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【TEALABO channel_21】枠組みを越えた良き関係性を目指して -いぶすき農業協同組合茶業センター 別府幸成さん-

鹿児島のブランド茶である「知覧茶」の作り手を直接訪ねて、その秘めたる想いを若者に届けるプロジェクト「Tealabo Channel」。

日本茶は全国各地に産地があり、各産地で気候や品種、育て方が違います。そんな違いがあるから「知覧茶」が存在します。一年を通して温暖な気候がもたらす深い緑色と甘みが特徴である知覧茶の作り手の話を皆さんにおすそ分けします。

第21回目は、『いぶすき農業協同組合茶業センター』(以下:茶業センター)指導員・別府幸成さんにお話をお伺いしました。

基本をしっかりと

取材冒頭に自分にとっての「役目」という視点で話を聞いた際に、開口一番、力強く言葉で話をしてくださいました。

「僕たちが基本をしっかりしていないと生産者さんに何も教えることも伝えることもできません。皆さん、こわだりはそれぞれです。僕らはそれらを汲み取り、生産者さんに合った指導やサポートをしていくことが役割だと思っています。」

別府さんは、頴娃(えい)町で生まれ育ち、高校卒業後は鹿児島県立農業大学校へ進学されました。ご実家は兼業農家で、在学中に7つ離れたお兄さんが継業されたといいます。

卒業後の進路を模索している中、地元の茶業センターで指導員を募集していると知り、そのまま就職されたそうです。

いぶすき農業協同組合茶業センター 別府幸成さん

取材途中には、現在稼働していませんが、別府さんが指導員としての基本を学んだという出品茶工場へ案内していただきました。2年前までは品評会へ出品するお茶を製造されていたのだとか。

「色々な現場を回らせていただきましたが、なんだかんだ言って、この工場が一番思い入れのある場所です。ここでお茶の基本を叩き込まれました。工場が稼働しなくなった今でも基本を学び続ける姿勢は変わりません。

そんな中で、現在の仕事の1番のやりがい部分を聞いていくと、別府さんから責任感を感じる場面がありました。

「毎年、茶市場では、頴娃や知覧といった南薩地域(※)からお茶の値段形成が決まっていくので、そこできちんと高値を出していかないといけません。それは僕たちの動き次第で決まってくる部分もあるので、プレッシャーはあります。だからこそ、基本をしっかりしないと良い品質のお茶を製造できないと思うんです。

(※)鹿児島の薩摩半島の南部の地域

入社当時から基本を学んだという出品茶工場前にて

生産者が良い方向へ進めるように

指導員として入社後、それまで茶業の世界に深く触れたことがなかったからか、力の無さを痛感する日々だったといいます。

「入社当時は、お茶を知らない人にちょっと毛が生えたレベルでした…。」

苦い顔で当時のことを思い出す別府さん。

加えて、昔の失敗もお話してくださいました。

ある生産者さんが市場に出荷するお茶の製造調整を僕に任せてくれたんです。でも、結果は、その日で一番悪い出来でした。すぐに電話をして「申し訳ありませんでした」と謝り続けました。すると、その生産者の方は「いいよ、これも勉強だから」と優しい言葉をかけてくれたんです。

当時を思い出す別府さん

「僕にとっては大きなダメージはありませんが、生産者の皆さんにとっては収入を得る大事な場です。そんな場で失敗したのは今でも忘れられません。」

その後、しばらくは失敗が怖くなり、思い切った製造調整が出来なくなったそうです。

どうして失敗したのか。

そこで辿り着いたのは“基本がしっかりしていなかったこと”でした。

現在入社して14年目でありますが、初心を忘れず、基本を常に意識し、日々の業務に従事されています。

「僕たちは生産者(経営者)ではありません。だからこそ、違う視点でお話できると思うんです。生産者の皆さんにとって、良いお茶ができた・消費者から評価してもらえたといった結果に導けるようにいきたい。指導員として、そんな想いで現場に望んでいます。」

出品茶工場に保管されている茶摘機

一人で仕事はできない

茶業センターに入社してから、頴娃の様々な生産者と向き合ってこられた別府さん。

叱咤激励を受ける中で感じたのは周りへの感謝だといいます。生産者さんから「やっと畑のことがわかるようになってきたな」や「あのアドバイス、すごい助かったよ」と10年経ってから言われることもやっと増えてきたそう。

「もちろん、今だに「こんなこともわからないのか」と怒られることもあります(笑)。そういう中で生産者の皆さんに可愛がってもらっているなと実感する日々です。」

わからないことがあれば、県や市の担当者さんや隣町のJAの方もいらっしゃるので情報交換を密に取り、さらに連携を深めて、生産者が困った時にすぐ橋渡しができるような体制を整えたいと思っています、と話をしてくれました。

別府さんの普段の生活のお話を伺うと、お茶の繁忙期だと出勤は早く、帰りが遅くなることも。さらに、閑散期だと会議や交流会も多く、家を空けることも度々あるんだとか。

僕が今の仕事を続けられているのは妻の理解があってこそです。子供たちも変わらず私と接してくれるので、家族には感謝の気持ちしかありません。」

休日は家族と過ごす時間はもちろんですが、以前は趣味が一緒の生産者さんとバイクで出かけたりしているそう。飲みに行く時は、皆で仕事のことは忘れて楽しい話をしながら交流を深めているようです。

一人では仕事はできません。仕事関係なく、色々な人の力や知恵、繋がりがあってこそ僕は元気に仕事ができるし、できない部分を助けてもらっています。その感覚は大事にしたいです。」

友達のような関係性で

“荒茶にする前の段階で100点のものをつくる。そうじゃないと良いお茶はできない”

「畑の管理やお茶の製造の中で、この2つは絶対に曲げられない信念です。」

そんな別府さんが今後の展望として考えているのは知覧茶全体の底上げだといいます。

同じ生産者といってもどうして個人差が出てしまいます。そんな中でも、状況に応じてサポートを行い、一人でも多くの生産者が質の高いお茶をつくれるようにしたい。その小さな積み重ねが将来的に知覧茶全体としての底上げに繋がるのではないか。そのためには僕だけではなく、行政や地域を越えて連携を深めながら成長し続けていく必要があると思います。

「僕らは、ある意味、よろず屋です。橋渡し的なこともあれば、相談相手なようこともするし、事務的なことだってやります。側から見れば、業者同士のやりとりかもしれません。でも、どちらかというと、友達のような関係性でありたいなと思っていて。」

温度感のある関係性の先に、自分達だからこそできる生産者や地元の風景を守るといった地域の貢献に繋がっていくと信じているからこそ、心から湧き出る言葉を紡いでくれました。

取材中、たまたま隣のスーパーに買い物へやってきたお子さんと

楽しい時間も苦しい時間も
共に過ごしてきたからこその“仕事”ではない関係性。

それは別府さんがおっしゃる通り
“友達”に近いものだと感じました。

常に基本を忘れず
生産者のことを想い、一人一人と向き合い続ける姿勢は
世の中からほんの小さなものかもしれない。

でも、その小さな積み重ねが
大きな底上げとなり
知覧茶や地域を守ることに繋がっていくのかもしれない。

そんな未来を感じさせる時間でした。

【プロフィール】
別府 幸成(べっぷ こうせい)
1988年南九州市頴娃町生まれ。農業高校卒業後、県立農業大学校へ進学
卒業後、JAいぶすき茶業センターへ入社。指導員としてお茶農家さんの事業サポートを行う。

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