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男と女のショートストーリー 「カフェ」

私が過去に書いた「男と女のショートストーリー」vol.3です。

vol.2はこちらから→男と女のショートストーリー 「助手席」|teaまるお



 第3話 「“別の顔”を隠しもつのはモテるオヤジのマナーです」

その男は“誰にも知られていない自分の一面”をもっていた。

女は常に男の謎を知りたがり、見えない部分を見たがるもの。そんな女の好奇心は男の意外性によって、ますます駆り立てられるのだ。

「なかなか会えないね」。
ランチをしながら女が呟いた。

「“仕事だから”って言うんでしょ」。
男が苦笑いを浮かべ話題を変えようとした時、女のジャケットのボタンが取れかかっているのに気づく。

「上着、貸して」。
レザーのオーガナイザーから出てきたのはソーイングセット。

「何でも入ってるのね」
女が呟くが男は慌てない。見られてマズいものは隠しポケットの中だからだ。

出張先でボタンが取れかかり、ホテルから持ち帰った針と糸で器用にボタンを留め直してやる男。

真剣さと繊細さを漂わせるその横顔に、女は思わず見とれながらも「何でもひとりでできちゃうのね」とため息。

「行かなきゃ。また連絡するよ」。

寂しそうな表情を見せる女を残して歩きだした男が、ふいに女を振り返る。そして、小指を立て女に見せた。

“赤い糸”。

男の口は確かにそう動いた。

女はボタンが赤い糸で留められていることに気づく。何か言わなきゃと顔を上げた時、男はすでに街の雑踏に消えていた。
          おわり

第3話 実際の記事


【第3話の裏話】

全7話のエピソードの中で私が一番気に入っているストーリーであり、編集者さんからもほぼ一発OKをいただいたストーリーでもある。

この連載企画、ストーリーのメインコンセプトとして「横顔」がある。

男の横顔をどう魅せるか。

まず思ったのが、物理的な横顔だけじゃなくていいんじゃないかな?ということ。その考えを出発点に導き出したのが「別の顔」。

つまり、普段見せない「隠れている顔」だ。

今回の商品はオーガナイザー。いろんなものを入れることが出来て、隠しポケットもある。まさに秘密の「隠し顔」を持っている男のアイテムである。

そんなことをあれやこれやと考えていてまず思いついたのが意外な一面その男がやらなそうなことを考えて出てきたのが裁縫。これは、私が一人暮らしが長いが故に出てきたアイデアだった。

私は親とも離れて暮らし、奥さんも彼女もいないので、服のボタンが取れたぐらいなら自分でつけ直す。

もし私がセレブなおじさんだったらこのストーリーは思いつかなかったかもしれない。皮肉な話だ。

そして、男女の縁といえば「赤い糸」

たまたま思いついたソーイングセットがまさかここ(赤い糸)に繋がるとは自分でも思いもしなかった。

ネタを思いつくまでに一週間近く悩んだけれど、思いついて数時間で一気に書き上げたストーリーである。

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