見出し画像

冬が歩いている

2023/12/05

 十二月に入り、いよいよ冬の近付く気配がしていた。僕は冷たい空気で肺をいっぱいにして、息を吐き出しながら青に変わった信号を渡る。家に帰れば珈琲だのなんだので体を温められる。そんな考えが僕の歩みを早めた。
 大通りに出た。左に曲がってそのまま南下すれば、駅に着く。早足で数歩進んだその時、右からザザァ、と乾いた大きな音がした。驚いてそちらに目をやると、背の高い街路樹の葉が一気に枯れ落ちるのが見えた。ああ、冬が来たんだ。この木は今、冬になったんだ。辺りが一層冷え込む。
 毎年、北から冬がやってくる。冬が通り過ぎると、そこから北では気温が下がり、葉が落ち、犬が冬毛になる。
 前方を歩いていた少年たちが「冬が来た!冬が来たぞ!」なんて叫びながら南の方へ走っていく。元気でいいな、などと呑気に思っている場合ではない。秋の装いで家を出てきた僕も一緒になって走らなければ。このままだと寒さにやられて動けなくなってしまう。呼吸を乱しながら、肺を凍て付かせながら、僕は冬から逃げた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?