🇧🇹ブータンがワクチン開始5日で接種率50%超えた件

世界中で進む、新型コロナウイルスのワクチン接種。去年１２月にアメリカなどで始まり、日本でも２月１７日から医療関係者、４月１２日から高齢者への接種が行われています。
１月に、イスラエル在住日本人にワクチン事情を聞いて以来、接種スピードは世界でイスラエルがぶっちぎりだと信じて疑っていませんでした。最新の接種率を調べようとオックスフォード大の統計サイトを覗いてみると・・・
イスラエルの上にアフリカのセーシェル、とヒマラヤの小国ブータンが。
ブータン、個人的に完全ノーマークでした…
幸福度が高いとかイケメン国王といったイメージが強いブータンのワクチン事情をまとめました。

それは突然だった

（Our World in Dataより　急に真上に伸びているのがブータン。日本は一番下のライン）

３月２７日にワクチン接種を開始するやいなや、接種率１１．１４％と、１日で全国民の１０人に１人以上が受けた計算。２９日には３５．６％、３１日には５１．１６％と５日間で半分を超えた。接種開始から９日、４月４日に６０％超え、４月１２日にイスラエルを抜いていた。
４月１７日時点で、６２．０１％が１度目の接種を完了している。成人人口の接種率で言うと開始１週間で90%を超えた(The economist調べ)。

ブータンの基礎データ

人口：７７万１６０８（２０２０年、UN DATA）＝福井県人口とほぼ同じ
国土：３８，３９０㎢（福井県の約９倍）
新型コロナ感染者数： ９６１（４月２０日時点、Johns Hopkins大調べ）
新型コロナによる死者：１ 　（４月２０日時点、Johns Hopkins大調べ）

　　　　　　（首都ティンプーでの祭りの様子２０１５年）

ブータンどれだけ速いのか

接種が進んでいる国々と比べてみる。人口１０万弱のセーシェルは中国のシノバック製のワクチン接種が進む。

【ワクチン接種が進む各国が接種率 約５０％に達したタイミング】

イスラエル：１２月２０日開始、２月２１日に５０．３３％。約２ヶ月。
イギリス　：１２月８日開始、４月１８日に４８．５１％。　４ヶ月以上。
セーシェル：１月１０日開始、２月２５日に５２．４５％。　約１ヶ月半。

ブータン　：３月２７日開始、３月３１日に５１．１６％。　　５日間。

ブータン保健省は、１８歳以上だけに限れば開始2週間で９３％以上が接種を完了したと報告している（イスラエルも１６歳以上の８１％が２度めの接種を終えていて、今後、接種対象を１２歳に引き下げる方針だ。イスラエルは今週ファイザーとモデルナと計１６００万回分のワクチンを契約した）。

ブータンは南にインド、北に中国がある土地柄、どこのワクチンを使用しているのかと思って調べると、すべてインドで生産されたアストラゼネカ製。インド政府から寄付されたものだという。２度目の接種は１度目の８～１２週間後になる予定だ。

仏教がワクチン接種開始にも影響

実は１月の時点でインドからのワクチン１５万回分が提供されていたが、すぐに接種を始めず、３月末までずれ込んだのには理由がある。
ひとつは、ブータン政府が、短期間で国民への接種を完了させることで同レベルの免疫を得られるようにしていること。もうひとつは、仏教だという。

ブータンで最初にワクチンを接種したのは、申年の３０歳の女性公務員ニンダ・デマさんで、注射を打ったのも同じく申年の看護師だった。ブータンでは申年生まれが「独創的で、困難を解決しやすい」と信じられていて、僧侶たちが３０歳の申年の女性を接種第一号に、と決めたという。選ばれし申年の女性同士による最初のワクチン接種は、縁起が良いとされた２０２１年３月２７日午前９時半、周りの人がお経を唱えるなか行われ、その様子はテレビで生中継された（サムネイルの写真がその際の様子）。

（接種第一号の申年のニンダさん。「接種後異常はない、国と自身を守るためにワクチンを打ってください」と話す）

僧侶たちが「２月１４日から３月１３日は縁起が悪い」と警告、より良い日＝３月２７日に開始すべきだとその日を待っていたという。

バングラデシュから帰国後隔離中に接種を受けたロテ・ツェリン首相。申年のニンダさんに次ぐブータンの接種第2号になった（首相府SNSより）

そこからのスピード感

NYタイムズは、驚異的な接種スピードの理由について ・そもそもブータンではワクチンに対する忌避感がある人が少なかったこと ・ワクチン接種に関して、縦割りではなく、中央政府からローカルコミュニティ、ボランティアまで一貫して巻き込み実施したこと ・僻地で暮らす国民にもともときちんと行き届いていた無料の医療体制などを挙げた。７５万ほどの人口であればそれは可能だった、という。

もちろん中には、麦の収穫に支障が出るといった理由や副反応がこわい、という声が聞かれたが、ボランティアがきちんと説明し説得した。また、ある村では村長が最初に接種して安全だと身をもって示し、ほかの村民も続くようになった。

僻地へのワクチンは

上記で記したように、福井県と同じくらいの人口ながら、面積は福井県の９倍以上のブータン。首都ティンプーは舗装されているものの、田舎の道はがたがたで、よく土砂崩れが起きていた（２０１５年時点の話です）。

車でも行けないような辺鄙な場所に住む人たちにどのようにワクチンを届けるのだろうか。正解は・・・

ヘリコプター🚁
ヘリはワクチンと医療関係者を乗せて、およそ１２００ヶ所に設置されたワクチンセンターへ。場所によってはヘリを降りたあと、ヒマラヤの山道や雪道を１０時間以上ハイキングで進んだこともあった。また高地では接種後、副反応にそなえ酸素ボンベも運んだという。
ワクチンセンターは通常、学校などに設置されているが、一部では、接種テントをボランティアが設置した。

接種テントの敵

せっかく建てたテントをヤクが破壊してしまうことがあるそうだ。いかにもブータンらしい。


報道局デジタル編集部　遠藤弥生

人口や国土の広さなどが違うので一概に比較はできませんが、皮肉にも無償でワクチンを提供してくれたインドの７倍の速さで接種が進むブータン。ワクチンを手に入れ、円滑に国民に供給するには”ワクチン外交”といわれる交渉やリーダーシップがあったと思います。ワンチュク国王（４１）は「国民全員が接種を完了するまで自分は打たない」と話しているそうです。まずはトップが接種する国が多い中、珍しいことです。

日本は医療関係者への接種が始まった２月１７日から５０日が経った今月１９日時点での接種率は１．０１％。
今後、ワクチンを無駄にすることなく、希望する人にスピード感をもっていきわたらせることは、できるのでしょうか。

世界のワクチン事情について取材しています

その後、ブータン在住の日本人女性に詳しいワクチン事情を聞きました

カナダ在住４０代日本人に２度目接種後の副反応などを聞いた動画はコチラ

イスラエル在住６０代日本人にワクチンのいろいろ聞いた動画はコチラ

NY在住４０代日本人に聞いた予約争奪戦や副反応についてのNOTEはコチラ↓