【TEALABO Channel_010】「家族として、チームとして、守り繋いでいくもの」-お茶の芳香園 村永貴之さん-
鹿児島のブランド茶である「知覧茶」の作り手を直接訪ねて、その秘めたる想いを若者に届けるプロジェクト「Tealabo Channel」。
日本茶は全国各地に産地があり、各産地で気候や品種、育て方が違います。そんな違いがあるから「知覧茶」が存在します。一年を通して温暖な気候がもたらす深い緑色と甘みが特徴である知覧茶の作り手の話を皆さんにおすそ分けします。
第10回目は、芳香園の村永貴之さんにお話をお伺いしました。
知覧茶発祥の地である後岳エリアでお茶作りに向き合う村永貴之さんは、鹿児島市内から歴史ある城下町として栄え、現在も武家屋敷が多数残る知覧町へ向かう道沿いに店舗を持ち、家族でお茶を作り育て販売をしています。
仕事も遊びも常に「家族」が中心である村永家だからこそのストーリーを取材を通して聞くことができました。家業を引き継ぐ者の責任や父親としての一面など貴之さんの色んな人柄を是非ともご覧ください。
知覧茶に対する誇りと愛着
高校まで南九州市知覧町で生まれ育った村永さんは卒業後、日置市吹上町にある『鹿児島県立農業大学校』(以下:農大)へ入学しました。
実は、農大入学前にお父さんから「家業を継いでもらえないか?」と頭を下げられた経緯もあったそうです。それで農業に関するノウハウや技術を習得するために就職ではなく進学という選択をしたといいます。
農大時代に霧島市牧園町にある『ヘンタ製茶』で1ヶ月の研修を受けていた時のこと。村永さんにとって大きな気持ちの変化がありました。それはヘンタさんの言葉でした。
「後岳(うしろだけ)の人たちがいてくれるから、知覧茶というのがあるんだ。」
「昔はお茶の勉強をするために静岡まで行っていて、その努力があったからこそ、今の知覧茶があるんだ。」
その言葉を聞くまで知覧茶の背景を知らなかった村永さん。そこから知覧茶に対して「絶やしてはならない。」「後世にも残していきたい。」と思うようになり、同時に誇りと愛着が湧いてきました。
農大卒業後は、知覧へ戻り、2代目のお父さんが畑の管理等を行い、実家の茶工場の中で初代でもあるおじいさんと一緒に製造をする体制でお手伝いしていくことになります。
心と体の健康を保ち、五感をフルに使う
村永さんは5年程前から知覧岳製茶の責任者として自社を含めた13の事業者が摘んできたお茶の製造管理を行っています。
その中でも意識しているのは毎日の掃除。特に一番茶と二番茶の時期では一番大事な作業になってくるそうです。
茶揉みをする機械は茶渋がつかないように材質を変える等、自社なりの工夫もされています。
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「茶渋」とは・・・茶葉を煎じると出てくる垢(あか)のようなもの。お茶に含まれるカテキンやポロフェノールが水に含まれる金属イオンと結びつくことで水に溶けにくくなり発生する。
「いかに茶葉本来の味や香りを機械が引き出せるかどうかが勝負なんです。」
他にも、次の茶葉がくるまでに掃除を終わらせたり、茶葉を運んでくる事業者のスケジュール管理をしたり等、常に細い部分まで気を配られている様子。
この工場では一番茶と二番茶はそれぞれの品種ごと、三番茶に関しては合葉で作業をしていくので確かに細かい管理は必要です。
そんな村永さんにとって、亡くなったおじいさんの言葉がずっと心に残っているといいます。
「心と体の健康を整え、五感をフルに使い、良いお茶を作りなさい。」
五感を使わないと些細な匂いや色、味の変化も見極められない。その上で心と体の健康は欠かせない。
そんなことを常日頃意識しながら、今まで築いてきた品質を守るために現場に臨んでいます。
守っていきたいもの、繋いでいきたいもの
『芳香園』は50年間ずっと最後の火入れを自社で行っています。しかも、いっぺんにまとめて火入れを行うわけではありません。
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『火入れ』とは・・・荒茶を水分含有量2~3%になるまで乾燥させるとともに、お茶独特の風味を引き出すために行われる。火入れの仕方によって、風味の異なるお茶に仕上がる。
良いお茶を良い状態でお客様に対して提供できるように商品の数等を考慮しながら、随時火入れを行っているのです。
