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東京五輪マラソン8位の一山が加入。創業150周年Vを目指す資生堂が、代表経験者4人の驚異的な選手層の厚さに【クイーンズ駅伝2022プレビュー③】

 前回2位の資生堂に創業150周年の今季、一山麻緒(25)が加入し、圧倒的な選手層を誇るチームになった。クイーンズ駅伝(全日本実業団対抗女子駅伝)は11月27日、宮城県松島町をスタートし仙台市弘進ゴムアスリートパーク仙台にフィニッシュする6区間42.195kmで行われる。
 資生堂は前回1区区間2位の木村友香(28)が19年世界陸上ドーハ5000m代表で、5区区間賞(区間新)の五島莉乃(25)は今年の世界陸上ドーハ10000m代表に成長した。故障上がりで6区区間4位だった高島由香(34)は、15年世界陸上北京と16年リオ五輪の10000m代表だった。今季はそこに東京五輪と世界陸上オレゴンのマラソン連続代表の一山が加わった。
 これだけ主要区間(1、3、5区)候補選手が充実しているチームは、過去になかったのではないか。そこを生かした戦い方をする。

●優勝を狙うチームを肌で感じている一山と、気持ちが走りを左右する五島

 一山の加入で資生堂は、今年7月の世界陸上ドーハ代表が2人になった。
 マラソン代表だった一山(新型コロナ感染で欠場)は昨年まで、ワコールのエースとして1区と3区を走ってきた。1区では16年に区間賞、3区では20年に区間3位と好走している。10000m代表だった五島は20年大会で3区区間6位、昨年は5区の区間賞を区間新記録で獲得した。実業団でのキャリアは一山が4年長いが、2人は同学年になる。
 移籍1年目の一山は「プレッシャーも少しあります」と言う。オレゴンから帰国後はチームの練習に合流したが、「1人1人の優勝するんだ、という気持ちが伝わってきます。練習は人によって違うのですが、すごく一体感を感じます。優勝へのチームの思いが強いので、失敗できないですね」と感じている。
 出場区間は1区か3区が有力だ。1区は前述のように走り慣れた区間。「コース的には少しタフですけど、前半3.5kmまでの上りが終われば気持ち的には楽になります。区間賞を狙って、2区の選手に勢いをつける走りをしたいです」
 3区は前回、東京五輪(マラソン8位入賞)後の疲れもあり、区間13位と失敗している。「コース的にはまっすぐで、調子が良いときはずっと前を追うことができます。以前はあっと言う間でしたが、去年はすごく長く感じました」
 普通で考えれば経験のある両区間のどちらかが有力だが、後述するように今年の資生堂は、誰が、何区を走っても勝てるチーム作りをしてきた。一山の登場区間も1区か3区と、決まったわけではない。
 五島も前回区間賞の5区と考えるのが普通だが、「どうでしょう(笑)」と質問をかわしている。「どの区間になっても私が1番で帰ってくる(トップに上がる)気持ちで走ります。去年の自分を超える走りが、優勝に貢献することになります」
 岩水嘉孝監督は「五島の練習のタイムは去年と同じくらい」だと話す。速い設定にするとケガをしてしまう懸念もあり、余裕を持ってできるタイムで行っている。
「いつも試合になると期待以上の走りをするのは、気持ちの強さが前面に出るからです。今回の駅伝に対し、どのくらい思いが強いか」
 昨年はプリンセス駅伝でメンバー漏れした悔しさを、クイーンズ駅伝にぶつけた。今年は「去年優勝できなかった悔しさ」や、「ずっと追いかけてきた一山さんと一緒に優勝を目指せること」が、五島の背中を押すことになりそうだ。

