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信号機の裏側

2023/12/11

 ちょうど青信号が点滅し始めたので、立ち止まる。ここの信号長いんだよな。僕はため息を吐く。見上げてみると、信号機の裏側が見えた。金具でしっかり固定されているようだ。普段はあまり気にしないところなので、いささか新鮮な気持ちになる。いつもずっといたるところに平然と立っている信号機。そこにあって当然だと思っていたが、裏側の、いかにも人工物だという雰囲気で、人が人の都合のために作ったんだと思い知らされた。
 信号が青になったので歩きだす。ほら、あのガードレールだってそうだ。元からそこにあるんじゃなくて、歩道の安全を守るために作られたんだ。歩きながら裏側を見てみると、やはり人工的な雰囲気を感じる。
 ああ、なんだか世界が少し変わったような気がする。僕の感じ方が変わったのだろうか。いずれにせよ、不思議な気分だ。
 しばらく歩いていると、横断歩道を見つけた。昨日まではなかったはずの、新しい横断歩道。確かにここを渡ることができたら便利かもしれないな。なんとなく渡ってみる。新しい横断歩道に新しい僕。いい気分だ。
 渡った先に、何かがあるのが見えた。小さい棒のようなものが地面に刺さっている。なんだろうかと、しゃがんでよく見てみる。それは十五センチくらいの大きさの、「信号機」だった。
 なんだこれ。誰がこんなものをここに刺したんだ。不思議でたまらないので触れてみたくなり、手を伸ばす。
「なにやってんだ」
「え、あ、すみません。これが気になって触ってみようと……」
「駄目だよ兄ちゃん。生えたばっかの信号機は枯れやすいんだから。」
 話しかけてきたのは作業服を着たおじさん。僕は立ち上がって聞いてみる。
「生えたばっかりの信号機って、どういうことですか?」
「知らないのか? 信号ってのは人通りの多いところに勝手に生えてくるもんだろ? それを世話して、大きくして、ちゃんと使えるようにする。ほら、ここにあるガードレールだってそうだ。最初はちっちゃかったんだが、俺が立派に育てたんだぞ」
「育てるって、植物みたいにですか?」
「まあそうだな」
「おじさんは近所の方?」
「馬鹿言え。誰がこんな仕事を慈善事業でやるかよ。働いてんだ俺は。そういう会社があんの。そろそろいいかな。作業するからどっか行ってくれるかい」
「は、はい。あの、最後に一つだけ」
「なんだ」
「この横断歩道も自然とできたんですか……?」
「はあ。普通に考えて横断歩道は勝手に生えてこねえだろ。業者が描いたんだよ。ほんとに何も知らないんだな坊主」
 僕は釈然としないまま、その場を去った。

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