2020年10月11日「風をよむ　～ノーベル平和賞」

９日、記者会見に臨んでいたＷＦＰ＝世界食糧計画の報道官。その最中、机に置かれたものに目をやると・・・

ＷＦＰ・フィリ報道官「私の話はここで終わりにしようかと思っていたが・・・。今ノーベル平和賞がＷＦＰに決まったと知った」 

世界各地で食料支援を行う国連機関・WFPが、今年のノーベル平和賞に選ばれたのです。

ノーベル委員会は「飢餓の解消や平和に向けて貢献し、紛争の武器として飢餓が利用されるのを防ぐ努力をした」と評価。さらに・・・

ノーベル委員会「新型コロナの感染拡大に直面し、ＷＦＰは食料支援の取り組みをさらに強化するという優れた力を示しました」

新型コロナにより活動が困難を極める中、飢餓の瀬戸際に立たされた人々に手を差し伸べてきたことにも、光が当てられた形です。

その時代の、世界の課題を映し出すノーベル平和賞。1901年の創設から、今年で120年目となります。

自ら発明したダイナマイトが戦争に使われたことへの反省から、スウェーデンのアルフレッド・ノーベルの遺言に基づき創設された平和賞。

その対象は「国家間の友愛、常備軍の廃止 または削減、平和会議の開催や促進の為に最も貢献した人物」とされます。

確かに初期の受賞者を見ると、第１回の受賞者が、国際赤十字の創設者、スイスのアンリ・デュナン。その後もヨーロッパを中心とした平和運動の指導者が目立ちます。

第2次世界大戦後は、アフリカの人々への医療に尽くしたシュヴァイツアーや、黒人の差別撤廃を訴えたキング牧師。

さらに、インドで貧しい人々などの救済活動に生涯を捧げたマザー・テレサなど、多様な人道的活動も受賞対象となったのです。

マザーテレサ「祈ります、神が人々に与えてくださるように。ワクチンなど必要なものを与えてくださるように」

その一方で、時に物議を醸すような受賞が、1970年代くらいから見られるようになります。

平和賞の歴史に詳しい東海大の羽生教授は…

東海大学・羽生浩一教授「ノーベル平和賞は元々、平和運動や紛争の調停、国際問題の解決に当たった個人や団体に与える、いわゆる褒賞という意味合いが大きかった。しかし、平和賞の地位や名声、影響力が非常に大きくなる中で、政治的中立性を破るような受賞を決める例も出てきた」

1973年、ベトナム戦争の和平交渉によって、アメリカのキッシンジャー国務長官と、北ベトナムのレ・ドク・ト氏に賞が授与。

ところが、アメリカが和平協定に違反しているとして、レ・ドク・ト氏は史上初めて平和賞を辞退することとなったのです。

さらに政治家などへの賞の授与には、その後の「実効性」を問う声も･･･。

1978年、イスラエルのベギン首相と、エジプトのサダト大統領が中東和平のためのキャンプ・デービッド合意を結んだことで受賞。ところが、そのわずか4年後にイスラエルはレバノンに侵攻します。

さらに、このケースでも･･･。

1991年、ミャンマーの民主化運動の指導者として、アウン・サン・スー・チー氏がノーベル平和賞を受賞。

ところがその後、スー・チー氏が政権の事実上のトップとなると、イスラム教徒の少数民族「ロヒンギャ」への迫害に対し、十分な行動を取っていないとして非難されたのです。

さらにアメリカのオバマ前大統領も「核なき世界」を提唱し、受賞しましたが、その後、世界は「核なき世界」どころか、核拡散が続いています。

その実効性や意義に疑問を投げかけられることもあるノーベル平和賞。一方で、平和賞はその時代の世界の「映し鏡」の様相も呈します。

ワンガイ・マータイさん「スローガンはモッタイナイ」

2004年には、環境保護問題などに取り組んだケニアのワンガリ・マータイさんが受賞。

2007年には地球温暖化防止を訴えるゴア元副大統領と、ＩＰＣＣ＝国連の気候変動に関する政府間パネルが受賞。こうした環境問題への取り組みに賞が贈られる一方･･･。

マララ・ユスフザイさん「１人の子ども、１人の先生、１冊の本、１本のペンが世界を変えるのです。教育こそが唯一の解決策です」

2014年には子供たちへの教育の権利を訴えたマララ・ユスフザイさん。

2018年には性的暴行を受けた女性の治療を続けるムクウェゲ医師と、過激派組織「イスラム国」による性暴力を受けた人権活動家ナディア・ムラドさんが受賞するなど、女性や子供などの権利向上に努めた人々に贈られています。

創設から1世紀以上経て、時に賛否を巻き起こしてきたノーベル平和賞。今年はＷＦＰ＝世界食糧計画に贈られました。