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留学後1週間英語力ゼロでいきなり学校行事の4泊5日のキャンプに行って今後の人生に大きく影響するような経験をした話

 前回、15歳で留学。英語が全然できないのに、たった5日間でオーストラリア人の心を掴んだ話 の最後に少し触れた、英語力ゼロでオーストラリアの高校に通い始めた僕が、入学して2週目に行った学校行事のキャンプの話です。


 高校入学最初の1週間、不良グループにからかわれたのを逆に利用して、悪口を言うと何倍にも言い返してくる日本人ということで人気者になることに成功した僕だったが、その週末は月曜日から始まるキャンプの準備に追われていた。ほとんど英語がわからない僕は前日の金曜日に先生やクラスメイトの口からcampという言葉が何回か聞こえた気がして、入学時にもらったプリントの束を初めて手に取り、その中から明日から始まるキャンプについて書かれたプリントを発見し、土日を使って必要な物を購入して準備したのだった。

 キャンプは4泊5日。Cadet campという名前のキャンプで、場所はよくわからないがmountainと書いてあるので林間学校的なものだろうと勝手に思い、よーし友達沢山作るぞーと楽しみに月曜を待った。


 キャンプ初日当日、学校に集合した僕らはクラスごとにバスに乗り込んでキャンプ地へと向かった。先週友達になったアランはクラスが違うので同じバスでは無かったが、悪口を言うと言い返す日本人としてブレイクしていたので、バスの中でも時折悪口を言われて、その度に知ってる限りの悪口を言い返し続け、何を言ってるかほとんどわからなかったがそれなりに楽しく道中を過ごす事ができた。

 キャンプ場は周りには自然しかない山奥の静かな場所で、僕達生徒はそこに5,6人のグループごとにテントを張ってそこで寝泊まりする事になった。先生達は山小屋で寝泊まりする。

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 テントを張ったあとは、山小屋に集まって昼ご飯を食べた。午後からはハイキングに行くようだ。僕たちはカーキ色の軍服にアーミーブーツを履いてハイキングの準備をした。この時はまだこのキャンプの名目であるCadetが陸軍の士官候補生という意味なのを知らなかったので、単純になんかカッコいい服着てハイキングい行くんだなくらいにしか思っていなかった。事実、このハイキングは山奥を3時間くらいグループごとに歩くだけだったので、壮大な自然を満喫し良い汗がかけた。このキャンプの真の恐ろしさを知るのは翌日のことになる。

 ハイキングから帰ってきたあとは、晩御飯まで自由時間になり、皆それぞれ私服に着替えて思い思いの時間を過ごしていた。オーストラリアでは映画『ベストキッド』が"KARATE KID"というタイトルで人気なのを知っていたので、僕は本物の空手の道着を来て黒帯を締めて闊歩した。空手は幼稚園から始めて小6の時に初段になっていた。黒帯は有段者の証である。道着姿の僕に気が付いてオーストラリア人が集まってきた。どうやら何かやって見せろと言ってきているようだ。僕は空手の形(かた)を披露した。

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"So cool!!(カッコいい!)"

"You're great, Masa!!(マサ、最高だぜ!)"

 30人くらいのオージー達に囲まれながらスタンディングオベーションを受けて僕が気持ちよくなっていると、オージーの輪の中から一人ファイテイングポーズを取りながら僕の前に現れて何かを言った。その途端、観衆はヒートアップして「カモーン!」「ゴー、ピーター!」と叫び始めた。

 ピーターと呼ばれたその男は身長180cm程、体重は80kgくらいだろうか、その巨体からは想像できないほどの身軽さで連続回転後ろ回し蹴りをやって見せ、僕に目をやりニヤリと笑いながらブルースリーのように手招きをした。どうやら僕とスパーリングがしたいらしい。周りの奴らの反応を見る限りピーターはかなりの実力者として認知されているようだ。ボクシングの階級などを見ればわかるように2kg違えば別の階級になる。それほどに体重差というのは格闘技には大きい。身長で約15cm、体重でおそらく25kgくらいは大きなピーター相手に僕が勝てる確率は高くない。しかし、今ピーターの挑戦を断れば負け犬扱いで学校中の笑い者になるだろう。それに体よく断れるような英語力は僕には無い。くっそーめんどくせぇー。

 僕は覚悟を決めてファイテイングポーズを取りブルースリーのように手招きしながら言った。

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"OK. Let's fight(わかった、戦おうぜ)"

 僕のその一言でオーディエンスはヒートアップ、物凄い熱気の中、僕とピーターのスパーリングは始まった。腕の長さ、足の長さ、一発の重み、全てで劣っている僕がピーターに勝つにはワンチャンスしかない。頭が高速で回転してそのワンチャンスを探している。僕の脳裏にピーターが対決前に何度もやっていた回転後ろ回し蹴りが思い浮かんだ。おそらく奴はそれで決めに来る、その時がチャンスだ。

 ピーターは僕が有段者だとわかっているので用心して簡単には飛び込んで来ない。僕もリーチで負けているので、ローキックを使って距離を取ってその時を待つ。そしてその時は来た。

 ピーターが前蹴りを出すフェイントからの回転後ろ回し蹴りに入った。今だっ!ピーターの蹴りが僕の頭上を通り過ぎた瞬間、僕は間合いを詰めてローキックでピーターの残り足を払った。

「ウゥアタァァァァァァァァーッ」

 尻もちをついたピーターの顔面に寸止めで正拳突きを入れた。勝てる確率1/100レベルの賭けに勝ったのだ。

「ウォォォォォォォー」

"Masaaaaaaaaaaaaaaaa!!"

 オーディエンスが騒ぎ立てる。興奮冷めやらぬ雰囲気の中、僕はピーターに手を差し出しピーターを引っ張り上げた。

"Masa is the real Karate kid. (マサは本物のカラテキッドだ)"

 ピーターが僕の右手を取って高く掲げた。

 オーディエンスが僕を囲む。みんな一様に僕に賞賛の言葉をかけてくれているのだろうと思うけど、何を言ってるかはほとんどわからない(笑) でも気持ちは伝わってきた。僕は右手の親指を立ててポーズを決めた。

 自由時間を終えて、僕らは山小屋で夕食を食べてテントに戻り就寝時間となった。

 就寝時間が来るまで沢山のオージーに話しかけられまくったが、もう誰も僕に悪口は言わなかった。僕が片言英語で話しても皆が僕の話に耳を傾けてくれるようになった。

 悪口を言うと何倍にも言い返してくる日本人は、小さい身体で巨漢を倒す東洋の神秘になった。


 42歳になった今でも、これまでの人生でこの対決ほど分が悪い戦いは無かったと思う。おそらくあそこでピーターに負けたとしても、僕の度胸はそれなりに評価され、そこからの展開次第で同じような人間関係が築けたのかもしれない。

 でもあの勝負に勝ったことで伝説になった。僕は奇跡というものがあるのだという事を実感した。そしてその奇跡を実現するためには挑戦するしかないと知ったのだった。僕の人生において大きなターニングポイントだったと思う。  つづく

Thank you for reading^^ 気に入ってもらえたらSNS等でシェアしていただけると嬉しいです♬ これからも英語教育に限らず日本の子供達が楽しく日々過ごして世界に羽ばたける環境づくりに全力で取り組んでいきますので、応援よろしくお願いしますm(__)m