リレー小説 No.7 『多重人格・絵描き』

Team:Clutch のギギです。リレー小説 No.7 の記事担当となりました。出来上がった小説とそれに対する感想を書かせて頂きます。

以前のリレー小説はこちら

テーマ 『多重人格・絵描き』

執筆時期: 2020/09/01~2020/09/23

一筆、一筆、色をのせるたび、どうしてお前なんだと未完成の男が話しかけてくる。
いつものぼくなら、ただ耳を塞いで筆を動かすだけで無視できるぐらいの些末ごと。
でも今日は違う。どうしても、別の感覚器の主張を無視できずにいる。
画材の薬品臭に混じって、ガソリンの刺激臭が脳を侵してくらくらする。
ぼくだか、わたしだか、おれだか、じぶんだか。
どの自分が置いたんだろう、少なくとも『ぼく』はこの液体の用途を知らない。
液体が入った瓶を手に取り中身を確認していると、
急に酩酊感に襲われ意識が暗く沈んでいった。
「また」だ。
次に意識が浮上したときには今まで描いたキャンバスが部屋の中心に無造作に積み重ねられていた。
キャンバスには多分に例の液体がかけられており足元には
液体が入っていたであろう瓶が転がっていた。
この状況ですら絵の題材になりそうだと思い立った『ぼく』は無気力に筆を手に取った。
ぼくは、赤色でキャンパスを染めてみた。ここから、どうしようか。
この赤、何かが足りない、おれがそう主張する、なんだか欲張りなやつだ。筆とキャンバスと油絵の具の同じ感触だけじゃ、インスピレーションは湧かないと、わたし。黄色に塗り直そうと、気のままにと、じぶん。頭はまとまることはない。
ガソリンがあるんだ、ここは盛大にキャンバスから飛び出してみようぜと・・・、『だれか』が突然言った。
頭が静寂になった。
『僕』はしっかりと見届ける。
これは生み出す人間の最後の輝きだ。ぼくでも、わたしでも、おれでも、じぶんでもなく、何も生み出すことの出来ない僕の僻みもこれでやっと終わる。
完成していく未完成の自画像(おとこ)。消防車のサイレンが近づいてくる。

感想など

これを書いたとき、テーマは挑戦なものを選んだ記憶があります。メンバー的には、チャレンジングというわくわくした感じがありましたね。
そのためあってか、文章が

画材の薬品臭に混じって、ガソリンの刺激臭が脳を侵してくらくらする。
ぼくだか、わたしだか、おれだか、じぶんだか。
急に酩酊感に襲われ意識が暗く沈んでいった。
「また」だ。

といったように、攻めた書き方が随所にみられました。そのわりに、変に間延びせずにテンポよく、ちょうどリレー順に起承転結の描写ができていてストンとオチた作品だったかなという印象です。

作品そのものとしては、短いため、設定が活かしきれずに終わった感があったりしますが、それを除いても、きれいにリレーができていて良かったと思える作品です。

以上になります。
ではでは、次のリレー小説をお楽しみに!


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