今週の米国経済の振り返りと来週のポイント
米国 物価指数の高騰がFRBへのプレッシャーを高める
今週は3月の強い雇用統計やその他のデータにより、FRBに早期利上げを求める圧力が強まる一方です。2年債と10年債の利回りのスプレッドは発表後すぐに反転し、トレーダーは引き締め時期の加速を予想しています。
市場は現在、5月の50ベーシス利上げを完全に織り込みつつあり、FOMCがこの機会を捉えて金融引締め政策を加速させることを想定しつつあります。
高止まりするインフレの中でFOMCはタカ派色を強めており、政策当局が経済成長を損なわずにインフレを目標値に戻せるかどうかが最も重要な問題で、今週のイールドカーブの反転は、FRBが今回の金融引締めでソフトランディングを達成できるという確信が市場から失われつつあることを示唆しています。
3月のISM製造業景況指数は57.1に低下し、サプライチェーンの問題、高いインフレ、生産のボトルネックなど、改善を期待する構成要素は改善とは逆の動きを見せています。
3月のサプライヤー出荷指数は65.4と低下しており、上位6業種のうち、5業種(機械、コンピュータ・電子製品、化学製品、食品・飲料・タバコ製品、輸送用機器)が納入の鈍化を報告しています。回答企業からのコメント欄では、ほとんどの業界で供給問題が続いている、若しくは悪化していると回答しており、こうした企業側の懸念が伺えます。
支払価格が11.5ポイント上昇し87.1となったことで、インフレ圧力の高まりから、5月にFRBが50bpsの利上げへ向けての後押しとなったかもしれません。新規受注と生産はともに減少し、すべての受注残のキャッチアップのタイミングに疑問符がつきます。これはパンデミック期で2番目に高い数値であり、工場がようやく必要な人員を確保できるようになったことを示す兆候です。
FRBが労働市場の動向に細心の注意を払っていることは確かですが、FRBはその一つの使命である高インフレ抑制により強い関心を寄せています。ISMの支払価格構成要素の上昇は、サプライチェーン全体で価格圧力が続いていることを示唆しており、消費者物価の上昇に拍車をかけることになると思われます。
2月のPCEデフレーターは前月比0.6%上昇し、前年同月比では6.4%に上昇しています。
しかし、インフレが家計を圧迫するようになっても、最新のデータによると、消費者は物価の高騰に直面しても冷静さを保っているようで、2月の消費者心理は、現状認識が改善され、堅調な雇用市場が物価上昇の負担を軽減するのに役立っていることから、少しずつ上昇しています。しかし、所得は物価上昇に追いついておらず、2月で7ヵ月連続、物価上昇率が所得を上回っています。実質可処分所得が減少傾向にあることは、物価上昇によって消費者の購買力が損なわれていることを強調しており、今年、個人消費がかなり急速に減速すると予想される主な理由となっています。
米国 3月の住宅ローン金利は加速度的に上昇
今週、30年物住宅ローン金利は4.67%に達し、3年以上ぶりの高水準となっています。フレディマックの3月31日の第一次住宅ローン市場調査によると、30年物住宅ローンの金利は2022年も急騰を続け、現在30年物の平均は年初来で1.56%ポイント上昇しています。これは1987年以来、3カ月間で最大の上昇幅となっています。
先週の4.42%から25bps上昇したことで、30年物住宅ローン金利は2011年2月以来の水準である5%の大台に直ぐにでも届く勢いとなっています。
FOMCでの25bpsの利上げとインフレ抑制のためのタカ派的な取り組みを受けて金利が加速し、年初来の上昇分の半分以上が3月に発生したものです。
今回の引き締めサイクルでは、FRBは今年中に債券購入額を縮小し、最終的にはバランスシートを縮小する計画について予め表明しています。5月のFRB会合ではバランスシートの縮小が議題に上っており、FRBのMBS備蓄はまもなく解消され、今後住宅ローン金利が上昇する余地が広がる可能性があります。
加熱する住宅市場は回復力があるとはいえ、住宅ローン金利上昇の影響をまったく受けなかったわけではありません。住宅ローン申請件数は2月に低迷しましたが、3月にはやや持ち直しています。
金利の急上昇は、当面、購入者の固定化を促すことになり、住宅価格の上昇とともに住宅市場には逆風がもたされる可能性が高くなります。
住宅ローン金利の上昇は長期的にはアフォーダビリティ(注1)を損なうことは間違いないが、特に、初めて住宅購入を検討する購買層がすでに金利上昇によって、住宅購入を敬遠し始めています。
