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100年後、料理を作っていられるか? 「Restaurant Sola」吉武広樹さん

photograph by Sakura Takeuchi

シリーズ【飲食店は何のためにあるのか?】

パリ「Sola paris」でミシュランの星を獲得した後、東京ではなく、福岡を拠点に「Sola Factory(ソラファクトリー)」として活躍する吉武広樹シェフ。地方都市に店を構えたことで生産者との距離が近まり、その仕事と現場の実情を知ることに。環境に負荷をかけないレストランのあり方を考えて実践することが、料理人の地位を向上させ、レストランの未来につながると考えています。

※本シリーズは追ってWeb料理通信に掲載予定ですが、一足先にnoteで連載をスタートします。

▶問1 現在の仕事の状況

あきらめず、動き続ける

国の要請に従って営業しています。1回目の緊急事態宣言発出直後から1万円のオードブルセットの販売を始めました。もともと、フランスで機内食の製造をやっていた経験から衛生管理、大量仕込みのノウハウがあり、日本で店を開くときに、惣菜製造ができるように厨房を設計し、惣菜製造業、菓子製造業の許可も取得していました。東京ではなく福岡のこの場所を選んだのは、十分な広さの製造拠点が確保できるという理由もあります。

休業する選択肢もありますが、やり続けることに意味があると思いました。どこにどんな需要があり、それに対して何ができるか、みんなで考えれば、どんな状況下でも答えを見出せると僕は思う。でも、一度思考を止めてしまうと、今後同じような局面でなにも出てこなくなる。とにかくあきらめずに、休まず動き続けました。

国のコロナ対策に、ただ反発するのでは先に進めないと思います。僕たちは海外で店をやってきて、アジア人だから、日本人だからというだけで、いろんな理不尽な目にあってきました。抗議したところで、その国にいられなくなるだけなんです。自分たちの意見に耳を傾けてもらうには、結果を出すのが一番の近道。僕たちの場合はミシュランの星をとることで、フランスで存在を認めてもらえた。だから今回も僕たちは、理不尽なルールだと思っても、要請に従って営業を続けます。テイクアウトとデリバリーでSolaの料理をたくさんの人に届けることを目標に、通常営業と同じ利益を出せたらと思っています。

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スタッフの半数がパリ時代に機内食製造を手掛けた精鋭チーム。1回目の緊急事態宣言下に、1万円のオードブルセット(写真)を1カ月間で650セット販売した。新商品「Solaのフルコースセット」は、新たに導入した冷凍システムを用いて全国配送が可能になった。同じ施設内(ベイサイドプレイス博多)に製造拠点を増設する予定で、営業許可を申請中。
(photograph by Sola Factory)


▶問2 あなたが考える「飲食店の役割」とは?

飲食店は地球にどんなメリットがある?

スタッフ11人で20名様のためのコース料理を作るのって、なんか時代とずれている気がします。飲食店をやることは、地球環境に対してどんなメリットがあるんだろう? コロナ禍になって、いっそう、自分たちの存在意義を自問するようになりました。

飲食店にはお客様の活力や喜びになる役割がありますが、それは人間社会でのメリットでしかない。結局、すべては資本主義の上に成り立っていて、常に“人間ファースト”。このまま食べ手の欲望のために料理を作り続けたとしたら、僕たち料理人は100年後も変わらず料理を作っていられるのでしょうか?

いつか営業できなくなる日が来るのではと不安を感じます。人口増加で食糧難が起こったとき、真っ先になくなるのは僕らのような客単価の高い店なのかもしれません。

▶問3 これからの時代、飲食店が存続するために必要なことは?

できることから始めて大きな波に

それでもやはり、レストランに行きたいというお客様の思いや、お客様の活力になれる側面も捨てられない。レストランの魅力、エンターテインメント性を維持しながら、自分たちの存在がマイナスにならず、どうやったらゼロにできるのか、日々考えています。

僕らが営業することによって、膨大なごみが出るんですよ。食材は段ボールで届き、全部が個別包装されている。レストランを運営するにはたくさんのエネルギーが必要で、薪火で調理しても二酸化炭素は出ます。自分が言っていることと、実際にやっていることに矛盾を感じます。水産資源問題にも取り組んでいますが、これもなかなか難しい。資源が豊富にあるリストから選ぶとなると、使える魚の選択肢が少なくなってしまう。言えば言うだけ、自分の首や漁師さんの首を絞める状態なんです。

