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クロスカントリー日本選手権展望③ 田中希実

5000m東京五輪内定の田中が優勝候補筆頭
クロスカントリーで激動の“20年度”を締めくくる

 日本選手権クロスカントリーは2月27日、福岡市の海の中道海浜公園で4部門が行われる。シニア女子(8km)の優勝候補筆頭は、東京五輪5000m代表に内定している田中希実(豊田自動織機TC・21)で衆目が一致する。昨年は1500mと3000mで日本記録を更新し、日本選手権は1500m(10月)と5000m(12月)を制した。800 mでも10月の日本選手権で4位に入り、10000mでも1月の京都女子駅伝中・長距離競技会に優勝。自己記録も、19年世界陸上ドーハ大会で14位に入った5000m以外は、800 mから10000mの全ての種目で更新した。専門種目にこだわらないマルチランナーとして、面目躍如の“20年度”となった。
 父親の田中健智コーチはクロスカントリー出場について「現状の確認が目的ですが、800 mから10000mまで取り組んだ年度の締めくくりとして、出るからにはしっかり走りたい」と話した。

●2年前の優勝時のレース内容は?

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 田中希実は一昨年(19年)の今大会に優勝している。海の中道海浜公園のコースは「坂でガンガン攻められる選手はいない」という印象を持った。田中自身も「みんなに合わせた走りだった」という。18年のアジア・クロスカントリー選手権ジュニアの部では日本人3選手に敗れ、クロスカントリーに対して自信を持てていなかった。
 U20世界陸上3000mに優勝するなど、当時もトラックではすでに国際レベルで活躍していたが、今の田中は格段に成長している。
「スタート後に様子を見ながらになりますが、こうしたい、という何かが出てきたら実行に移したい」と言う。田中が仕掛ける可能性は高いと思われる。
 10kmの距離は、今の田中には長い部類に入る。トラックの1500mや3000mで見せたように、前半や中盤で思い切ったペースアップができるとは限らないが、男女を通じて今大会で唯一、東京五輪代表に内定している選手だ。田中本人にその認識はないが、客観的に見れば今回のメンバーの中で田中の力は一枚上だろう。
 独走が難しく接戦となることが多い大会で、17年大会以降の1・2位差は以下の通りである。
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16年・1秒:阿部有香里(しまむら)―木村友香(ユニバーサルエンターテインメント)
17年・3秒:一山麻緒(ワコール)―堀優花(パナソニック)
18年・3秒:木村友香(ユニバーサルエンターテインメント)―阿部有香里(しまむら)
19年・1秒:田中希実(ND28AC)―山ノ内みなみ(京セラ)
20年・1秒:石澤ゆかり(エディオン)―和田有菜(名城大)
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 過去5年で1秒差が3回と、3秒差が2回。田中が今年、2位に何秒差をつけるかが注目ポイントになる。

●ニュージーランド遠征で新谷に敗れ覚悟を決める

 田中コーチが今大会を位置づけるとき、“年度”で区切ったのにはワケがある。田中は昨年2月が、練習パターンを大きく変えるきっかけになったのだ。
 ニュージーランド遠征中の5000mで新谷仁美(積水化学)と対戦し、田中は15分24秒98で2位。優勝した新谷に18秒引き離された。新谷との差を見せつけられ、2人はレース後に今後の方針を話し合った。出した結論は、練習のベースとなるジョグの質を上げることだった。
「ポイント練習以外の日のジョグのペースを、1km4分00秒以上かからないようにしました。それまでは疲れていたらスピードを落としていたんです。自分の特徴は人よりスピードがあることだと思っていたので、ポイント練習を疲労のない軽い状態でやらないとダメだと思っていました。それを2月からは、きつくてもジョグの質を高めました」
 もともと田中のポイント練習は質が高いため、頻度は少ない。だがジョグを4分00秒以内で走るということは、ポイント練習翌日に疲れがある状態のときなど、ポイント練習に近い負荷になる。
「その結果スピード練習でも間を休まずできるようになったり、我慢することを覚えたりしました。今はきついのが楽しみに感じられるくらい、意識が変わっています」
 練習のベースを上げられたことで、連戦でも複数種目の自己記録更新を続けるシーズンを送ることができた。その最後に、この1年間は出場する機会がなかったクロスカントリーでも、しっかりとした結果を残す。すべての種目で成長したことを示したいと考えている。

●高松と和田の同学年選手たちもライバル視

 客観的に見れば優勝候補筆頭であるが、田中に油断はまったく見られない。
 当初は廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ・20)がエントリーしていたので、廣中との戦いを想定していた。日本選手権5000mで0.46秒差の激戦を繰り広げた相手である。田中が競り勝ったが大会後に、「スタート前で負けていた精神状態でした」と包み隠さず話した。10月の後半以降の練習が予定していたレベルでできず、自信を持てないでいたのだ。
 今回のクロスカントリーに向けてもコロナ禍の影響で、2年前の優勝時には使えたクロスカントリーのコースが使用できず、トラック練習で仕上げなければいけなくなった。
「あのときとは逆の取り組みしかできませんでしたが、その状態でどこまで通用するか。“自分に負けない”ことをテーマにしていました。どんなレースになっても、後悔しない走りをします」
 廣中の欠場が判明したが、ライバルは他にもいる。日本選手権後には3位の萩谷楓(エディオン・20)のことも、その成長を認めていた。今回の取材時には和田有菜と高松智美ムセンビの名城大3年生コンビの名前を挙げていた。
 高松は2年前の今大会3位で、並走したときに強さを感じた。「クロカンではトラックにプラスアルファの力を出せる選手」と警戒する。和田は18年3月のアジア・クロスカントリー選手権ジュニアの部で優勝している。そのレースで4位と敗れた田中は「気持ちが強い選手」と感じている。「その2人にも負けたくありません」と、高校時代から戦ってきた同学年の2人も意識している。
 田中は五輪代表になっても、自身が抜きん出た存在だとは少しも思っていない。だから、どんなときも自身のトレーニングに妥協しない。新谷に敗れたことを機に、トレーニングのレベルを上げてからちょうど1年が経つ。簡単に負けるわけにはいかない大会である。

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TEXT by 寺田辰朗 写真提供:フォート・キシモト

27日(土)午後3時30分 TBS系列
『クロスカントリー日本選手権』


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