AIが生成した画像の著作権問題~過去の判例とサービス提供企業の対応~
近年、人工知能(AI)による画像生成技術が急速に進化し、リアルで高品質な画像を作り出せるようになってきました。ただし、この技術の発展に伴い、AIが生成した画像の著作権をめぐる問題が浮上してきました。果たしてこうした画像には著作権が発生するのでしょうか。そして誰が著作権を持つのか。この問題を実際の裁判例と企業の対応から考えていきます。
生成AIによる画像生成
AIに単語やフレーズを入力するだけで、指定された内容の画像を生成できるのがこの技術の特徴です。DALL-E、Stable Diffusion、Midjourney、Crayonといったサービスが有名です。これらの数多くのサービスはすべて学習元となったデータの著作権やディープフェイクによる問題などさまざまな課題が存在しています。そのため、著作権を巡る問題がクローズアップされています。
AI生成画像の裁判事例
AI生成画像の著作権問題については、すでに米国で複数の裁判例が出ています。以下の事例のように、判例が分かれているのが現状です。AI生成画像の著作権については、人間の創造性の関与度合いが重要な判断基準になっているようです。
米国でAI生成画像の著作権が認められなかったケース (2023年8月)
ワシントンD.C.の連邦地裁は、AIが完全に自動生成した芸術作品には著作権保護が及ばないと判断する画期的な判決を下しました。この裁判では、AIシステム「Creativity Machine」によって生成された芸術作品「A Recent Entrance to Paradise」の著作権登録を求めた事案が争われました。原告のスティーブン・セイラー氏は、Creativity Machineが作品の著作者であり、作品の著作権は法理によって自身に移転されたと主張しました。しかし、裁判官は「人間の著作者が著作権の基本要件であり、著作権法は人間が作成した作品を対象としている」と述べ、人間の関与がない機械生成の作品は著作権保護の対象とならないとしました。これが、AI生成のアートワークが現在の法律の下で人間の関与なしに著作権保護を受けられないというアメリカの裁判所の初めての判決でした。
中国でAI生成画像の著作権が認められたケース (2023年11月)
原告(李雲凱)はAIソフトウェアStable Diffusionを使用して女性の画像を生成し、自身のウォーターマークを付けてソーシャルメディアに投稿しました。被告(劉元春)はウォーターマークを削除し、李の許可なしにこの画像を個人のウェブページで使用し、これが著作権侵害として認められました。裁判所は以下の項目を考慮し、AI生成プロセス中の李の創造的な入力と美的選択が、画像が中国の法律の下で独自の著作権を持つ「作品」と見なされる基準を満たしていると認定しました。
外観、姿勢、フィルターなどの希望する画像要素を生成するために李が提供したキーワード/プロンプト
李による反復的な調整と草案からの最終画像出力の選択
中国でAI生成画像が著作権侵害だと認められたケース (2024年2月)
中国の裁判所が生成AIによって作られた「ウルトラマン」に似た画像について、AIサービスを提供していた企業に著作権侵害の責任を認め、損害賠償と画像生成の停止を命じた判決を下しました。原告は円谷プロダクションから中国でのウルトラマン作品の複製権を取得した中国企業です。この企業が、中国のAIサービス事業者によってウルトラマンに似た画像が無断で生成されていることを発見し、提訴しました。広州インターネット法院は2月8日、生成された画像がウルトラマンの著作物を複製したものと判断し、AIサービス事業者に1万元(約20万円)の賠償と画像生成の停止を命じました。日本でも同様の事案が起きれば、同じような判断が下される可能性があると専門家は指摘し、日本でも文化審議会がこの問題について議論を行っているところです。
生成AIサービスプロバイダーの対応
一方で生成AIサービスを提供している企業はどのような対応をしているのでしょうか。
有名な生成AIサービスを運営する企業の中には、AI生成画像の利用規約に著作権に関する条項を設けているところが多いです。
例えば、ChatGPTやStable Diffusionでは、生成した画像に関する権利は利用者に帰属します。ただし、ライセンスで定められた規定に従う必要があります。具体的には以下のような規定があります。
法律に違反するコンテンツや人に危害を与えるコンテンツの共有
誤った情報の拡散
脆弱なグループを標的にしたコンテンツの作成や拡散
しかし、Adobeが開発したAIであるAdobe Fireflyは、著作権フリーの「Adobe Stock」や、著作者から許諾を受けたデータのみを学習に使用しています。これにより、Adobe Fireflyで生成された画像は著作権フリーで利用でき、商用利用にも適しています。
企業によってスタンスは異なりますが、画像の利用や商用利用については、何らかの権利関係を明確にする対応をとっているのが実情のようです。
まとめ
AI技術の進化に伴い、その画像がますます高品質で芸術性の高いものになっていくと予想されるため、AI生成画像をめぐる著作権問題はこれからも大きな論点になると考えられます。そのため、AI生成画像の扱いについては、細心の注意を払う必要があります。特に商用利用する際は、著作権者から許諾を得ることや最新の法的情勢を確認し、トラブルを回避するよう気を付ける必要があります。
■「TDAI Labについて」
当社は2016年11月創業、東京大学大学院教授鳥海不二夫研究室(工学系研究科システム創成学専攻)発のAIベンチャーです。AIによる社会的リスクを扱うリーディングカンパニーとして、フェイクニュース対策や生成AIの安全な利用法について発信しています。