第20回 えほん大賞に応募しました
おはこんばんにちは。人の顔を描く際の書き順にならうと「へのへのもへじ」が「じののもへへへ」になる Team:Clutch のかめです。
どこか汚れた鼻先を手の甲で拭って照れ隠しする少年を彷彿とさせる音感になりました。皆さんはへのへのもへじにどんな書き順やイメージをお持ちでしょうか。
じののへへもへ? ののへへじへも? じのへのへもへ?
気になるところではありますが、本題入ります。
今回、ボタンズの新しい物語はお休みです。
はじめに、一つ報告をば。
こちらの物語なのですが、少々手直しした上で折よく開催していた(といいつつ見据えていた)第20回えほん大賞ストーリー部門に応募してきました。
この記事では、ボタンズものがたり『われたボタン』について、少々振り返りをしようと思います。
というもの、この物語は
世界観をメンバー内で共有している。
絵本媒体に向けた文章を書く。
という初めての状況下で書き進められたものでした。
手探りで進めた部分もありましたが、プロジェクト開始時点で予想のつく障害もありましたので、それらに対しては事前に工夫して本番に当たりました。
この記事では、以降の物語をより良くするために、それら工夫とその結果を振り返って見ようと思います。
振り返りのためのプロセス
がむしゃらに工夫してもあまり効果的ではないので、以下のような動き方ができるよう手段を講じていきました。
素早く初稿を完成させる。残った時間で推敲を重ねてクオリティを高める
と言いつつ、工夫のための考え方は結構基本的なことでして
絵で言うならば、
テーマ
コンセプト
ラフ
カラーラフ
線画
色塗り
完成
といった具合にプロセスを分けるように
アイディア出し
ログライン
ストーリーライン
初稿
推敲
完成
と物書きのプロセスを区分して、それぞれのフェーズがしっかり形になるためにはと考えていきました。
以降、書くフェーズ毎に振り返っていきます。
アイディア
ボタンズの世界観や設定はちゃんとすり合わせないといけないと言った手前ですが、この時点では特にアイディアのフォーマットや制限は設けませんでした。
一点だけ、複合的なアイディアは記載せず、分解して最小単位のアイディアを記載しています。
書きたい)セサミに釣り竿を使わせたい
キャラ)いたずら好きのセサミ
知りたい)ボタンズの住む世界のこと
書きたい)着脱可能な命(ボタン)
書きたい)死んでても、生きてても、表情が変わらない
知りたい)ボタンズたちの材質
知りたい)スティッキーがツギハギの理由
……etc, etc.
などなどメンバーが各々の持っている「知りたい」や「書きたい」をベースに、どんどん発散させてリスト化していきます。
自分には思いもよらなかった切り口や視点がアイディアを通して出てきたりするので、後述のログラインやストーリーラインの厚みが増すことができたり、この時点ですでにボタンズに対する認識齟齬が発生していることがわかったりしました。
あと純粋に楽しいです。ビデオ通話などで駄弁りながらアイディアを積み上げていくとなお良しでした。
ログライン
ログライン = これから書く物語を一言で表すと?
