オリンピックの裏側で繰り広げられる、もう一つの戦い


こんにちは。Spportunityのスタッフです。
7月23日から、東京オリンピックが開催予定ですね。筆者は学生時代に競泳をやっていたこともあり、競泳種目は全レース観ているのですが、レースと同じくらい注目していることがあります。

それは、道具、つまり競泳水着の進化です。男性水着に絞って、これまでの変遷を思い返してみました。


■2000年のシドニーオリンピックまで
この頃は、男性水着はブリーフ型、いわゆる「ブーメランパンツ」から、ハーフスパッツ、足首まであるロングスパッツまで面積が拡がる流れでした。背景にあったのは、水着の素材の撥水性を高め、水着に水を滑らせて水分を含ませないようにする技術があります。水着で覆う面積が多い方が抵抗が少なく、速く泳げるという考え方が拡がっていきました。
この頃の男性の競泳水着は、ハーフスパッツだと8,000~10,000円、ロングスパッツで12,000~15,000円でした。

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■2004年のアテネオリンピック
水着の面積はどんどん広くなると同時に、メーカーも拡がりを見せています。シドニーまでは、ほとんどの競泳選手SPEEDO、ARENAの水着だったと思います。北島康介選手が平泳ぎで2冠を取った大会でもありましたが、その他に記憶に残る選手としては手首・足首まである全身黒のボディースーツのような水着を着て自由形の200m・400mで優勝した、イアン・ソープ選手ではないでしょうか?イアン・ソープ選手が着用していた水着は、アディダスでした。
この頃の男性の競泳水着は、ロングスパッツで15,000円前後でした。まだロングスパッツが主流でした。


■2008年の北京オリンピック
北島康介選手が2大会連続の2冠を成し遂げた大会でしたが、大会前から水着が注目されていた大会でした。
「レーザーレーサー」という水着、記憶にある方も多いのではないでしょうか?いわゆる「高速水着」時代の幕開けでした。

高速水着の特徴は、「着圧」と「素材」と「姿勢維持」です。
競泳というスポーツは、常に水の抵抗を受け続ける競技です。水の抵抗は、推進力の高まりと比例して大きくなります。なので、速く泳ぐためには、泳ぎの技術を上げて推進力を高めることと、抵抗の少ない姿勢で泳ぎ続けることです。抵抗の少ない姿勢というのは、ボートのように先端は細く、水面に並行でまっすぐな姿勢です。レースで選手がスタート台から飛び込んだ後、腕を伸ばして両掌を合わせて槍のような姿勢を取っているシーンを見たことがある人もいると思いますが、あれが抵抗の少ない姿勢です。疲れてくると、下半身が沈んできて、抵抗を受けやすい姿勢になっていきます。

この抵抗の少ない姿勢に多大な貢献をしたのが、高速水着でした。
高速水着の特徴の一つに、「着圧」があります。一言でいうと、ものすごくきついんです。水着で身体を締め付けて、出来るだけ人間の体積を小さくして、抵抗を少なくしています。また、体がまっすぐになるような縫製をしています。なので、着るだけでまっすぐで抵抗を受けづらい姿勢を取れるようになります。ただ、あまりにもきついため、洋服のように一気に着ることができません。足首を通した後(足首を通すのもきついのですが・・・)、少しずつ水着を上にずらして上げていきます。素材自体が薄いので、力を入れて引っ張ると切れてしまうので、少しずつは必須です。これだけきついので全身水着は一人では着れず、誰かに手伝ってもらわないと着れない、という信じられないような話もありました。ちなみに筆者もロングスパッツは使っていたのですが、ロングスパッツでも着るまで30分くらいかかりました。
この後、ラバー素材という、素材の進化も起こります。ラバー素材とは文字通りゴム系の素材で、他の水着の素材と比べて、浮力があり体を少しだけ浮かせてくれる効果がありました。メーカーも、SPEEDO、ARENAに加えて、JAKED、MIZUNO、BlueSeventy、TYR、NIKEなど、拡がりを見せました。
筆者もラバー素材の水着は使っていましたが、体を動かさないでただ水に浮いた時に、ラバー素材だと下半身が浮きますが、その他の素材だと少しずつ下半身が沈んでいきました。違いははっきりと体感できました。

ちなみに高速水着、全身水着の価格はなんと1着60,000円!
この頃から、水泳は道具にお金がかからない、リーズナブルなスポーツではなくなってきました。。。

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北京オリンピックやこの翌年2009年の世界水泳(ローマ)であまりにも多くの世界記録が出たため、水着のルールが厳格化。
2010年からは、着用面積や素材のルールが定められ、男性の競泳水着はひざ丈まで、つまりハーフスパッツに戻ります。素材も、ラバー素材は禁止となりました。

ただし、ハーフスパッツになっても「着圧」はそのまま。
壁を蹴る時の力を上げる効果があるなど、付加価値ともいえる技術の競争は、まだまだ続いています。


4年に一度のオリンピックは、次のオリンピックまでの4年間、
ある意味レース以上に熱い競泳水着の技術の戦い。東京オリンピックでは、水着にも注目してみてはいかがでしょうか。


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