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毎日の暮らしを豊かにする余白/香りに恋心を乗せた平安時代の貴族たち

今から1000年以上昔、お香が現代よりも生活と結びついていた時代、お香は気持ちを伝え、病気を治し、暮らしを豊かにしていました。

紫式部の生きた時代

紫式部が生きていた平安時代、貴族たちは恋愛においても、とても優雅で洗練された方法を用いていました。

なんと、想いを寄せる異性に、香りを忍ばせて贈っていたのです。

男性が女性に贈り物をする際に、着物の袖の下に香袋を忍ばせて渡す… これは「忍び香」と呼ばれ、ロマンチックな求愛方法として流行していました。

しかし、女性の場合は少し違います。

当時は通い婚の時代。女性から男性に直接想いを伝えることがはばかられる時代でした。

そこで、女性たちは香袋に和歌を添えて贈ることで、相手に気持ちを伝えたのです。 香りは、和歌に込められた恋心をさらに強く印象づける、いわば恋のスパイスのような役割を果たしていました。

そして、香りは贈る相手によって使い分けられていたそうで、相手の好みや身分、季節などを考慮して香りを調合することで、教養やセンスをアピールしていたようです。

紫式部

この香りを巧みに使いこなしていた代表格が、かの紫式部と言われています。

上級の貴族は高価なお香の原料を使っていましたが、彼女は下級貴族の出で、使える香料は限られていました。 しかし、限られた原料を工夫して調合し、想いを寄せる男性に贈っていました。

平安時代の貴族たちが、異性の気を引くためにお香を活用していたというお話… 現代の私たちにとって、お香は特別な存在となっていますが、遠い昔の貴族たちが、香りで恋を叶えようとしていたと思うと、なんだか親近感が湧いてきました。

めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 雲隠れにし 夜半の月かな
久しぶりに再会できたけれど、あの人だったのかどうかはっきりしないうちに、あっという間に立ち去ってしまった。まるで雲間に隠れてしまった夜中の月のように。

紫式部

香りは、今も昔も私たちの暮らしを彩るもの

紫式部か書いた『源氏物語』には、光源氏が自ら香を調合したり、香の優劣を競い合ったりする場面など、登場人物たちが香を焚いたり、香合わせを楽しんだりする様子が描かれています。

平安貴族にとって、お香は単なる嗜好品ではなく、生活に欠かせないものでした。衣服や手紙に香を焚き染めるなど、あらゆる場面で香りを楽しんでいたようです。

そして、貴重な香木を所有することは、高い身分と教養の象徴でもありました。洗練された香りを身にまとうことで、貴族たちは自らのステータスを表現していました。

現代では、お香は香道のように特別な世界のものと思われがちですが、本来はもっと身近な存在だったのかもしれません。長い、長い歴史の中で育まれたお香の知識を、現代の社会に生かしてみたくなりました。