フィクショナルレイン
2023/12/08
天気は晴れ。立ち止まって上を向いていると、雲の流れがよく見てとれた。僕の視界には小さな雲が五つと、長い飛行機雲が一つ映っている。
つぅ、と右の頬に冷たいものが流れる。僕はそれを手の甲で拭った。天気雨だ。
天気雨は不思議だ。雲なんて数える程しかないのに、この水は一体どこからやってくるんだろう。どうして雨粒を見ることさえできないんだろう。人の体に触れて初めて、水という形で目に触れる。そんなおかしなものが他にあるか。
左頬にも冷たいのを感じる。左手で頬を拭う。雨が強まったのか、僕の頬はますます濡れた。見えないだけでなく、地面に打ち付ける音も聞こえない。
僕はしゃがみ込む。目を瞑る。耳を塞ぐ。荒くなる呼吸を整える。そうしないと気付いてしまう。目に見えない、聞こえない雨などないこと。僕がどうしようもないくらい、泣いていること。
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