“ブロックチェーンでアートを民主化する”施井泰平さん(前編)
ミイナ:Dooo堀口ミイナです。本日のゲストをご紹介しましょう。現代美術家でスタートバーン株式会社代表取締役の施井泰平さんです。よろしくお願いします。
泰平:よろしくお願い致します。現代美術家の施井泰平です。今スタートバーン株式会社っていう会社をやってるんですけど、アートの世界ってもっとテクノロジーを活用してインフラをアップデートする余地があるなという風に思って。最初は全然起業とか考えてなかったんですけど途中から流れで起業になったという感じですね。
今回のゲスト、施井泰平(しい・たいへい)さん。「泰平」の名で現代美術家として、制作活動を行いながら、2014年に起業。めざすのはブロックチェーンを活用した“アートの民主化”だといいますが、いったいどういうことなんでしょうか。
絵が上手い人は説得力がある
ミイナ:アーティストっていうのはこう子どものころから目指されていたんですか?
泰平:そうですね。小学校とか中学校とか、小学校の高学年とかでしたね、きっとはい。
ミイナ:なんかこう、絵をずっと描いて美大にまで行かれてるんですよね。
泰平:そうですね、絵を描けないとダメだっていう感覚があって絵を描いてたっていう感じで。特に絵が好きだったという感じではないんですけど。
ミイナ:なんかこう、絵を描けなくてもどうでもいいやって思ってる人がたくさんいるこの世の中、その感覚面白いですね。
泰平:あのやっぱダヴィンチとかピカソとか、まあ小っちゃいころだったんでそんくらい有名な人たちしか知らなかったんですけど。なんか絵が滅茶苦茶うまいじゃないですか。
ミイナ:滅茶苦茶うまいですよね。
泰平:なんか滅茶苦茶絵がうまい人って説得力あるなみたいな。なんかほかの事言った時も説得力あるなっていう感じがあって。
ミイナ:あ、でもそれ分かります。なんかちょっとしたイラストでも描ける人って、見た瞬間、ちょっとリスペクトが変わるし。
泰平:その人の頭ん中ちょっと垣間見えるみたいな瞬間ですよね。
ミイナ:うんうんうんうん。数学とかだと出来ないとやばいみたいに言われるのに、絵については描けなくてもいいっていうのはね。そんなことないのにって言われてみれば思いますね。
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美大を卒業したけれど・・・
ミイナ:アーティストとして活動していらして、どの段階で「あ、このままじゃだめだ」って思われたんですか?
泰平:多摩美(多摩美術大学)の油絵科(絵画科油絵専攻)を出ていて、卒業したときに、普通卒業したらみんな新卒社会人になったりとかするじゃないですか。
泰平:だけどアーティストって道が無いんだなって、レールが無いんだなって、分かった瞬間だったんですね、卒業した瞬間が。で、それで卒業してどうしようみたいな。こうなんか、特に何をしたらアーティストになれるかみたいなのも分かってなくて。で、その時に結構悩んで。悩んでっていうかすごくよく考えて。
ミイナ:これどの美大生も悩む話なんですかね?
泰平:どうなんですかね。なんだかんだ言ってギャラリーの手伝いとか、そういう美術系のところを手伝いしながら仲良くなっていくみたいな人が多いと思うんですけど。
ミイナ: うんうん。
泰平:僕は結構昔とがってて、とがってるっていうかまあ引きこもりで。あまりそういうのが苦手だったっていうのもあって。で、どうしよう、なんか一生アートやるだろうし、でもコネクションもないしどうしよう、みたいなのを考えて。その時に結構いろいろ人生の設計をしたっていうのがありますね。
社会の変化=有名アーティストの出現
ミイナ:人生の設計に含まれてたのがアートの環境自体を変えるみたいなのが入ってたっていう。
泰平:そうですね。環境自体を変えるっていうのはその5~6年後ぐらいなんですけど、結構アーティストって自分の作品のテーマを作って作家活動する人ってそんなに多くないと思うんですけど、僕はその、テクノロジーを扱ったアートをやろうっていう風に思ったんですね。過去のアートの歴史を思い返すとテクノロジーのアップデートがあったときに結構有名なアーティストが出てきているっていうのがわかって。
ミイナ: へー、面白いですね。
泰平:それこそルネサンスもそうですし、印象主義もそうですし、アンディ・ウォーホルとかも、ほとんどのアートがこのテクノロジーのアップデートがあった時に社会が変わって、それを代表するとかそれにこう・・・一番こう・・・呼応したアーティストっていうのが結構世の中に残ってたんで。
ミイナ:なんとか派なんとか派みたいなのが出てくること自体そもそも、やっぱり社会が変わって、それに連動してるっていうイメージなんですか。
泰平:そうです。そういうのがあったんで、今はこれからインターネットの時代がすごく来るだろうなって2001年だったんですけど、来るだろうっていう風に思って、だからテクノロジーとかインターネットのこの大きな来るだろう革命に乗った作品を作れば、ちゃんとこの時代にアクチュアリティ(現実性)のある作品が残せるかなって言う風に思ったんですよ。
ミイナ:おー。施井派が生み出せる!
