコンパクトなイベント、2019年の締めくくりにぜひご参加ください。
【日時】2019年12月22日(日)13:00~14:30
【場所】LOBBY(東京都目黒区東山3-6-15 エビヤビル1F)
【参加人数】15~20名(調整中)
【参加費】2500円(税別・ワンドリンク付き)
▼お申し込みはこちらから(peatix)
▼読者イベントには参加できないけれど「こんなことを聞いてみたい」という方がいらしたら下記いずれかの方法で質問だけでも受け付けます。(回答を得ることができたら、noteでレポートしますね!)
①メール( info@r-tsushin.com )宛に「LOBBYの井澤さんに質問」と題して内容をお送りください。
②twitterに「#料理通信 #店づくりの質問 」とハッシュタグをつけて、質問内容を投稿してください
③この投稿のコメント欄にご記入いただいてもOKです!
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