●スピード区間に自信を持つ木村と、全ての区間の準備をしている高島

 19年以前の日本代表だったのが木村と高島の2人である。木村は19年世界陸上ドーハ5000mに出場。昨年マークした15分02秒48は日本歴代6位、ラストスパートは歴代日本選手のなかでも屈指のスピードだ。今季は本人も意外だったというが、1500mで4分09秒79(日本歴代6位)と自己記録を更新。10000mで31分51秒05と専門外の2種目で好タイムを出している。
 ただ、初10000mで31分台は評価できるが、「今後10000mを専門とするわけではありません」と明言した。「10000mは練習からリズムがわかりませんでした。それに対して1500mはスピードを出すと気持ち良い」
 そのスピードを生かすとすれば、1区か2区だろうか。1区は昨年区間2位。区間賞の岡本春美(ヤマダホールディングス・24)と同タイムだったが、木村自身は「失敗してしまった」と反省する。
「プリンセス駅伝(1区区間賞)のように速いペースで押して行けたらよかったのですが、プレッシャーに負けて行ききれませんでした。後ろとの差を広げられませんでした」
 優勝した積水化学に、17秒しか差をつけられなかった。今年も1区なら「気持ちの部分で負けず、挑戦していきたい」という。田中希実(豊田自動織機・23。東京五輪1500m8位、世界陸上オレゴン5000m12位)が1区に来ても「田中さんを利用してライバルチームとの差を広げられれば」と走り方に迷いはない。
 2区では16年大会(当時ユニバーサルエンターテインメント所属)で区間賞を取ったことがある。「突っ込む走りをするだけです。それがチームにプラスになる」と、この区間にも自信を持つ。
 高島は10000mで15年世界陸上と16年リオ五輪に出場。リオ五輪では31分36秒44と当時の自己記録に肉薄した。駅伝では13~15年のデンソーの3連勝にエースとして貢献し、資生堂に移籍した16年には3区で3年連続区間賞と、クイーンズ駅伝で快走を続けた。
 17~19年も3区で区間ヒト桁順位を続けたが、20年大会は故障の影響で直前に欠場を決めた。資生堂は出場区間の大幅変更を強いられ、12位でシード落ちした。しかし昨年の高島はプリンセス駅伝5区区間新、クイーンズ駅伝6区区間4位と、再浮上の兆しを見せた。
 そして今季は、「脚の故障」(高島)で夏まではレースに出られなかったが、10月の10000m記録会で32分23秒39の4位。「夏からしっかり練習ができています。ここ数年では一番良い」という状態でクイーンズ駅伝に臨む。
 3区の経験が多いが、デンソー初優勝時は5区で区間2位の走りも見せている。「区間はまだわかりませんが、何年も走れていないのでリベンジの思いもありますし、区間賞争いも久しぶりにしてみたい」と、好調ぶりが言葉の端々に出る。
 だが、次の言葉が意外だった。
「優勝するためにはどの区間も大事です。3区と5区がメインではなく、全部が主要区間です。どの区間にも対応できるように準備をしています」
 インターナショナル区間の4区を除き、全ての区間の準備をする。デンソー時代も、資生堂移籍後も、高島がそうした準備をしたことはなかった。そこに今季の資生堂の特徴と、優勝への強い意思が現れていた。

●「誰も予測できない区間エントリー」(岩水監督)になる可能性

 今年の資生堂は選手層の厚さを生かし、どんな区間配置でも戦えるメンバーで臨む。そこが最大の特徴と言っていい。
 木村が10月に10000mを走ったのは、前述のように距離を伸ばして代表を目指すためではない。「駅伝は10km以上の区間が2つあります。どの区間でも走れるように、スタミナの部分のトレーニングをしてきました。その確認のためです」
 10月の10000m記録会は以下の結果だった。
1)31分44秒52 五島莉乃
2)31分51秒05 木村友香
3)32分23秒14 一山麻緒
4)32分23秒39 高島由香
5)32分32秒39 佐藤成葉
6)32分58秒17 樺沢和佳奈
 佐藤は前回の3区区間6位選手だが、今季前半は貧血で記録が低迷した。9~10月に5000mと10000mのシーズンベストを出したが、自己記録には両種目とも40秒前後の差があった。
「落ち込んでいる時期が何度もありましたが、高島さんに気づいていただき、優しい言葉も、厳しい言葉もたくさんかけていただきました」。同期入社の五島とも「お互いのことを励まし合っている」という。
 10000m記録会には1500mが専門で、前回2区区間6位の樺沢和佳奈(23)まで出場している。「駅伝は10km以上の区間が2つあります。去年はその区間のことなど考えず、人任せにしていました。スタミナ強化の一環で(10000mを)経験してみたかったんです」
 今季は5000mの自己記録を15分40秒19まで伸ばした。それも、全日本実業団陸上という全国大会で、独走で出した記録だ。10km以上の3区と5区は無理でも、1区と6区には十分対応できる。10000mを走ったのは、10km区間を人任せにしない「チームワーク」の意味もあるという。
 2年前に12位とシード権を失ったときは、高島の欠場でほとんどの区間を直前に入れ替えての起用になった。その反省から、優勝を狙う今年は、誰が、どの区間を走ってもいいように、全区間に対応できる練習を行い、試走も全員が「全区間を試走した」(高島)という。
「(代表など)実績に関係なく、今の状態で区間を決めます」と岩水監督。そして「誰も予測できない区間エントリーになるかもしれない」と付け加えた。
 どんな区間配置になろうとも、150周年の資生堂は優勝候補筆頭だ。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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