泰平:施井派(笑)やってる過程で、あの展覧会場でパソコンをつないだりとかもしてたんですけど。なんかこれ違うなっていう風に思って。本当にドラスティック(過激な、徹底的な)に変わってる社会に対して自分の作品がつまらなく感じて。だったらばやっぱりインフラとか、その環境自体に、環境自体を変えていくとか作っていくっていうことの方が、より時代に合っているのかなっていう風に思って。徐々にそういう風にシフトして行きました。
インターネット時代のアートとは
ミイナ:実際インターネット時代はその来てると思いますし、これからさらに来ると言ったところで、じゃあどういう風に表現するかって難しいですもんね。
泰平:そうなんですよ。2005年ぐらい・・・そのプロジェクトを美術館で展示したときにパソコンを展示して、来場者がこう触れるようなプロジェクトだったんですけど。その展覧会自体には何万人もお客さんが来たのに自分のパソコンのアクセスを見ると、確か10人か20人くらいしかアクセスがなくて、このやり方は違うんだろうなっていう風に思って。そこで2項分岐を考えて・・・1個がその展覧会とかギャラリーとかで展示する作品で、パソコンを使わないでインターネットとかそういうテクノロジーを喚起する作品を作ろうっていうラインが一個と、でもう一個がインフラ自体を作ろうっていうのがあって。
泰平:その前者の方は本棚の作品とかを作っていって本棚でこうなんかインターネットを喚起するような作品を作ってたんですけど。
日本を代表するポップアーティスト・村上隆(たかし)さんが主催する現代美術の祭典で安藤忠雄賞を受賞したこの作品。本の背表紙を切り取ってキャンバスに並べたもので正面から見ると普通の本棚、しかし、横から見るととても薄い。テクノロジーによって喚起される「情報」と「物質」と「アート」に対する思いを見る人がそれぞれ感じられる作品となっています。
泰平:もう一個のインフラの方があまりに時間かかっちゃって、そっから10年くらい時間かかったっていうだけで。同じ時に発想したものですよね。
ミイナ:今の会社のベースとなっているインフラだと思うんですけど、どういうものなんですか?
泰平:えっと、元々はアートの世界って結構ヒエラルキーがあって。本当のトップアーティストになると作品が何十億って値段で取引されるけど、一方で学生とか卒業したばっかりのアーティストって作品が見られることもなかったりとか、ましてや売れることもないっていう、そういうなんかその間にすごくギャップが大きくて。あの10円でも買いたくないって言われてるような作家から、百億円で売れる作品まですごいなんかこう距離があるじゃないですか。
ミイナ:そうですね。
泰平:そうなんですよ。アートマーケットっていう風にいわゆる言われている物、売買してそのコレクターが買うみたいな対象になってる物っていうのは本当に上の方の1パーセント未満の物で、その下の方のところが本当はこの時代すごく面白いはず、っていうか。まあインターネットの時代ってそういう時代じゃないですか。ツイッターにしてもYouTubeにしても。
ミイナ:確かにちょっとロングテール化してて。
泰平:そうです、そうです。なんかそういうところから、突如田舎町から突然アーティストがMoMA(ニューヨーク近代美術館)で展示されるみたいなことが起きるのがインターネットの時代だと思ってたんですけど。まあそこの部分を支えるって言うのが、会社の最初のミッションでしたね。
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若いアーティストを支える
ミイナ:新しいプラットフォーム作りの中でなんとブロックチェーンを使われてるということなんですけど、これはどういう風に使われているんですか?