全米不動産協会の住宅アフォーダビリティ指数は1月に143.0を記録し、パンデミック以来最低となり、2021年1月に見られたパンデミックでのピークから40ポイント以上低い水準となっています。この指数は、リーマンショックによる金融不況以来の最低水準に近づいており、住宅購入者が直面する支障が増大していることを示しています。
新築住宅、中古住宅ともに金利上昇が販売に影響を及ぼすと想定され、4月以降の住宅指標の推移から景気動向を推し量ることにもなると思われます。
ユーロ圏のインフレ率は引き続き加速
ユーロ圏のインフレ率は3月にさらに加速し、過去最高を記録しました。ヘッドラインCPIは前年比7.5%と予想を大きく上回り、ロシア・ウクライナ紛争に伴う原油価格の高騰がエネルギー価格の44.7%上昇の主な要因となっています。
コアCPIは3.0%に上昇し、サービス業も2.7%に上昇し、ユーロ圏のインフレが急速に進んだことで、欧州中央銀行(ECB)は緩和的な金融政策スタンスが相応のタイミングで移行することになると思われます。実際、ECBの債券購入のテーパリングは加速し、量的緩和は7月に終了し、預金金利の初期引き上げが年末までに実施されると思われます。ECBの金融政策の調整は、成長見通しがややまちまちであるにもかかわらず想定されており、経済活動の混迷を反映してか、今週のユーロ圏の3月の経済信頼感が108.5に低下し、製造業が10.4まで低下し、サービス業は14.4まで上昇しています。
来週の注目イベント
米国 貿易収支-4月5日(火)
米国の1月の貿易収支は、12月の819億ドルから897億ドルに減少し、過去最高を記録しました。輸出(-1.7%)は輸入(+1.2%)より減少しています。
輸入の大幅な増加は、物価が急上昇しているにもかかわらず、国内の消費者の需要が非常に高いことが主な要因となっています。
輸出については、サプライチェーンの混乱が続いているため、輸出額は減少していますが、年明けには若干の緩和が見られるようになりました。
ロシアによるウクライナ侵攻が米国貿易に及ぼす直接的な影響は極めて小さいと思われますが、エネルギーに直接または間接的に関連するカテゴリーの動向を注視していく必要があります。
2月の貿易統計では、財貨輸出(+1.2%)が財貨輸入(+0.3%)を上回る伸びを示しています。そのため、2月の貿易収支は-881億ドルに縮小すると予想されています。全体として、ウクライナ戦争が欧州経済に及ぼす間接的な影響は、今年の輸出全体の伸びを圧迫すると思われ、米国の貿易ギャップを安定化させる輸出の正常化にはまだ時間がかかると思われます。
ISMサービス業PMI-4月5日(火)
2月のISMサービスPMIは56.5で、前月比3.4ポイント低下しまし、2020年当初のパンデミックによるロックダウンから脱却して以来最も低い拡大ペースとなっています。
今後の見通しとして、3月のISMサービスPMIは2月の56.5から60.0に上昇すると予想しています。この上昇は、厳しい経済環境に対して直感的でないように見えますが、サプライヤーの納期が長くなり、それがヘッドライン指数を押し上げるように現れると思われます。平時には、サプライヤーの納期が遅くなることは、一般的に景気回復の兆しです。しかし、現在では、中国での新たな操業停止やウクライナでの戦争が、世界のサプライチェーンにさらなる圧力をかけており、納品がさらに遅れ、価格がさらに上昇する可能性が高くなっています。
FOMC議事要旨-4月6日(水)
FOMCは3月15-16日の会合で、25bpsの利上げを決定しました。FOMCは、主要な経済指標と政策の方向性について、現職の委員全員が個別の見通しを提出する四半期ごとの経済予測の概要(SEP)を発表しました。また、2022年の利上げ幅は中央値で175bpsと12月の75bpsを上回っています。このように、SEPはFOMCが政策的にタカ派的なスタンスを採用していることを示しています。
利上げ以外にも、1月の報告書で述べたように、バランスシートの縮小も金融引き締めの一形態として機能します。前回の会合の声明では、「委員会は今後の会合で財務省証券と政府機関債、政府機関モーゲージ担保証券の保有額の削減を開始する見込みだ 」と述べており、さらに、パウエル議長は水曜日に公表される予定の議事録にバランスシートの縮小に関する追加情報が含まれると示唆しました。
市場ではこれまで、FOMCが6月にバランスシート縮小を決定すると予想していましたが、今回の声明は、今後数週間の展開次第では、5月3~4日の次回会合で発表される可能性が大いにあることを示唆していると思われます。
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