最小単位のアイディアを書き連ねた理由は、アイディアの組み合わせパターンで、いろんなログラインを書くためです。
プロット作成や物語制作に進む前にこのログラインを作成することで、物語として書く価値のある物語の種を選別できます。
面白いかどうかも一つの指標ですが、それ以外にもこれからアウトプットする媒体に適した文量や書き方ができそうかなども指標として組み込むことができます。
汚れた体を洗面器にたまった雨漏りの水で洗う物語
セサミが仲間思いのフラットニーに奪われたスティッキーのボタンを取り返す物語
例として、上記のような2つのログラインがあったとします。
前者は人間でいうと日常における一つのシーンが書き綴られる予感がします。感情的な起伏や、なにかすごいことが起きそうな感じはなく、どちらかというボタンズたちって入浴するの? 入浴の仕方は人間と何が違うの? という知識の隙間を埋める小話の粒度感です。
後者は『われたボタン』のログラインになります。明確に事件と解決が起きており、(ボタンがボタンズの命である前提を共有した上ですが)仲間思いのフラットニー&奪われたボタンというミスマッチ感を深ぼることで感情的な起伏生み出せそうですし、絵としても魅せられる場面が多そうです。
後者は絵本の形にしましたが、前者はショートショートとして素早く書き上げNoteなどで公開するのに向いていそうです。
このように複数のログラインの中から、これからアウトプットしようとしている媒体に適切なものを比較検討できます。
もう一点、現状まだアウトプット媒体に合っていなくても、アイディアを追加で組み込んだり、ログラインの要素を別のアイディアに組み替えたりすることで物語の種をより洗練することができるようになります。
先程の例を上げると、絵本としてアウトプットする場合
汚れた体を洗面器にたまった雨漏りの水で洗う物語
+
知りたい)スティッキーがツギハギの理由
知りたい)ボタンズたちの材質
キャラ)いたずら好きのセサミ
といった組み合わせなど考えると、事件性を予感できますし、気になる謎を提供しつつボタンズの日常部分も組みこまれたログラインにできそうです。
この様な感じでログラインを増やしつつ、クオリティをあげていきました。
ストーリーライン
ストーリーライン = プロット(ビートシートもどき)
ビートシートとは物語を15個の重要場面で構成するプロットです。四幕構成(起承転結)の親戚だと思っていただければと。
ビートシートの生みの親ブレイク・スナイダーさんが書かれた本が以下にありますので、詳しい事を知りたい方がいましたら是非読んでみてください。
ではなぜもどきと銘打ったか。
それはビートシートは110分長の映画向けに提唱されているものであり、絵本などの文量に当てはめると各項目の粒度が細かくなりすぎるように感じたからです。
そのため、項目を半分ほどにしたものを用いることにしました。
ボタンズものがたり『われたボタン』を例にすると、
■ オープニング・イメージ(1)
○ セサミとスティッキーだけの遊び場。どこか物足りなさがありそう。
■ セットアップ(1~3)
○ フラットニーがスティッキーのボタンを奪う。
○ セサミとフラットニーのチェイス。
■ 第一ターニング・ポイント(4)葛藤、問題を提示
○ セサミ、フラットニーに追いつきボタンを取り返すが奪われた原因判明
○ フラットニーはパフを助けたかった。
■ テーマの提示(5)
○ 楽しさのためにスティッキーを助けるだけでいいのか。
■ お楽しみ(6~7)
○ パフのボタンを探してみるがやっぱり見つからない。
■ 第二ターニング・ポイント(8)葛藤、問題の揺り戻し
○ 諦めなくちゃなのか。うつむくフラットニー。
○ セサミの機転、セサミが接着剤を取ってくる。
■ フィナーレ(9~10)
○ セサミとスティッキー、フラットニーがそれぞれのボタンを1/4提供する。
○ 3/4 のボタンが 4 つ出来上がり、晴れてパフも生き返る。
■ ファイナル・イメージ(10)
○ セサミ、スティッキー、フラットニー、パフの遊び場に。楽しそう。
といった具合です。
物語構成の不足を見つけ、埋める
平坦で面白みの欠ける物語になっていないかを判断する
メンバー間でストーリー構成の合意形成を行う
メンバー間で物語の評価基準や粒度を揃える
こちらのプロセスは上記のような効果を狙って導入しました。
