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倍率17倍の精鋭部隊「皇宮警察」 地下に射撃場、時にはテニスのお相手も

「皇室を守り、平穏な日々を確保する」。そのための専門組織があります。皇室専門の警察「皇宮警察」です。主な任務は皇室の方々の警護や皇居などの施設の警備ですが、実際に取材してみると乗馬訓練や地下施設での射撃訓練など、そこには知られざる実態が…。
そして新型コロナウイルスの影響で現場に異変も起きていました。

■皇宮警察とは

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皇宮警察本部は警察庁の附属機関で、所属する人たちは「警察官」ではなく「皇宮護衛官(こうぐうごえいかん)」と呼ばれます。その数、約980人(一般職員を含む)。2021年度の採用試験(大卒程度試験)では倍率が約17倍となるなど、実は国家公務員の中で最も人気の職業です。
人気を読み解くカギが「儀仗勤務(ぎじょうきんむ)」。儀礼服という特別な制服を着用し、直立不動で外を警戒します。暑い日も寒い日も、雨の日も風の日も…。2人1組で警戒を行いますが、左右交代や次のチームへの交代の際には、きっちり揃った精緻な動きを見せます。皇居の顔である正門ということで、見栄えも重要視しています。
皇宮警察では皇居・宮殿などで行われる皇室行事の際にも儀礼服を着て警戒にあたっていて、その凛然とした姿に憧れて護衛官を志す若者も多いそうです。

■独自取材した地下施設では…

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皇宮警察にも、都道府県警察で言う「機動隊」のような役割を担う部隊があります。有事に備えた突発対応部隊です。皇宮警察の護衛対象=皇室の方々は言わずもがな超重要人物。有事への対応も気を抜けません。
その訓練を取材すると、隊員たちは約8キロの防具に約4キロの盾、あわせて12キロもの装備を身につけていました。盾を持たせてもらったところ、その重さに加えて大きさもあり、数秒持つだけでも腕が震えます。長いときにはこの装備で2時間も走り続けるといいます。

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そして射撃訓練も。秋篠宮邸などがある赤坂御用地を所轄する赤坂護衛署には、地下に皇宮警察専用の射撃場があり、「もしも」に備えて射撃訓練を行っています。安全に配慮しガラス越しの取材でしたが、張り詰めた雰囲気のなか、護衛官たちが正確に的を射抜く姿は圧巻でした。正確な射撃技術を身につけるのは非常に難しいため、日々の訓練が欠かせないそうです。

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また、これまで警視庁を担当していた私(髙橋)が驚いたのは、皇宮「警察」が「消防」の訓練も行っていることでした。一般的に東京で火事が起きた場合「東京消防庁」など、それぞれの地域の消防が駆けつけますが、皇居で万が一火災が起きた際にいち早く対応するため、皇宮警察は消防の仕事も担っているのです。「警察」でありながら「消防」の仕事も兼務し、全ての護衛官が消火できるようにしています。

■馬にサイドカーも

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皇居内を取材していると、東京都心なのに”あの匂い”が…。そう、馬です。皇宮警察では現在14頭もの馬を飼育していて、正式には「護衛馬部隊(ごえいばぶたい)」と呼ばれています。外国から着任した大使が自分の国の元首から託された信任状を渡す「信任状捧呈式(しんにんじょうほうていしき)」という儀式などで活躍します。各国の大使や公使が乗る「儀装馬車」を護衛する重要な任務を担っています。

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その訓練を取材すると、周囲との距離を一定に保ちながら歩いたり走ったり…その目的は競走馬のようにひたすら早く走るのではなく、馬車を守るためにペースを合わせて確実に進むため。また、馬術競技さながらにハードルを飛び越えるなど、自由自在に馬をコントロールするための訓練も行われていました。

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他にも、護衛対象の車を複数台で囲みながら警護することができるサイドカーなど「守る」ことに特化した部隊が配備されているのが特徴です。ちなみに天皇陛下の即位を祝うパレード「祝賀御列(しゅくがおんれつ)の儀」でも使用された黒塗りのサイドカーは特注品で、一台3500万円ほどだとか。

■時にはテニスのお相手も 新型コロナで現場に異変

皇宮警察では、スキー・テニス・外国語などの素養を身につけている護衛官が多くいます。それもかなりの腕前のようです。なぜそのような素養が必要なのかというと、スポーツや外国訪問などいつ何時も側にいるため。時にはテニスなどのお相手を務めることもあるそうです。ちなみに皇室の方々はそれぞれかなりの腕前をお持ちだとか…

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厳粛さと華やかさを兼ね備えた皇宮警察。しかし、新型コロナの影響で大きな行事やパレードは軒並み中止となり、馬やサイドカーの出番はほとんど無くなってしまいました。それでも馬は毎日動かす必要があり、動きを鈍らせないためにも日々訓練し続けなければなりません。サイドカーも運転技術をさび付かせないために訓練が必須。その様子を取材していると、この努力が日の目を見ないのはあまりにも哀しいことだと感じました。
今日も鍛錬を積む護衛官たちが再びスポットライトを浴びる日が1日でも早くやってくるよう祈るばかりです。

高橋さんプロフ写真

髙橋 舞衣 記者

2017年入社。報道局社会部で警視庁担当として事件や災害の現場を取材し、2021年春から宮内庁担当。ピアノやダンスの素養を磨いています。