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グラフィックデザインを本気でやりたいなら、フォントにお金をかけろ!という話

元WEBデザイナーが、デザインについてつらつらと書いていきます。今回はは、本格的にグラフィックデザインをやりたいなら、フォントにお金を掛けた方が良い、という事について語ります。デザイナーを目指したい人、デザインを学んでいる人、就活中の人、駆け出しデザイナーに読んでいただければ幸いです。


太めの書体が流行っていないというより、ウェイト全種類揃えていないデザイナーが増えているだけかも…

昨今、ネット上で見かける広告、アイキャッチ、サムネイル等のデザインでは、太目の書体が使用されているのをあまり見かけません。

太目の書体より細めの書体が好まれるのが今時の流行なのだろうと思っていたのですが、Adobe Fonts、Google Fontsで配布されている和文フォントの種類やSNS上でのデザイナー達の発言を見ていて、もしかするとフォントのウェイトを全種類揃えていない、フォントにお金をかけていないデザイナーが増えているせいではないか?という疑問を抱きました。

最近の傾向として、グラフィックデザイナーを目指す人よりもWEBデザイナー、UIデザイナーを目指す人の方が多い様ですが、そういった人たちは
なぜフォントにお金をかけないのか?グラフィックデザイナーも無料フォントだけで仕事ができるのか?ということについて掘り下げてみたいと思います。

Adobe Fonts、Google Fontsで何とかなるのはWEBデザイン、UIデザインだけ

WEBデザイン、特にWEBサイト、WEBアプリのデザインやUIのデザインは、技術的制約、WEBフォントとして利用する際のラインセンス料の問題で、利用できるフォントが限られてしまう事が多いです。特に和文フォントはWEBフォントとして無料で配信できるものがあまりなく、使用するフォントにこだわりたくてもこだわれないのが現状です。

WEBサイトをめぐるフォントの環境が今後、どのように変化していくかはわかりませんが、現状としてはWEBデザイン、UIデザインしかやらないのであれば、フォントにお金をかけずに、Adobe Fonts、Google Fontsで配信されている無料フォントを利用するだけでもなんとかなるという状況です。

したがって、WEBデザイン、UIデザインをメインの仕事にしているデザイナー、制作会社は、Adobe Fonts、Google Fontsで配信されている無料フォントのみでデザインを済ませてフォントにお金をかける事をためらったり、フォントの品質、書体の字面・形状のデザイン、タイポグラフィに対して無頓着になってしまう傾向があります。

しかし、WEBやUIだけでなく、グラフィックデザインもやりたいと考えているのであれば、Adobe Fonts、Google Fonts、配信されているフォント、その他の無料フォントだけでは間に合わなくなってきます。

グラフィックデザインをやりたいなら、無料フォントだけで何とかしようとしない事!

無料フォント頼みでは表現手法が制限されてしまう
Adobe Fonts、Google Fontsでも、印刷物、紙媒体向けのフォントを作っているフォントベンダーが製品の一部を提供しています。ですが、それらのフォントのほとんどは、全ファミリー、ウェイトのうちの極一部だけしか配信されていません。

文字のジャンプ率を変える際、文字の大きさだけでなく太さを変える事も、グラフィックデザインではよく行われますが、使えるウェイトが制限されている、あるいはウェイトの種類がない無料フォントを使ってしまうと、太さを変えるという表現手法が使えなくなります。

ジャンプ率以外にも、ウェイトの種類を一通り揃えていないということは、表現の内容に見合った太さを選べない、見出しと本文の差別化、可読性・視認性を考えた際に適切なウェイトが選択できない等、さまざまなデメリットを引き起こします。

また、ネット上で無料で提供されているフォントは、表示できる漢字が教育漢字、あるいはJIS第一水準まで、といった具合に制限されている事もあります。そのため、仕事に利用するには心許ないものも少なくありません。