結果としては意図通りに働いてくれたほか、他にも以下の点で思いがけずうまく機能したようでした。
メンバー間での致命的な認識齟齬を発見する
ストーリーラインを埋める過程で、設定の甘さを潰す
実を言うと、空からものが降ってくる場所もセサミの遊び場もメンバーとの間で盛大に齟齬しまくっていた部分で、こりゃやばいと、みんながラフスケッチを持ち寄って最大限納得できるよう互いに歩み寄った経緯があったりします。
↑ ギギの設定ラフ
動物性タンパク云々はボタンズの世界のことではなくネタ落書きだそう。
実を言うと、私(かめ)が初め抱いていたボタンズの世界は空からモノの降ってくる場所(上記で言うゴミ山)で閉じていました。WALL-E のような乾いた風景イメージであり、植物や水といったボタンズ以外の命が調和する空気というのが想像できませんでした。
↑ かめの設定ラフ
上記のラフを描く過程で、『世界にはボタンズ以外の命もある』『ゴミ山ではなく空からモノが降る場所』『スケール感』などの齟齬に対する歩み寄りが行われました。
Notion で色々まとめる
アイディア、ログライン、ストーリーラインまでを進めるにあたっては Notion というサービスがうまくワークしてくれました。
サービス内の Board View 機能を用いて、アイディアからストーリーラインまでをボードをまとめることで、メンバー間での共有をスムーズに行っていくほか各プロセスでのアウトプットを俯瞰し、反復することでのクオリティアップが容易に行えました。
↓ STORYLINE タブの項目を開く ↓
初稿
ストーリーライン構築が終了した時点で、物語構成やメンバー間での致命的な認識齟齬はほぼほぼクリアしていたため、あとは書くだけとなりました。
ただ今回は初稿のクオリティラインをめちゃくちゃ下げています。ぶっちゃけた話、絵本を書くことを一切意識していません。
というのも、始めから絵本を意識できるほど自分が絵本の事を知らなかったからです。確実に学びの過程を入れないといけませんでした。
物書きと学びを並行して行うと確実に『もっとうまく書ける』と囁く批判的な(または検閲官的な)自分が心の内に現れます。
こいつに従うと大体物語が完成しなくなるので、今回はいつも以上に封じ込めました。絵本らしさは未来の自分がどうにかしてくれるだろうと割り切る形です。
もう一点、『推敲は引き算で行う』前提で過分に文章を盛りました。
文章は基本的に不足を補うよりも過分を取り除くほうが簡単なのと、不足部分の理解してくれている前提でのメンバーとの相談(推敲)はほぼほぼ無理だったためです。
推敲
ここまで来ると基本的に大きな迷いはありません。
クオリティを無視してしまえば、文章自体も一気通貫しているので終わらせることへの不安感ももうありません。
・見開きに描ききれる絵の粒度で文節を分けられているか。
・書きたい設定だけど、物語として必要ないものが残っていないか。
・絵があれば十分に説明ができる表現が残っていないか。
・幼少の子たちがわからない表現をしていないか。
・逆に主軸であるボタンズの動機や考えが希薄ではないか。
・発声した時につまる文章はないか。心地よくない文章はないか。
などなど、絵本を読んだりギギのアドバイスを受けたりと文章に対する解像度がどんどん上がっていくので、その時時で書ける最大限のクオリティになるよう文章を整えていくのみでした。
どうしても絵の方が時間がかかってしまうため、現状は文章のみとなっていますがこのタイミングでk子に絵本用の絵を依頼し、ラフスケッチやレイアウト調整も並行して進めていきました。
また、推敲は最終的にビデオ会議で進めました。効率は悪いかもしれませんが、話しながらやると、リズム感や音感などが確認しやすくなりました。
一点、推敲を重ねた結果、以前の文章のほうが良かった気がするけどなんと書いていたか思い出せないといった場面が何度かありましたので、この点は文章のバージョン管理をするべきでした。
仕事柄よく使用することもあり、次作以降はgithubを利用しようかなとメンバーと話しております。
初稿から完成への変遷
初稿が完成に向けてどう変わったかいくつか例を載せておきます。
↓セサミたちの遊び場から、空からものがふってくる場所まで↓
糸のちぎれる音がして、セサミはふりかえります。
そこにはたおれたスティッキー、そしてセサミの知らないボタンズがいました。
