2021年8月29日放送風をよむ「3.5%のチカラ」
女性「いま洪水に見舞われています。本当に怖い」
これは今月21日、アメリカ・テネシー州を襲った洪水で、自宅が
濁流にのまれ亡くなった55歳の女性が、SNS上で行ったライブ中継の模様です。
女性「なんてことなの、なんてこと・・・」
大規模な洪水で、この女性を含む少なくとも22人が死亡。生後7か月の双子の赤ちゃんも命を落としたのです。
こうした豪雨が、この夏、世界各地で深刻な被害をもたらしています。
先月、中国河南省を襲った豪雨では、大量の水が地下鉄に流れ込み、乗客の首のあたりまで水が迫りました。
乗客「スマートフォンの電池がなくなってきた。これが最後のメッセージになるかもしれない」
さらにドイツやベルギーなどでも大規模な洪水が発生し、少なくとも220人が死亡。
またグリーンランドでは、標高3千メートルを超す地点で14日、雨を観測。雪ではなく、雨が降ったのは、観測史上初めてだといいます。
そして日本でも…
同じ地域に大量の雨を降らせる線状降水帯が発生。九州で河川が氾濫するなど、甚大な被害をもたらしました。
こうした異常気象は大雨だけではありません。
世界各地を襲った異常な高温。イタリアでは11日、シチリア島の気温がヨーロッパ観測史上最高とみられる48.8度を記録。
記録的な熱波により、アルジェリアなどでも大規模な山火事が発生したのです。
いま、世界の気候に何が起きているのでしょうか。
この夏、国連のIPCC=気候変動に関する政府間パネルは、新たな報告書を公表しました。
IPCC議長「人間の活動が気候変動と極端な気象をより激化させ頻度を高くしていることに議論の余地はない」
気候変動が社会にもたらす影響について著書「人新世の資本論」で知られる経済思想家の斎藤幸平さんは・・・
斎藤幸平さん「5%ぐらいの富裕層の人たちが、自分たちの生活を守るために今まで通りの生活を続ける一方で、残りの大勢の人たちが見捨てられて、気候変動による災害になすがままにされ、助けも与えられないような、完全に分断された超格差社会がやってくる。そういう危機感を持った概念が〝気候ファシズム〟」
気候変動の影響をあまり受けない富裕層がいる一方で、その他大勢の人々には手が差し伸べられず、さらに格差が広がる状況を、斉藤さんは 「気候ファシズム」と呼びます。
さらに…
アフリカ・マダガスカル。現在、過去40年間で最悪の干ばつに見舞われ、114万人以上が食料不足に陥っています。
地元住民「毎朝、虫を皿に盛りつけます。水がなく洗えないので、汚れをとってきれいにします。他に食べるものがないし、雨も降らず収穫できないので、この植物を8か月も食べ続けています」
貧しい人々や社会的弱者に、より深刻な影響を及ぼす気候変動。ユニセフ=国連児童基金は、20日、気候変動が子どもたちに与えるリスクについてまとめた、初めての報告書を発表しました。
そこでは、世界の子どものうち、およそ8億5千万人が、気候変動の影響で「生きていくのが極めて厳しい環境にいる」としたのです。
スウェーデン人の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんも…
グレタ・トゥンベリさん「子どもは気候変動を引き起こしたわけではありません。なのに、この危機に最も影響を受け、最も苦しめられているのです」
こうした気候変動問題に打開策はあるのか。それを考える鍵ともいえる
ハーバード大学の政治学者による研究があります。
それは社会の「3.5%」の人が、非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、社会が大きく変わるというもの。1986年のフィリピン・マルコス政権を打倒したピープルパワー革命などの例をあげて論じています。
斎藤幸平さん「実は私たちが思っているよりも少ない人数であっても、社会に大きな変化を起こすことができる。3.5%の人たちが大胆な変化を求めて動き出せば、社会の人々の意識は大きく変わっていく。気候変動の本質的な原因は、無限の経済成長を目指し続ける資本主義。資本主義に緊急ブレーキをかけて、脱成長型の社会に移行しなければいけない」
気候変動によって、格差や分断が深刻化する今の社会。
異常気象が続くこの夏、そのありようが問われています―