自分をよく見せる為の嘘
僕は以前、仕事として子ども達にサッカーを教えていました。その時に子ども達に必ずしてきた話をシェアします。
「今から5分間リフティングをやるよ。100回以上できる子はいるかな?よーいスタート!」
子ども達は一斉にリフティングを始めます。
「コーチ、13回できた!」
「おっ、早速いいね!今度は14回以上目指して頑張って!」
「コーチ、3回しかできない」
「ボールを蹴る時に足の当て方が前に向かってるからボールが前に行っちゃうんだよ。ボールが上に行くように足を当ててみよう」
こんな感じでそれぞれに声掛けをしていくのですが、中には回数をごまかす子もいます。
「コーチ、73回できた!」
「すごいじゃん!まだ時間あるからまた新記録目指して頑張れ!」
「コーチ、96回できた!」
「100回まであと一息!頑張れ!」
僕はその場では前向きな声掛けをしますが、その子達が嘘をついているのは知っています。5回くらい多めに言われても気づけませんが、その子達はとても73回や96回できる技術が伴っていないからです。
5分が経ち、子ども達を集めて最高回数を報告してもらいました。
その時は、96回と嘘をついた子が一番回数ができたので「おめでとうー!」と皆で拍手をしました。その子は嬉しそうにはにかんでいました。
「リフティングは、やればやるほど上手くなるから、上手くなりたい人は自分で時間を見つけてやってみてね。あと1つ、今日ね、リフティングの回数を実際よりもかなり多く言っている子がいました。誰かは言うつもりはないし、その子を責める為に言っている訳じゃないから誰かは探さなくていい。まあとにかく、その子は自分が本当にできる数よりだいぶ多い回数できた事にしていて、5回とかならコーチもわからないけど、例えば最高10回しかできない子が50回やったと言っても、そういうのはわかっちゃうんだよ。皆がやっている様子も見てるからね。こういう嘘はなんにも良い事が無いから絶対に止めよう」
「例えば10回しかできてないのに、50回できたって嘘つくとするじゃん。そうしたら50回できた分褒めてもらえるよね。もしかしたら嘘でも褒められて嬉しいかもしれない。でもさ、何にもできてないのに褒められちゃったら、本当に50回できるようになる為に頑張れる?できるようになってもキミが50回できると周りは思ってるから誰も褒めてくれないんだよ。自分をよく見せる為に嘘をつくとさ、次に頑張るのがちょっとずつ難しくなっていくんだよ。だからまた嘘をついちゃう。そうすると嘘をつくのに慣れてしまって、どんどん頑張れなくなる」
「皆は他の子よりも多くやりたいと思うかもしれない。でも例えばリフティング30回できる子がいるとして、他の子はそれより少ない数しかできなかったらその子がそこではチャンピオンだけど、周りの子が皆50回以上できる子ばかりなら、その子はそこでは断トツビリじゃん。人と比べるってそういう事なんだよ。絶対に上手くなれる方法を教えてやろっか?昨日の自分と比べてそれよりも上手になれば絶対に上手くなってる。サッカーでも何でもそうだけど、基本的には長く時間をかければかける程上手くなるんだよ。だから早くから始めた子の方が長い時間やってるからできる事が多い。でも、あとから始めた子でも頑張って毎日やってたら昔からやってる子よりサッカーをしてきた時間が長くなって追い抜く事ができる時もある。センスとか才能とか運動神経の良さとかはちょっとは関係あるよ。運動神経が悪い子が1時間かかってできるようになるのを運動神経が良い子は10分でできちゃうかもしれない。でもそれよりも努力できるかどうかの方が大事。同じ才能なら努力した方が勝つけど、才能が足りなくても努力したら、努力が足りない才能がある人よりは上にいける」
「コーチにはプロサッカー選手の友達とか知り合いがいるんだけど、その人達に聞いたら、自分より才能があると思う選手は沢山いたけど、その人達は自分ほどサッカーを一生懸命やらなかったからプロになってなくて、自分はずっとサッカーが好きで努力を続けたからプロになれたって言ってた。だから皆も、自分をよく見せる必要なんてないから、ちゃんと今自分がどれだけの力なのか考えながら、昨日の自分に勝てるように頑張って欲しい」
その時の状況で、多少文言は変わりますが、だいたいこのような事を子ども達に話します。そうすると、それぞれその子達なりに自分と向き合って頑張るようになります。もちろん頑張りに個人差はでてきますが、上手くなる子はそれだけ努力をしているというのを理解しているので、上手い子をリスペクトするようになっていきました。そうなると上手な子も威張ったりせずに、他の子に教えてあげたりするようになっていくんですよ。それぞれがそれぞれのペースで昨日の自分よりも上手くなりたいと努力する集団に成長していく姿を見守れたのは幸せな時間でした。
サッカーに限らず、他のことでもそうですが、子どもが自分をよく見せる為に嘘をついた時には、努力の大切さを教えるとても良い機会だと思います。