横断幕

14億人のウイルス封じ込め作戦


中国版Twitter“微博(ウェイボー)”で話題になっているホット検索ワード“热搜(rè sōu)”をもとに、「中国の今」を紹介していきます。今回のホット検索ワードは「新型コロナウイルス」です。

中国ではこの1ヶ月、新型コロナウイルス以外の話題はありません。皆が「国難」という言葉を使い、14億人が団結して新型ウイルスと戦っています。日本でも感染が拡大する中、中国南京市で生活する私から、中国市民の現状についてお伝えしていきます。

最前線の医師3000人が感染

新型コロナウイルスと戦うため、中国全土から自ら志願した3万2000人以上の医師たちが、最前線の湖北省・武漢市へ駆けつけています。私の住む南京からも、多くの医師が家族を置いて、武漢に向かいました。そんな中、医師や看護師など医療従事者の感染者数は2月24日時点で3000人を超え、22人以上が亡くなりました。20〜30代の若い医師も何人も亡くなり、今もその数は増え続けています。日本では「風邪やインフルエンザと変わらないのでは」という人がいると聞きましたが、少なくともこれまで風邪やインフルエンザを治療する医者が1ヶ月で22人も亡くなったという話は聞いたことがありません。家族を残し、医師としての使命を果たすために現場で治療に当たる医師たちに、心から敬意を評します。


中国コロナ1

(治療中に感染して亡くなった医者たち  ウェイボーより)


ゴーストタウンと化した南京の街

南京市では徹底的なウイルス封じ込め作戦を実施し、外部から南京に入って来た人全員に、一切の例外なく2週間の自宅待機を命じました。さらに、学校は全て休校、会社を再開するのも制限が厳しく、未だに多くの人が自宅待機をしています。本来は春節で賑わうはずだったであろう南京中心街。春節から現在に至るまで依然として人も車もあまり見かけない日々が続いています。

人通りないショッピングモール

(人通りのない春節のショッピングモール  撮影:作成者)


中国最先端のサービスが、自宅待機生活を救う

現在も、外出には厳しい制限がかかっています。例えば私の家の地区では、
外へ出る場合毎回パスポートを見せ、体調と名前・電話番号を記入する必要があります。そして食事やスーパー以外の外出は控えるようにと繰り返し言われてきました。さらに外出の際にはマスクをしなければなりません。さもないと近くの小さなコンビニでさえも中に入れないため、自分の持っているマスクの数が少なくなるにつれて不安になりました。そのため私は流行りのデリバリーサービスを利用して食事や買い物をすることで外出を控えることができました。しかもこのデリバリー、以前までは配達員と面と向かって手渡ししてもらっていました。それが感染拡大以降、配達員が入口に商品を置いておいてくれるようになったのです。もちろん、支払いはスマホ決済で済ませるため、現金の受け渡しもありません。こうして他人と会わず外出も控えることができるのです。デリバリー配達員の方には本当に感謝の気持ちでいっぱいでした。もし中国のデリバリーサービスとキャッシュレスがこれほど発達していなければ、多くの人は不安の中で外出せざるを得ないでしょう・・・

デリバリーサービス

(デリバリーサービス  北京日報より)


団地レベルでの感染抑止策

南京市では、2月19日〜24日まで「6日間連続で新感染者がゼロ」となり、その取り組みが注目されています。まず「小区」と呼ばれる日本の団地にあたるコミュニティで、小区を出入りする人の徹底管理が行われています。小区に入る時は必ず守衛さんの体温検査を通らないと、家に帰れません。こうした管理を現場で行っている方の多くは地域のボランティアの方でした。地域のコミュニティが一体となって感染を防ごうとしているのです。

小区

(小区でボランティアする人  撮影:作成者)


またファストフード店では早くから営業が再開されていました。ただその感染対策も強化されています。入店すると体温を測り、アルコールタオルを貰った後、手を消毒します。そして個別に分かれたテーブルに一人一人座るのです。これによって人と人が向き合って食事をすることがないのです。

ファストフード座席

(ファストフード店の座席配置  撮影:作成者)


このように中国の感染対策は、ウイルスが日常生活の至る所に存在するというのが前提なのです。エレベーターのボタンを押す時も、ドアノブを触る時も、使い捨ての紙や手袋を使います。

エレベータ備えつけの紙

(エレベーターにある使い捨てちり紙   撮影:作成者)