無料フォントは高細線印刷、縦組みでの利用を想定していないものもある
グラフィックデザインの場合、最終成果物は印刷物になる事が多いと思います。チラシや広告といった紙媒体の印刷物は、175線という高細線印刷が一般的に用いられます。

印刷物の制作に無料フォントを使用して印刷した際、モニター上で見た時の印象と違って、文字のフチや形状がイマイチな印象になる事があります。無料フォント、特に個人制作のものは高細線印刷を想定したアウトラインデータで作成されていない場合が多いので、印刷結果が微妙な印象になってしまう事があります。

また、フォントによっては5~6ptといった小さい値にした場合に読めなくなったり、字面、標準の文字組み、字詰め情報がモニター上での可読性、横組みに最適化されたバランス設計になっていて、縦組みでは見栄えが悪かったり、文字組みがやりづらい設計になっているものもあります。

所持しているフォントの種類と質が、表現の幅と質を左右する
グラフィックデザインの表現においては、WEBデザイン、UIデザイン以上に、タイポグラフィが重要な役割を担います。グラフィックデザインでは、デザイナーが所持しているフォントの種類、質、書体に対する知識の有無が、表現の幅と質に多大な影響を及ぼすと言っても過言ではありません。

本格的にグラフィックデザインに取り組む際、無料フォントだけで何とかしようとするのは、表現の幅と自由度を無駄に狭めてしまう悪手だと言えるでしょう。

印刷業界標準のフォントはMorisawa Fontsに収録されている

印刷業界で標準的に利用されているフォントのほとんどは、モリサワが提供している「Morisawa Fonts」というサブスクリプションのサービスに収録されています。印刷会社はMorisawa Fontsに収録されているフォントは網羅している所がほとんどなので、アウトライン化しなくても出力が可能です。

また、Morisawa Fontsを標準的に使用しているのは印刷会社だけでなく、広告代理店、紙媒体・広告制作がメインの制作会社も同じです。フリーランスデザイナーがそのような企業と取引する場合、クライアント側の制作環境と統一するという名目で、Morisawa Fontsを用意しておくことを求められる事もあります。

年間6万円程度のライセンス料がかかりますので、フリーランスだと自己負担が増える事になりますが、収録されているのはアナログの写植時代から書体を提供しているような老舗や、DTP黎明期からデジタル書体を率先して提供してきたようなフォントベンダーの品質の確かな製品ばかりです。

もともと印刷用に作られているので、高細線印刷で出力した際の品質も保証されています。また、大半のフォントは横組み、縦組みどちらも想定された設計になっているので、縦組みにした際に組みずらいといったこともほぼありません。

Morisawa Fontsに収録されている書体は広告、パッケージ、雑誌等によく使われているので日常的に目にする機会も多く、多くの人にとって馴染みのある、標準的な印象のある書体だとも言えます。

WEBデザイナーもSTUDIOを利用したり、バナー制作の機会が多いなら、Morisawa Fontsを契約した方が良いかも

日本国内で人気のノーコードツールサービス、STUDIOを利用してホームページを制作する場合、WEBフォントとしてMorisawa Fontsに収録されているフォントを制限なく利用する事ができるようです。

ですが、STUDIO上で直接デザインをするのではなく、デザインカンプをPhotoshop、Illustgrator、Figma、XD等のツールを使って作成する場合はMorisawa Fontsを契約しておかないと、ツール上で使いたいフォントが表示できず、デザインカンプと完成品の見栄えの統一ができなくなります。

また、バナー制作のようにフォントを画像化して使う仕事が多い場合、表現の幅を広げるために多くのフォントを用意しておく必要があります。Adobe Fonts、Google Fontsのような無料で使えるフォントで賄えなくもないですが、前述のとおり、和文書体は利用できるウェイトに制限があるものが多いため、ウェイトをフル活用したい場合はMorisawa Fontsを契約しておいた方が良い事もあります。

表現の幅を広げるには、使えるフォントの種類を増やす事も重要です。表現力の不足をお金の力で補うことができるのであれば、出し惜しみせずに課金してみるのも良いのではないでしょうか?


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