泰平:えっと、元々はそれでその下の層のアーティストを支えようっていう風なところから始まって。下の層を支えるのはどうすればいいんだろうっていう風に考えたときに、やっぱり一番デビューしたてとか若年層って、値段がわからないって言うか、売買のマッチングが一番されにくいんですよね。値段を高く設定しすぎたりとか、価値がわからないんで中々こう・・・買い手が見つからなかったりとかするので。一方で作家って言うのはすごくキャリアを積んでいくと作品の値段が上がっていくっていうのがあるので、作品の値段が上がっていったりとか二次販売、三次販売されるたびに元のアーティストに還元金が行くような仕組みっていうのを考えたんですね。それでWebサービスを作ったんですよ。そこで作品を販売して、それを買った人がまたそこで二次販売も三次販売もできて、その都度アーティストに還元金が行くようなサービスを作ったんですけど。これが全然流行らなくて。
ミイナ:流行らなかった・・・。
泰平:流行らなくって。まあ色んな流行らなかった理由があるんですけど、少なくとも、ここで買った物をほかのところで二次販売しちゃったらどうするのとかっていう突っ込みがすごくあって。
ミイナ:あー・・・。
泰平:ここで買った物ヤフオクで売られたらどうするのって言って。還元金も戻らないじゃないっていう。
泰平:還元金が戻るから元の一番最初の値段を安くすることができるみたいなそういう発想だったんですけど。その来歴が追えなくなったらとか、還元金が取れなかったら元のアイデアがおかしくなるじゃないっていう、すごい根本的な問題があったんですけど。ブロックチェーンが出てきて、ブロックチェーンがあるとほかのサービスを横断して、来歴が残せたりとか、還元金とかのやりとりができるようになるんじゃないかなと思って。
ミイナ:なるほど。なんかブロックチェーンってそうですよね。どこまでも追跡できるのが強みというか。しかも、履歴が書き換えられないっていうか。そういうのがマッチしてるっていうことですよね。
泰平:そうですね、はい。
スタートバーンには現在、数千人のアーティストが作品を登録していて
サイト上で作品とその詳細情報を見られる他、売買も行われています。また、作品が本物であることや、どこで買ったのかがわかる作品証明書も発行しています。
泰平:世界中のアートサービスをブロックチェーンで繋げて、来歴とか情報をシェアするみたいなプロジェクトが始まってて。そこのブロックチェーンの部分ももうできあがっていて、そこにつながる部分として、うちのサービスも一個動いてるんですけど。
世界中のアートサービスをつなげるブロックチェーンネットワークには作品の基礎情報が記録される仕組みになっています。そして作品が売買されるたびに履歴が自動で記録され数百年にわたり管理することが想定されています。
ミイナ:なるほど。確かにアート作品ってまあ色んなところで流通してるんだと思うんですけど、なかなかこう・・・普通の人というか、どこに行って買えばいいのかなっていうのがわかんなかったりとか、ギャラリーだったり色々そういうサイト串刺しで見れるプラットフォームがあるって言うのはすごいありがたいですけどね。
泰平:プラットフォーム自体はたぶん色んなプラットフォームがあって・・・入り口は色んなところにあって、裏で繋がってるっていうだけになってくると思うんですけど。なんで、中には色んな物を見れるプラットフォームもあれば、一個一個の作品を丁寧に紹介するプラットフォームもあれば、見せ方とか入り口はいろんな人に向けて用意されていてそれが裏でちゃんとつながっているとここで買ったものが、後々こっちでなんか・・・
ミイナ:売られたけど、ちゃんとトラックはついてるよっていう。
泰平:そうです、そうです。
ミイナ:例えばいきなり人気になった作家さんの昔の作品とかもすごい値が上がるわけじゃないですか。初期の作品とかって。そういう場合でもちゃんとトラックできてるっていうのは良いわけですよね。
泰平:もう値段が高くなってくると大体公的な存在になるので、作品の流通管理ができるんですけど、特にやっぱり値段が上がる前の作家って、流通管理が全然できないんですよね。なんで、そこら辺は一番有効かなっていう風には思いますけどね。
ミイナ:なんかこうクリスティーズさんとかそういうところが参考にするようなプラットフォームになるといいですよね。
泰平:そうですね。参考にするというか、もう是非参加してもらいたいなと思いますけどね。
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きっかけは何でもいい
ミイナ:スタートバーンの浸透した後の世界って具体的なイメージでいうとどんな感じなんですか?
泰平:プロ野球ができるのと近い世界をイメージしてて、やっぱりトップアーティストっていうのは、みんなが簡単になれるような物ではないとは思うんですよ。だけど小学校とか幼稚園とかでもみんなキャッチボールとかするし。
ミイナ:草野球とかするし。
泰平:そうです、そうです。好きなアーティスト、好きな野球選手がいてプロ野球チップスとかでカードが出てきて、みたいな・・・それで情報に触れ合って小さい頃からアートのそういう、階層じゃないですけど、中学校にあがったら中学校の中であのアートで人気の人が出てきてっていう。プロの一番上の階層の人たちが毎年なんとか賞が出ましたっていうとニュースになってみたいな。そういうのをイメージしてますね。
ミイナ:なるほど、思ったより堅苦しくない世界なんですね。
泰平:だと思うんですけどね。
ミイナ:重厚長大な油絵みたいなイメージ持ちがちなんですけど、現代アートとか「え、これふざけてるのかな」ぐらいの作品もたくさんあってでもそれが楽しいというか。
泰平:そうですね。別に野球のルールが好きで野球見てる人ってもちろんいっぱいいると思うんですけど。でも一方でなんか野球選手がかっこいいから好きだっていう人もいれば
ミイナ:いやー、完全にそうですよね。私なんかそうですね。
泰平:ですよね。だから、きっかけとかそんなもんなのかなという風に思って。それで情報が広がっていったりとか、関わる人が増えていくとやっぱり結局は最終的にはそのトッププレイヤーのレベルも上がってくるだろうし、市場もいろんな意味で活性化するんじゃないかなという風に思うんですよね。
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