新学期延期もオンライン授業で

感染拡大の影響で学校の新学期開校が遅れる中、授業は止めてはならないと、南京大学では先週からオンライン授業が始りました。小学校から大学までの中国人学生が自宅で授業を受けているのに加え、多くの学習塾でもオンライン授業を提供しています。事前に教師から教材がオンライン上で送られ、決められた時間にログインして授業を受けるのです。こうして広がったオンライン教育は従来の教育機関に代わるものとして、今後さらに拡大していくでしょう。

オンライン授業

(オンライン授業  北京日報より)

潔癖症が激増

感染が拡大していく中で、街中にスローガンが書かれた横断幕が掲げられています。外出を避けることやマスク着用を呼びかけたり、医療関係者や武漢市民を激励する横断幕や動画が町中に溢れ、中国が一つになって闘っていこうとする雰囲気を作り出しています。

横断幕

(横断幕「集会は控え、外出も控えよう、一年間苦労したから、今はちょうど休もう」  撮影:作成者)

SNSではこうした激励に加え、様々な自己防衛対策の情報が出回り、私も周りの中国人から除菌シートでスマホを拭くことやマスクの種類について教わりました。かつては日本が潔癖症大国で、中国はそれほどでもなかった印象でしたが、新型コロナが拡大する中で、中国人の感染に対する危機感は日本人の私が驚くほど高くなったのです。


中国人から日本人へのメッセージ

173万人のフォロワーを持つ私のウェイボー(中国版Twitter)には現在、
「日本は大丈夫ですか?」「日本は武漢から何も学んでいない」「なぜもっと危機感を持たないのか」というメッセージが毎日大量に届いています。中国にいる私は、日本人たちは今、新型コロナに関してどう考えているのか知りたくなり、弊社のチャンネルで東京の若者に街頭インタビューをしたところ、若者たちのあまりの危機感の無さに衝撃を受けました。「致死率は2%台だから大丈夫」と、多くの若者が自分事と感じて無かったのです。

※中国の疾病対策センターの専門家チームが、中国本土で今月11日までに新型コロナウイルスへの感染が確認されたおよそ4万5千人の分析結果を公表。全体の致死率は2.3%であるとしている。

(2月20日に行った渋谷での街頭インタビュー)

この動画を中国で配信したら一瞬でバズり、3日間で閲覧数2500万回を超えました。「ゆとり教育がもたらした弊害」「日本人は人に迷惑をかけるのを極端に嫌う民族のはず、なのになぜマスクをしてない?」「武漢の若者も1ヶ月前は彼らと全く同じだった」と辛辣なコメントが5000以上寄せられました。

「致死率は2%台だから大丈夫」という考えは、若者だけでなくメディアに出てくる一部の識者も話していますが、私はこれには大いに疑問があります。この2%というのは、冒頭に書いたように中国全土から3万2000人を超える医師が武漢に集まり、自らの命の危険を顧みず懸命に治療に当たった結果の2%であり、14億人が経済的に大損害を被りながらも何日も自宅待機をして封じ込めをした結果、なんとか2%に抑えているのです。それを、日本で「2%ぐらいだから大丈夫」と話すのを聞くと、とても心配になってしまいます。

今回私は、ウイルス対策は心配し過ぎぐらいがちょうどいいという事を中国から学びました。心配が杞憂に終わるのが一番いいのです。感染が広がってからでは遅いのですから。日本の皆さん、くれぐれも新型コロナを甘く見ず、気をつけて下さい。      (記事作成 竹内亮・飯塚真央)



中国 竹内さん小サイズ

竹内 亮

ドキュメンタリー監督 番組プロデューサー(株)ワノユメ代表。
2005年にディレクターデビュー。以来、NHK「長江」「世界遺産」、テレビ東京「未来世紀ジパング」「ガイアの夜明け」などで、中国関連のドキュメンタリーを作り続ける。2013年、中国人の妻と共に中国·南京市に移住し、番組制作会社ワノユメを設立。2015年、中国最大手の動画サイトで、日本文化を紹介するドキュメンタリー紀行番組「我住在这里的理由」の放送を開始し、総再生回数6億回を突破。中国版Twitter・ウェイボーのフォロワーは173万人。日本人と中国人の「庶民の生活」を描き、「面白いリアルな日本・中国」を日中の若い人に伝えていきたいと考えている。