2019年末に観た「This is アメリカ」を表現する2本の映画
アメリカの息子(2019年)
監督 ケニー・レオン
あらすじ
18歳になった息子が行方不明になり、フロリダの警察で顔を合わせた別居中の白人夫と黒人妻。息子の身を案じる2人の前で、ただ緊迫した時間だけが過ぎていく。
レビュー
クローズドなシチュエーションで終始展開する、いかにも舞台演劇を基にしている作品。その分、台詞が膨大で90分のほとんどを演者が喋っているので、かなり濃密だった。
そこで(あるいは舞台の外で)起きた事件はシンプルだが、登場人物が全てメタフォリックな意味合いを持っている点が注目すべきとこだと思う。
大学でも教鞭を取るインテリな母親(黒人)、保守的な家庭出身でFBIの父親(白人)、杓子定規な新人警官(ミックス系黒人)、威圧的で権威を振りかざすベテラン警部(黒人)、白人と黒人のアイデンティティの狭間に悩む息子(登場せず)。
彼らの立場と葛藤が交差する展開をそのままアメリカを舞台に置き換えると、今のアメリカが抱える人種問題と「一体、アメリカの息子とは誰なのか?」が見えてくるのかも…。
ヒステリックな母親の描き方にちょっとミスリードさせられそうになるが、主観的な感情移入を排除してみると、かなり社会的でシニカルな作品だった思う。
華氏 119(2018年)
監督 マイケル・ムーア
あらすじ
2016 年 11 月9 日、トランプは米国大統領選の勝利を宣言-その日、米国ひいては世界の終りは始まった?!
なぜこうなった?どうしたら止められる?ムーア節炸裂!宿命の戦いに手に汗にぎるリアル・エンターテイメント!
レビュー
トランプ大統領を徹底批判するというより、トランプを大統領にさせてしまった「共和党の狡猾さ」と「民主党の無能さ」の徹底批判と「SNSを中心とした若者世代の革命運動への期待」を軸に、いつものM・ムーア監督らしいテンポの良い映像がどんどん放り込まれる形で展開されていくドキュメンタリー。
勿論、一面的な批判でありそれに対する右派の反論もあるだろうけど、それでもこれがある意味、トランプ大統領誕生以降のアメリカの現実。フリントの水質問題なども実際に起きている訳で詭弁で回避できる問題ではない。
「アメリカの民主主義は実現されてはいない。民主主義を熱望しているだけだ」という歴史学者のコメントに納得した。民意が反映されない民主主義はもはや民主ではない。日本の近い将来のようかもと思ったして。