母の陳腐な夢
この春、息子は大学を卒業する(予定)
いや多分単位は取れている(はず)
卒業式の日が私の子育ての集大成だと思っている。我が子の大学の卒業式。私は着物を着て式典に参列する。というのが長年の母の夢なのだ。
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ワガコの高校の卒業式も大学の入学式も、コロナ禍で親は参加できず。家で配信を見た。
それも思い出か。
高校の入学式は、第一希望の国公立に落ち、夢破れた子達がやってくる形の私立高校で、なんだかお通夜のような入学式だった。笑
中学の入学式も卒業式も冷たい雨の日だった。私はひとりで参列した。
小学校の卒業式は元夫が来て、なんか胃が痛かった事を覚えている。因みに元夫は嗚咽しながら参列していた。なんでお前が泣くんだよ!
小学校の入学式も幼稚園の卒園式も。夫とは別居していたから、仮面夫婦で参列した。
幼稚園の入園式だけが、満開の桜をバックに家族3人、仲良く幸せそうに写っている写真がある。そんな時代もあった。
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そんな我が子の巣立ちと私の子育ての集大成の式典が、大学の卒業式なんだ。だから私はそのハレの日に着物を着る。祖母から譲り受けた、霞んだ薄紫の色無地に黒い帯を合わせて、意気揚々と参列するの。
私の息子が育ち上がったの。私ちゃんと育て上げたのよ!って、自分で自分を褒め称えて、心の中で全世界に自慢したいの。
そして薄紫の着物を凛と着こなした母の私は、レースの付いた薄いピンクのガーゼのハンカチで、そっと目頭を拭うの。
うん。書いてると、陳腐で小さな夢だな。
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母「卒業式行ってもいい?」
息子「いいよ」
母「着物着て行くね」
息子「なんで着物?お願いだから目立たないで」
母「よそのお母さんたちみんな着物だよ」
息子「なわけない。絶対目立つから!」
母「絶対話しかけないから」
息子「洋服だったら話しかけてもいいよ」
母「え?そうなの?」
息子「着物着るなら来ちゃダメ!」
母「なんでよ、ケチ!」
全力で阻止された。
会場は武道館。武道館に着物の母がひとり紛れたところで、絶対に見つからないと思うんだけど。着物より目立つワンピースで参列し、話しかけたいと思います。