新型コロナウイルス 感染症対策専門家会議メンバー 吉田医師に聞く
世界中で流行が拡大する新型コロナウイルス。一斉休校やテレワークなど、日本でも自粛ムードが続きますが、先の見えない状況に「コロナ疲れ」の声も…。
いったいいつまで続くのか。今後の見通しや日々の生活で注意することなど、政府の感染症対策専門家会議のメンバーで日本環境感染学会理事長の吉田正樹医師(東京慈恵会医科大学教授)に聞きました。
感染拡大はいつまで続くのか
Q:今後の流行の見通しは?
A:インフルエンザの場合はたいてい国内でも感染が出てきてから2か月くらいでピークになってそれから減っていくが、新型コロナの場合、流行がわっとくると2、3か月でピークが来ることもあると思うが、今それを抑えようとしていろいろな対応をしている。「抑え込む」ということは逆に抑え込めなくても、ピークは低くはなるけれど遅くなってくる。そうすると3か月、4か月後にピークが来る可能性もあるし、抑え込めたとしても地域で“クラスター”がちょこちょこ出てきて、そういうところからまた新たな流行が起こりかけて、また自粛要請をしたりして抑え込むということを繰り返していく可能性が十分あると思う。
Q:終息宣言の見通しは?
A:今の段階では出せるか出せないかというのは難しいかなと思う。一般的にインフルエンザは、日本では冬場の感染が多く夏場は少ないわけです。季節によって新型コロナがどう増えてくるのか、そういうことにも影響してくる可能性がある。
クラスター感染 今後も拡がるか?
Q:大阪の複数のライブハウスでクラスター感染が出たが、今後もクラスター感染は拡がるか?
A:クラスター感染は、感染が起こりやすい場所で起きるので、例えば狭い空間であったり、閉鎖された空間であったり、人が中に多くいて人との接触が身近であったりするような場所では起こる可能性がある。国はイベントなどの自粛を要請しているが、自粛することである程度はクラスター感染を抑えられる可能性があるが、ずっと自粛という訳にはいかないでしょうからリスクの少ないところから解除ということになると思う。解除していく段階でぽつぽつとクラスター感染が出てくる可能性はある。
Q:私たちはどういうことに気をつければいいのか?
A:新型コロナウイルス感染症は症状のすごく軽い人から、肺炎になって重傷になる人まで幅広い症状を出す。症状の軽い人は自分が感染しているという自覚がなくて、感染しているとは思わずに外出したり、イベントに参加したりすることになるので、国が出しているように風邪症状があるとか、37.5度以上の熱があるとか体調が優れない時には休む、自宅にいて人の多く集まるところには行かないということが大事。
Q:症状のない、感染してない人は人の集まる場所に行かない方がいい?
A:そうですね。当然、多くの人がいる場所にはいろいろな人がいると思います。例えば体調の悪い方もその中にいるかもしれないので、多くの人が集まるところには感染するリスクがあるということを知っておいた方がいいかもしれないですね。
休校中の小中学生、高校生の生活での注意点
Q:休校中の小中学生、高校生はどんなことに気をつけるべき?
A:外は風が吹いていたりと密閉した空間ではないので、外に散歩にいったり、外でジョギングしたりとか、そういうこと自体は感染のリスクは高くないと思う。なので、外に出てはいけないということではなくて外に出て人の集まるようなイベント、特に閉鎖空間のイベントは控えた方がいいということで、全く外に出てはいけないということではない。家の中に持ち込まないという意味で手洗いをしっかりするとか、例えば共有部分、トイレであったり洗面所であったり皆さんが触るドアノブであったり、そういうところは定期的に消毒薬で拭いてあげることが場合によっては必要。
Q:子どもたちが行きそうな場所である、図書館やスポーツジムなどの運動施設は?
A:例えば図書館に行って他の人とすごく会話するということだとそこで感染する可能性はある。そばに人がいるということであれば感染することもないわけでもない。皆さんが使う場所なので、色んな人が触っているという状況がある。図書館に行ったから感染するということでなくて、図書館の人の混み具合とか、共有部分を触るのであればアルコールを持って行って自分の使うところを拭いてから使うとか、そういうふうにすれば大きな問題はないかと思う。スポーツジムに関しては、どうしても運動しているのでマスクしてというわけにはいかないと思うし、ハーハーしてしまうので、その中に感染者がいるとすると当然、感染のリスクは高まる。特に密封された閉め切った状況のスポーツクラブであれば、感染するリスクはある。
Q:児童施設に行く子どもが気をつけることは?
A:児童施設のような人が密集して子供が多く、それも身近なところで接するということであれば感染の可能性は高くなるので、そういう場所に感染者が来ると感染が拡大することもある。ウイルスを持ち込まないことが大事なので、体調の悪い人はそういう場所は行かずに休む。共有部分もあるので利用の際は手洗いをする。場合によってはマスクをするなどして参加するのがよいと思う。
Q:屋外の公園や運動場は?
A:例えばサッカーしたり、野球したりということであれば人との距離は保てるのであまり問題ないが、ベンチで近くに座っているのはあまり良くない。ある程度、人と人との間隔を保つことが大事。
幼児の感染で気をつけること
Q:幼児の場合、親と一緒にいるケースが多いが気をつけることは?
