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心に静謐を飼う

雪も深い南魚沼市に行って、夫と別行動で一人で雪山の写真を撮りに行った時、世界止まった?ってぐらい音がなかった。
雪がすべての音を吸い取って、ここ数十年で感じたことのない無音。
びっくりするくらい、びっくりという言葉が似合わないほど、静かだった。

水分が多い雪が降っているときはまだ降り積もる音がするものの、晴れた時は本当に何も聞こえない。
目の情報量も、空と雪と木しかない。
環境から与えられるものが、「無」だった。

あの静寂さを思い出すことができれば、私はいつだってニュートラルな状態に戻れるだろう。

普段は「自分に何が足りないんだろう」とそればかり考えていて、新しい武器が常に欲しいし、何で自分を埋め尽くすかばかり考えていた。
行動の一挙手一投足で武装して、物でも思想でも、何かを詰め込まないといけないと思っていた。

これからもずっと、「何もしなくていい」なんてことはないだろうけれど、一瞬だけでも「何でもない」状態になれるのかもしれない。


雪と空は無音だけを与える。
静けさはすべての人間が本来持っているものであって、
欲と悩みにまみれているけど今は、この静寂だけあればいい。

無音の中でそう思った。


訳あって数年前からずっと、20代の積み上げを手放し続けている。
失ったものの代わりに得られるものを、常に探している。

でもあの雪山の中で、引き算をし尽くした先で、すべてを手にした気分になった。

心がうるさくなる度に、雪の中で感じたあの無音を思い出せるようでありたい。
「何もない」を自分に与えられるよう、心で静謐を飼い慣らす。


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矢島 愛子 / Teaist🍵
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