フェイクニュースは真実よりも速く広く深く拡散されやすい~X(Twitter)上のデータから明らかに~
ソーシャルメディアなどのプラットフォームが急速に発展し、個人が簡単に情報を発信し、世界中の人々と共有できるようになりました。このような状況下で、真実と虚偽の情報がどのように広がるかについて分析した論文「The spread of true and false news online.」によると、フェイクニュースは真実よりも拡散されやすい性質があると指摘されています。
本記事ではこの論文について解説をしつつ、いかにして偽情報が拡散されるかについて議論していきたいと思います。
要約
虚偽の情報が真実の情報よりも圧倒的に広く、速く拡散される傾向がある。
虚偽ツイートが拡散されやすい理由として、情報の「新規性」と受け手の「感情」に関係がある。
虚偽の情報の拡散される要因はとしてボットの影響は少なく、人による拡散が主な要因力である。
研究背景
近年ソーシャルメディア上では、虚偽の情報やフェイクニュースが深刻な社会的問題を引き起こすものとして問題になっています。特に政治的な意図や企業による風評被害など、さまざまな弊害が懸念されています。この現象は、情報のデジタル化とインターネットの普及により、情報の信頼性が従来よりも低くなり、拡散が容易になったことが背景にあります。さらに、ソーシャルメディア上で起きているエコーチェンバーやフィルターバブルの影響により、人々が自らの信念や意見を強化する情報を選択する傾向があることも、フェイクニュースの拡散を促進しています。
真実と虚偽の情報の拡散傾向
MITの研究チームがTwitter上で126,000件以上のツイートの拡散プロセスを分析した結果、虚偽の情報が真実の情報よりも圧倒的に広く、速く拡散される傾向があるということがわかりました。
1. 偽情報は真実よりも広く拡散される
調査の結果によれば、全ての虚偽ツイートのうち、最も広範囲に拡散した上位0.01%の虚偽ツイートは、1,000人から10万人以上の人々に拡散していました。その一方で、真実ツイートはほとんどが1,000人を超えて拡散することがありませんでした(下図B)。
2. 偽情報は真実よりも速く拡散される
さらに、虚偽ツイートは真実ツイートよりも速く、そしてより広範囲の人々に到達していました。例えば、真実ツイートが1,500人に閲覧されるのに対して、虚偽ツイートはその約6倍の速さで拡散されていました(下図F)。
3. 偽情報は真実よりも深く拡散される
また、真実のツイートは10回以上リツイートされることがなかったのに対し、虚偽のツイートはほぼ10倍の速さで10回リツイートされ、最終的には19回リツイートされることが分かりました。(下図E)。虚偽ツイートは人々の間でまるでウイルスのように拡散していくことがわかりました。
さらにトピックごとの拡散のされやすさを比較すると、政治関連の虚偽ツイートの拡散が最も顕著で、他トピックのあらゆる指標を大きく上回っていることがわかります(下図)。
虚偽の情報の拡散理由
なぜ虚偽ツイートがこれほどまでに広がりやすいのでしょうか。本論文では、その理由を情報の「新規性」と受け手の「感情」に関係があると述べています。虚偽ツイートは、人々の好奇心を刺激しやすくて注目を集めやすい一方で、真実の情報は目新しさに欠ける傾向があります。また、虚偽ツイートは「驚き」や「嫌悪感」などの感情を引き起こしやすい一方で、真実の情報は「期待感」や「信頼感」、「喜び」などの感情と強く結びついています。虚偽ツイートのネガティブな感情は人々の関心を引きつけ、拡散を後押ししているのだと考えられています。
虚偽の情報の拡散要因
虚偽ツイートの拡散において先行研究では、人工知能が虚偽ツイートの広がりに関与している可能性が論じられました。しかし、実験ではボットの利用は真実と虚偽の両方のニュースの拡散を促進しましたが、その影響はほぼ同等でした。つまり、虚偽情報の拡散のしやすさに関しては人が情報を共有する際の判断能力が主要な要因ということです。虚偽ツイートに対処するためには、技術的な解決策だけでなく、人々の行動や判断に影響を与える施策が重要と言えます。
まとめ
本論文では、虚偽情報の拡散メカニズムが大規模データから初めて科学的に解明されました。いかに容易に偽情報が広がってしまうのかを示した、極めて重要な知見と言えます。ソーシャルメディアを健全に保つ鍵は、私たち一人ひとりの高い識別力と判断力にあることがわかります。
■「TDAI Labについて」
当社は2016年11月創業、東京大学大学院教授鳥海不二夫研究室(工学系研究科システム創成学専攻)発のAIベンチャーです。AIによる社会的リスクを扱うリーディングカンパニーとして、フェイクニュース対策や生成AIの安全な利用法について発信しています。