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魚の乱獲を防ぐ「ブルーシーフードガイド」の取り組みに賛同。サステナブルなレストランのかたちを模索し、食材はSolaの活動に興味を持ってくれる生産者から仕入れる。(photograph by Sola Factory)

それでも、まずはできることからと、店のごみをゼロにすることを目標に、コンポストを始めました。できた堆肥を使って農家さんに野菜を作ってもらい、その野菜を料理にする循環システムを作りたいと考えています。

使う食材も、以前は鮮度、サイズ、産地など細かく指定していましたが、今は「こだわらないことがこだわり」です。生産者さんにとって、料理人の要求に応じた食材を安定して供給することは簡単ではありません。お客様のためを思って料理人が食材を厳選する裏で、流通に乗せられない食材を生み出してしまう。本来、料理人の技術をもってすれば、多少傷があっても、形がいびつでも、その時期にとれたどんな食材にも臨機応変に対応することができるはずです。

コロナ禍による余剰食材を無駄にしないために、冷凍、熟成、いろいろな技術をスタッフみんなで調べて試作するなかで、冷凍技術の進化を知りました。プロトン冷凍(注)という、素材を壊さない冷凍庫を導入し、毎日の営業からテイクアウト商品の製造まで、フル稼働しています。

これまで、僕も含めてレストランは冷凍技術の進歩を無視してきました。食材に敬意を払い、新鮮な食材の良さをいかに引き出すかが料理人の使命であり、志が高いほど、食材を冷凍することはその思いに反するからです。でも、冷凍技術を使えば、豊作のときにまとまった量を仕入れて管理できます。余剰食材の救済になり、不漁、不作による価格変動の影響も受けにくくなります。

注文に応じて解凍すれば食材ロスも少なくなる。今(緊急事態宣言下)みたいにレストランの予約数が少ないときは、惣菜の製造に人員をシフトするなど、労働力の効率化にもつながる。雇用を維持し、労働環境をよくするために、どんな状況下でも安定した収入を得られるシステムづくりにも、冷凍技術は有効です。

NYの三ツ星レストラン「Eleven Madison Park」がヴィーガンメニューに転向したり、世界のスタンダードは確実に変化しています。完全にプラントベースである必要はないけれど、肉、魚の供給が合うところまで使用量を減らす努力をするような、料理人の意識改革が求められているんだと思います。

SDGsが社会の大前提になったように、店の大小を問わず、飲食業全体で共通意識を持ち、簡易な取り組みからでもいいからそれぞれの店でできることを考えれば、飲食業界を変えるシステムができると思います。ものすごく労力がいるし、結果もすぐ出てこないし、お金にも変わらないけど、それをやることが未来につながっていくんじゃないか。一人ひとりができることから始めていかないと、大きな波には変わらない。そう思っています。

(注)均等磁束・電磁波・冷風をハイブリッドした急速凍結技術。食品の細胞の破壊を防ぎ、食品本来の鮮度や食感を保つ。

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博多湾に面した広いデッキでハーブ、トマト、ナス、ニンジンなど野菜を栽培し、コンポストも設置。「立地を生かし、将来的には太陽光や風力による自家発電システムを作りたい」

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厨房で使う薪は、2017年の九州北部豪雨による流木や倒木の災害ごみを活用。

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ある日は、食材が納品される段ボール箱を裁断してメニューにリサイクル。(photograph by Instagram:@solafactory)

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photograph by Sola Factory

吉武広樹さん
佐賀県生まれ。「ラ・ロシェル」で修業後、1年間で世界40カ国を訪れる旅へ。2009年シンガポールに「HIROKI88 @Infusion」を開店。2011年パリに「Sola paris」を開店し、ミシュランガイドで一ツ星を獲得。14年RED U-35大会グランプリを受賞。18年現店開店。

◎Restaurant Sola
福岡県福岡市博多区築港本町13-6
☎092-409-0830
18:00~23:00(20:00LO)
日曜休
https://sola-factory.com/
*営業時間や営業形態は状況に応じて変わります。

Facebook: @Sola Factory
Instagram:@solafactory


Web料理通信|未来のレストランへ

食のプロたちに飲食店の存在意義や尊厳を問い掛けていくシリーズ「飲食店は何のためにあるのか?」をWeb料理通信にも公開しています。2020年4月の緊急事態宣言を機に生まれたシリーズ「未来のレストランへ」では、度重なる営業自粛を求められる中、飲食店の多くが要請に従うと同時に様々な策を講じ、“制約を逆手に創造に挑む”発想力と底力を取材しています。


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