新茶の時期はあまり火入れを強くしないようにも心がけており、そうすることでお茶本来の味や香りを出せるようになるともいいます。
「これは祖父や父がずっと大事に守ってきた『芳香園』の色。だから僕もこれを守って繋いでいきたいと思っています。」
他にも自社として大事にしてきているものがあります。それは、年間通して一番茶を小売りで販売していること。他社だと二番茶と配合して販売する場合もあるようですが、『芳香園』では一番茶に重きを置いています。
その一番茶を品質の良い状態で摘むために、二番茶の収穫が終わったら、全部中刈りを行うのです。他社では火入れを全部まとめて農協にお願いしたり、一番茶と二番茶を配合したりするケースもあります。それでも、自分たちが作ったお茶を品質が高い状態でお客様に提供したい。そんな想いがこのこだわりからも強く伝わってきます。
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「中刈り」とは・・・一番茶を刈り終えた後に茶葉の層ごと20~30cmくらい下まで刈り落としていくこと。そうすることで茶葉の品質向上、病気害虫リスクの低減等に繋がる。
受け継ぐ意思
将来の展望について尋ねると「知覧茶に限らず、日本茶全体として多くの人に口にしてもらえるようになってほしい。」と話されていました。
そのために、催事や勉強会へ足を運び、消費者とのコミュニケーションを図ったり自身の知恵を身につけたりすることで努力を重ねているようです。
そこには、リーフ茶を飲む人やお茶業界の後継者が年々減少していることも背景にあります。
後継者不足の話題になった際、自然と息子さんの話になりました。
息子さんの将来の夢はサッカー選手になること。ある時、そんな息子さんの放った言葉がとても嬉しかったといいます。
「将来サッカー選手になって、パパの作ったお茶を広げるんだ。」
村永さんは自分なりに考え、お茶農家という道を選びました。だから、息子さんにも自分の考えで将来の選択をしてほしいと考えています。
ただ、将来“後と継ぐ”という選択をしなかったとしても「パパの作ったお茶を広げたい」という想いは、日本茶を広げたいと願っている村永さんの意思を継いでいるのではないか。
“継ぐ”にも色々な形があるのではないか。
息子さんとのエピソードからそのようなことを感じました。
チームとしてできること
最後に『芳香園』の店舗へ。そこでは、お母さんと村永さんの奥様が出迎えてくださいました。
「僕は接客が苦手でして…。」と話す村永さん。逆にお母さんと奥様は人と話すのが好きで、お二人を目的にお店にいらっしゃる方も多いようです。
店内を見渡すとキャラクターがパッケージになっている商品を発見。話を聞くと、絵を描くことが好きな奥様がイラストデザインをされたそうです。
「名前を考えるから擬人化したキャラクターを描いて。」とお父さんから言われたことがきっかけで“かなや香くん”や“甘井つゆ子さん”等の商品が生まれました。今では「かわいい。」と手に取ってくれる人も。
「普段お茶を飲まない人に手に取りやすさや、お土産を渡す時に気軽に一つ添えられるような商品があってもいいなと思って。」
照れた顔で嬉しそうに話す奥様。ふと店内を見るとお子さんたちが書かれたご家族の似顔絵も貼ってあり、心が和みました。
「両親と妻が僕にできないことをカバーしてくれるので安心して茶工場の作業に専念できています。本当にありがたいです。」
話を聞いているとご家族一丸となって、それぞれの役割を担い、できないことを補い合う。そうすることで『芳香園』の技術や理念を受け継ぎ守ってきている印象を持ちました。それは、大人だけではなく、お子さんたちも対してそうです。茶業に従事していなくても・しなかったとしても、無意識に自分たちでできることで『芳香園』を支えているのではないかと感じました。
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【プロフィール】
村永貴之(むらながたかゆき)
1988年南九州市知覧町生まれ。
地元の高校を卒業後、鹿児島県立農業大学へ進学。農業やお茶の基礎知識を2年間学び実家へ就農。現在有限会社知覧岳製茶にて取締役をする傍らお茶の芳香園で自園のお茶を販売している。
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