2021年6月20日放送「風をよむ~ 言葉のちから」
水曜日、閉会した国会。150日の会期の中でもとりわけ印象に残ったのは、東京オリンピック・パラリンピック開催の是非について問われた菅総理の答弁です―
立憲民主党・山井和則衆院議員「ステージ3の感染急増、あるいはステージ4の感染爆発。そういう状況でもオリンピックパラリンピックは開催されるんですか」
菅首相「開催に当たっては、選手や大会関係の感染対策を講じて、安心の上、参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていくのが責務だと思います」
立憲民主党・山井和則衆院議員「質問に答えてください、質問に」「オリンピックはやるんですか?」
菅首相「開催に当たっては、選手や大会関係の感染対策を講じて、安心の 上、参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていく―」
立憲民主党・山井和則衆院議員「強行されるんですか、されないんですか?」
菅首相「さっきから何回も申し上げています。開催に当たっては、よく聞いていください。選手や大会関係の感染対策を講じて、安心して参加できるようにするとともに国民の命と健康を守っていく――」
紙に目を落とし、「国民の命と健康を守る」というフレーズを6回も繰り替えす菅総理に、ネット上では「やぎさん答弁」なる言葉が話題になりました。
♪「白ヤギさんからお手紙ついた 黒ヤギさんたら読まずに食べた…」
童謡「やぎさんゆうびん」。紙はやぎの大好物なので、受け取った手紙の中身も見ずに食べてしまい、結局用件が何か分らない。質問と答えが一向に噛み合わないやりとりが、「やぎさん答弁」と揶揄されたのです。
こうした菅総理の「言葉」について、毎日新聞の与良正男さんは…
毎日新聞・与良正男専門編集委員「私たちメディアは新しい話を追いかける。同じ話を繰り返し、ずっと続けられるとニュースにならない。新しい話はないから報道もされない。それはもしかすると菅さんにとって好都合かもしれない、術中にはまっているかもしれない」
そして今、菅総理に限らず、政治家が発する言葉の持つ力を、考えさせられるケースが増えています。例えば…
小池百合子都知事「密閉、密集、密接。この3つの密を避ける」「密です密です」
新型コロナの感染拡大が深刻化した去年3月、厚生労働省が提唱した「3密」。感染対策の代名詞として、大きな効果を挙げました。
ところが、それから1年余り…
小池百合子都知事「(午後)8時にはみんなカエル」「8時だよ、みんなかえろう!」
カエルが描かれたフリップを取り出し、「午後8時にはみんなかえる」と 小池知事が呼び掛けても、今月、夜間の人出は増加傾向、路上飲みを行う若者も依然として見られます。
あるいは最近では、「3密」にならうかのように…
橋本聖子大会組織委員会会長「私たちは3つの徹底、いわゆる“3徹”を行います」
こちらの広がりは今ひとつ…
こうした、言葉が国民の心に届きにくくなった状況を、日本語学者の金田一秀穂さんは…
金田一秀穂教授(杏林大学・日本語学)
「要するにみんな飽きたんですよね。キャッチフレーズをどんどん作りすぎ。人工的に作った言葉だから生きてないですよ。消費されてしまう、消耗されちゃうんですね、言葉が…」
大きな影響力を持つ政治家の言葉は、それだけ社会に大きな意味を持ちます。
ところが、今や、政治家が言葉をやりとりし、議論を深める国会の場でも異変が生じているのです…。
菅首相「記憶に残ってますのは、オランダのへーシング選手です…」
先月、緊急事態宣言の延長を受けて、国会で追及された菅総理。質問に、正面から答えない姿勢が…。
立憲民主党・蓮舫代表代行「(宣言が)延期に追い込まれてしまった。その理由は何だと分析していますか?」
菅首相「人流については、減少させることができた」
蓮舫代表代行「原因を伺ったのに違うことを答えられると、審議が実りあるものにならない。人流は減っても、実は感染は拡大している」菅首相「感染者の数が減少しないから、宣言をさせていただいたということ」
また2年ぶりに行われた党首討論の場でも…
菅首相「57年前の東京オリンピック大会。高校生でしたけど、いまだ鮮明に記憶しています。例えば東洋の魔女といわれたバレー選手、回転レシーブというのがありました。ボールに食いつくようにボールを拾って得点を挙げておりました。非常に印象に残っております」
と、2分半に渡って、自身の思い出話を問わず語り。こうした国会の状況について、与良さんは…
毎日新聞・与良正男専門編集委員「国会っていうのは、野党の質問に対して答えるだけじゃなくて、その後ろに、国民がいるんだと、やっぱり忘れている。言葉っていうのは大事であって、(政治は)言葉の戦いでもあるわけですよ。そこがもう完全に軽視されている。政治家の言葉そのものも軽くなっているだけでなく、本当に衰えている感じがします」
コロナで社会が大きく揺れ動く中、改めて政治家の「言葉の力」が問われています―