うすっぺらな体。深緑色のドレスを着た少女の見た目をしたお人形。
フラットニーです。
フラットニーは、スティッキーのボタンを持っていました。
はらはらと、どきどきと、じぶんのやったことが信じられないみたいです。
フラットニーはセサミと目が合うと、いちもくさんに逃げ出しました。
そのうでにスティッキーのボタンを抱えて。
○□○□
セサミはスティッキーに近づきます。
スティッキーは死んでいました。
ボタンズは、ボタンがないと生きていけません。
だから、スティッキーは今、死んでいました。
セサミはフラットニーを追いかけ始めます。
フラットニーからボタンをとりかえし、スティッキーを生き返らせるためにです。
おっと、セサミはつりざおを取りに行きます。忘れてはいけません。
セサミは、出かける時はかならずつりざおをもっていくと決めていました。
○□○□
小さなセサミでは、フラットニーの足の速さにはかないません。
少しずつ、少しずつ、フラットニーのせなかが遠くなっていきます。
けれども、ここらの森はセサミにとって庭みたいなもの。
冒険したときに見つけたいろいろな近道を通ることで、フラットニーをなんとか追いかけていました。
走っていると、けしきがどんどん変わっていきます。
緑色から灰色へ。
水と草の匂いから、サビや砂ぼこりの匂いに。
いのちゆたかな世界から、いのちわずかな世界に。
↑ 初稿 完成 ↓
ぶちっ! と、いとの ちぎれる おとが しました。
セサミが ふりかえると
しらない ボタンズと めが あいます。
みどりの ドレスを まとった
うすっぺらな ボタンズ。フラットニーです。
そのてには ボタンが ありました。
○○
フラットニーは にげだします。
とられた ボタンは スティッキーの ものでした。
ボタンズは ボタンが ないと いきて いけません。
だから いま スティッキーは しんで いました。
スティッキーを いきかえらせるために
ボタンを とりかえさないと。
セサミは つりざおを もって はしりだします。
ちょっとずつ はなれていく フラットニー。
ちいさな セサミは ぜんそくりょくで おいかけます。
そうして もりを ぬけました。
↓フラットニーの回想シーン↓
フラットニーは知っていました。
ここは空からモノがふってくる場所。
いのちを持たない色んなモノがふってくる場所。
そしてときどき。本当にときどき、あたらしいボタンズが生まれてくる場所。
モノときいて思いうかぶものなら、なんでも見つかるかも知れません。
でも、ボタンだけはぜんぜん見つからないのです。
なんにちも、なんしゅうかんも、なんかげつも、もしかしたらなんねんも探してやっと見つかるぐらいです。
パフのボタンがこなごなにこわれてしまったとき、フラットニーは死にものぐるいにボタンを探しました。
でも、やっぱりみつかりません。
パフはフラットニーの親友です。
パフのいない日々なんて、死ぬよりつらくて悲しいものでした。
どうにか助けて、またいっしょに遊びたい。
ボタンを探しているうち、そんな思いがつのりにつのっていきました。
そして今日、思いはだいばくはつしてしまったのです。
もうパフとボタンのことしか考えられなくなっていました
遊び場に向かう途中だったスティッキーは、運悪くそんなフラットニーの前を通ってしまったのです。
↑ 初稿 完成 ↓
ここは そらから ものが ふる ばしょ。
おもいうかべた どんなものでも みつかります。
だけど、ひとつだけ。
ボタンは ほとんど みつかりません。
なんにちも。
なんしゅうかんも。
なんかげつも。
もしかしたら なんねんも。
それだけ さがして やっと みつかる ぐらいです。
フラットニーも ひっしに さがしました。
でも やっぱり みつかりません。
パフは だいじな おともだち。
また いっしょに あそびたい。
そんな おもいが あふれて あふれて……
終わりに
今まで振り返ってきたプロセスを経て、ボタンズものがたり『われたボタン』は形になりました。
文と絵の繋ぎ込みや絵本に向けた言葉選び、音運びなどまだまだ学ぶべきことはたくさんありますが、第一歩として物語が形にできてよかったです。
次作では今回の工夫を継続しつつ、もう少し経過を見ていくことにします。
以上、長々とお付き合いありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?