2020年2月9日「風をよむ~ウイルス・細菌と人類~」
中国の店員「マスクを着けてないなら入っちゃいけない」
女性「政府の規制は正しいの?」
店員「つばを飛ばさないで!これは公衆衛生のためよ」
新型コロナウイルスを巡る騒ぎは、ニューヨークでも・・・
一方、中国人観光客の姿が消えたフランスの免税店では・・・
店員「中国人が一番買ってくれるので困っている。(騒動が)早く終わらないと店が生き残れない」
世界に混乱を招いている感染症。
感染症とは細菌やウイルスなどが体内で増殖しておこる病気。
日本では、“疫病”とも呼ばれました。
人類は、その長い歩みの中で、ウイルスや細菌などとどのように向き合い、暮らしてきたのでしょう?
生物誕生以来の生命の姿を研究する、科学者の中村桂子さんは・・・
中村桂子・JT生命誌研究館館長「自然の中にはバクテリア(細菌)がいたり、ウイルスがいたり、いろんなものがいるわけで、人類がこの地球上に登場した時には、もうそういうものはいた。ある意味では時々戦ったり、ずっと長い間、一緒に生きてきた」
古くはローマ帝国。その時代に猛威を振るった天然痘やマラリアが、帝国の滅亡を早めた、とも言われます。
14世紀には、ペストがヨーロッパで大流行。
皮膚が黒くなって死に至るため「黒死病(こくしびょう)」と呼ばれ、当時の世界全人口の4分の1にあたる人が死亡したと言われています。
このペスト大流行の背景には、人間社会の大きな変化がありました。
中村桂子・JT生命誌研究館館長「狩猟・採集社会の時は、バラバラだから気にしなくてよかったんだけど、農業を始めて、割合、密に暮らすようになって、さらに都市を作って、もっと、密に暮らすようになった。そうするとあちら側(ウイルスなど)から見ると感染しやすい」
人や物の交流が活発化し、都市ができたことが感染症の流行を招いたのです。
ペスト流行をきっかけに、<公衆衛生>の大切さに目覚めた人々は、パリやロンドンなど大都市で、大規模な下水道などを造成しました。
さらに19世紀、世界を襲ったのが、コレラです。
1817年、インドで始まったコレラの流行は、ヨーロッパ、さらに、江戸時代の日本にまで到達。
死亡率の高さから、江戸っ子は「ころり」と呼んで、恐れました。
この流行の背景となったのが、18世紀、イギリスで始まった産業革命。
この歴史的大変化は世界各国に波及。
その波に乗ってコレラも、世界に広がったのです。
そして20世紀。世界は、史上最悪の感染症に襲われます。
第一次大戦さなかの1918年、アメリカで強い伝染力を持つ感染症が発生。
のちに、“スペイン風邪”と呼ばれるインフルエンザです。
アメリカから、ヨーロッパ、さらにアフリカへと地球規模で拡大、一説には死者1億人ともいわれる、最悪のインフルエンザ。
この爆発的な流行を、もたらした背景には何があったのでしょう?
第一次大戦を伝えるアメリカのニュース「アメリカは海外に200万人を超える兵士を派遣した」
第一次大戦下、ヨーロッパに出征した多数のアメリカ兵。
その中に含まれる感染者により、ウイルスは国外へと運ばれたのです。
しかし感染症による戦力低下を、敵国に悟られたくない国々は、インフルエンザに関わる情報を隠蔽。
戦火の中、感染は拡大しました。
感染症は、国家の<安全保障>を左右する要素を背負ったのです。
この間、中立を保ったスペインが、感染症の情報を発信したことから、スペイン風邪と呼ばれるようになりました。
そして、ここ数十年の感染症の歩みを振り返れば・・・
SARS、エボラ出血熱など、新たな感染症が出現。
共通するのは、SARSはコウモリ、エボラ出血熱はコウモリやチンパンジーなど、野生動物と人間との接触が発生の原因と考えられることです。
さらに今、感染を広げつつある新型コロナウイルスでも、コウモリから野生動物を介して、広がった可能性が指摘されています。
つぎつぎに現れる、感染症を引き起こすウイルスや細菌。
それは、なにを問いかけているのでしょう?
中村桂子・JT生命誌研究館館長「私たち(人間)はすぐに役に立つか?とか、必要か?っていうけど、自然界にいる以上、全てのものが、いることに意味があるので、別に必要だから、いるわけでも何でもない。私、いるから、いますよってわけで・・・」
中村桂子・JT生命誌研究館館長「病原体として出てきた時には、なるべく減らさなくてはいけないし、そういう意味では戦わなきゃいけないが、ゼロにしちゃう、何もなくなる、それが良いわけではない。そういうもの(ウイルスなど)がいる世界で、(人間も)生きているんだよなぁ、という感覚は持ち続けないと生きているということにはならない」
何かにつけ、自分たちに都合よく考えようとする、人間への問いかけでしょうか?