A:幼児が外に出るということはあまりないと思っているが、親と一緒にいるということで親が感染したりとか、または何らかの事情で子どもが感染したりとなると、なかなか家の中で別々に生活するというのは難しい。基本的にもし家庭の中で感染が疑われる人がいれば、部屋を別にしたり、接触する時はマスクをつけるとか、共有部分を消毒したり手洗いをしたり、また一緒にいる時に窓を開けて換気をすることが必要。小さな子どもがいたり、子どもが感染していたり、または逆に母親が感染しているということになると、子どもを部屋に閉じ込めるというわけにはいかない場合もあるので、そうした場合は一緒の部屋にいるのも仕方ないが、マスクをしっかりして、一緒の部屋にいても距離をとって接するなど、場合によってはカーテンやパーテーションのようなもので直接飛沫などがかかってこないようにする工夫も必要。
通勤や職場での感染予防
Q:満員電車、通勤で気をつけなければいけないことは?
A:通勤の場合はやはり人が多いので、できれば人が多い時間ではなく少し時間をずらして時差出勤した方がリスクは低い。感染者がたまたま中にいても、必ずしもその人がずっと一緒ということでなく、降りてしまう可能性もある。感染者がいる場合は、短時間の接触はあると思うが、例えばつり革や手すりなどにウイルスが付着したとなると感染者がいなくなってもずっとウイルスが残っている。代わる代わる人が入ってきてつり革や手すりを触ったりすると、手が汚染されてしまう。その手で鼻や口を触って感染することもあるので、つり革、手すりなどの共有部分を触ったりした後は顔は触らない、出勤して手をよく洗ってから顔を触るなど、共有部分には汚染の可能性があるということを考えて行動することが大事。
Q:避けられない満員電車でもそういうことは同じだと?
A:そうですね。手を洗うことに関しては同じ。どうしても満員電車で人がひしめくように乗っているならマスクをするのも1つだと思う。マスクは基本的には人に感染させない効果は非常にあるが、感染しないという効果は限定的だと思う。マスクをしていることによって、汚染した手で鼻とか口を触らないということが1つ。それと相手の感染者がマスクをしていればいいが、マスクをしていない状況でくしゃみや咳で飛沫を浴びたときに、マスクをしていた方が防御できるだろうということがある。あと、マスクしていることで上気道の乾燥を抑えられてウイルスが付着しにくくなる。
Q:職場で人に会うが注意することは?
A:職場だと、人と人が近いような会議はできるだけ避けてもらう、特に面と向かって話すような会議は可能であれば避けてもらう。一般的なデスクワークで横に並ぶのであれば、飛沫を浴びることは少ないと思うが、できれば十分な距離をとる。一番大事なのは症状がある人は出社しないこと。
Q:どのくらいの距離をとればよい?
A:マスクをしてないのであれば2メートル程度離れた方がよい。マスクをしていても1メートルは離れた方がよい。
Q:椅子を一個空けるくらい?
A:そうですね。
家庭内に感染が疑われる人がいたら
Q:軽症の場合は自宅待機という要請があるが、どのように対処したらいいのか?
A:部屋を分けること。感染が疑われる人に色んな人が対応すると、対応する人みんなが感染してしまう可能性があるので、できればお世話をする人は1人に限ってほしい。接触する時は感染が疑われる人もお世話をする人もマスクをつける。手をこまめに洗う。定期的に換気をする。共有部分はできれば次亜塩素酸の濃度約0.05%のものでドアノブなどを定期的に拭く。リネン類、下着類は洗濯すれば問題ないが、洗う前はウイルスが付着している可能性があるので、お世話をする人がリネン類を交換する際はマスクと手袋をして洗濯機に入れる。また症状がある人だと鼻水が出て鼻をかんだりするが、鼻をかんだティッシュペーパーにはウイルスが付着しているので、他の人が触ると感染するリスクが高くなるので、部屋の中ならゴミ箱でいいが、部屋の外に出す場合はビニール袋で密閉して捨てることが必要。
Q:医療従事者はゴーグルをしているが?
A:ゴーグルはなかなか家庭の中では手に入らないし、直接飛沫が飛んでくることでなければ必要ないが、眼鏡などかけていた方が飛沫が飛んできた時に直接目の粘膜に入らない可能性はある。
Q:症状が重くなったというのは何で判断すればよい?
A:国の出している相談・受診の目安は「(37.5度以上の発熱)4日以上」となっているが、普通の風邪であれば2、3日程度で症状は良くなってくる。ただ新型コロナの場合は症状が長く続く。これまでの患者の状況を見ると、発症してからだいたい1週間くらいするまでは、比較的みんな重い症状ではない。1週間くらい経過して、症状が改善する人と、逆に肺炎を起こして重症化する人に分かれてくる。風邪の症状や発熱が4日以上続けば、相談して病院受診、または検査を受けた方がよい。
高齢者で心臓疾患を持っていたり、呼吸器に持病があったり、糖尿病があったりという人は重症化しやすいと言われているので、そういう人は4日間待たずに2日程度で受診する、また息苦しさがあるのであればすぐに受診する方がよいと思う。
吉田正樹 医師
東京慈恵会医科大学 教授 日本環境感染学会 理事長