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相次ぐ『里帰り出産』拒否 困惑する妊婦たち

緊急事態宣言を受けて、『里帰り出産』を予定していた妊娠中の女性が、病院から急遽、受け入れを断られるケースが全国で相次いでいます。出産を間近に控えた妊婦たちからは、「新しい受け入れ先が見つからない」と戸惑いの声が上がっています。

「実家の近くの病院で出産を考えて、病院も決めていました」

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こう語るのは、大阪府に住む、IT関連企業に勤める25歳の女性。まもなく妊娠7か月を迎えます。女性は、実家がある長野県内の病院で里帰り出産を予定していましたが、緊急事態宣言が出されたことから、急遽受け入れができないと言われてしまいました。

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妊娠7か月を迎える女性:
緊急事態宣言が出てから、里帰り出産拒否が多くなっているという話を聞いて、自分でも連絡をとって聞いてみたんですけど。“緊急事態宣言が出ている地域からの受け入れは、中止します”ということで。いつ受け入れが再開するかも分からない様子なので、改めて自分の出産する病院や産院を探さないといけないという状況です。

病院からは、どのような説明があったのでしょうか。

妊娠7か月を迎える女性:
『中止します』ということだけ。『受け入れ再開のメドも立っていないので、改めて探してほしい』ということだけで、今は自分で探している途中です。

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女性は仕事の合間をぬって新しい受け入れ先を探していますが、まだ見つかっていません。しかし女性は、もっと深刻なケースもあると話します。

妊娠7か月を迎える女性:
私であれば、妊娠23週で病院を探す時間がありますが、妊娠後期の方で拒否されている方も多いので、そういう方が困るんじゃないかなと思います。もし仮に見つかっても、持病を持っていたりだとか、無痛分娩を希望していた方が、そういうことに対応していない病院に入らざるを得なかったりするので、かなり困る妊婦さんがたくさんいるんじゃないかと心配です。


行き場のない、臨月間近のケース

臨月間近というタイミングで里帰り出産を断られたという女性もいました。

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「現在、大阪在住9ヶ月の妊婦です。来週の月曜日に里帰り出産のため、受診する予定でした。妊娠してすぐに広島の病院で分娩予約を取っておりました。緊急事態宣言が出て、8日は病院と連絡をとっていて、受診の話のやりとりがありました。それなのに9日朝に、広島県産婦人科医会から通達があって、緊急事態宣言が出た地域からの受け入れはできないことになった、と言われたのです。しかも、他院の紹介も何も無しに。この時期に、突然放り出されても困る事を伝えたけれど、取りあってもらえませんでした

女性は、病院側の突然の対応に、憤りを露わにしました。

妊娠9か月の女性:
広島で受け入れてもらえないか何ヶ所も連絡しましたが、どこも予約が取れなかったり、妊娠の週数の関係で断られたりしてしまいました。あと2週間で臨月なのに、途方に暮れています。病院は、生命を守る場所なのに全然誠意も感じないし、病院としての対応に疑問を感じざるをえません。

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まずは妊婦健診を受けている施設に相談を

出産まで時間が迫るなか、自力で病院を探し回るのはかなりの負担となります。どうすればいいのでしょうか。

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(受け入れ中止を表明する病院のHP)

日本産科婦人科学会の木村正理事長は、JNNのインタビューに、このように答えました。(取材・毎日放送 上原桐子記者)

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木村理事長:
妊婦さんご自身が電話をして『私ここで産めますか』と言われたら、予約で一杯ですというお返事になるのは、致し方ないことだと思います。専門家のネットワークを通じて、そのような場所を探すということをやっていただきたいと思います。

専門家のネットワークには、どのようにアクセスすればいいのでしょうか。

木村理事長:
妊婦さんですから、必ず妊婦健診を受けている施設があると思います。そこにまずご相談いただいて、実は予約分娩をしていない、これから帰ろうと思ってたんだけど断られたんです、ということをご相談いただけたらいいと思います。

木村理事長は、「妊娠経過を把握していない病院が、紹介状を書けないのは当たり前。それが出来るのは、妊婦健診を受けている医療機関だけなので、妊婦さんにはそちらに当たっていただきたい」と話します。

木村理事長:
そもそも外出自粛、移動制限を呼びかけているところで妊婦さんだけが動き回ったら感染リスクが高いですよね。だからみなさんとおうちにいましょう、動かないでください、というのと全く同じことで、妊婦の皆さんにはやはり今から動こうと考えるのはおやめいただきたい。ですから今の時期にこれから里帰りを考えるというのはちょっとご遠慮いただきたいなという風に思います。

記者:
もともとお願いしていた妊婦も断られているが。

木村理事長:
それがどの程度の件数なのかというのは把握できていませんが、もう臨月に入られた方は動かないでねっていうのは共通認識だと思います。

記者:
妊婦の困った声は入ってきているのか。

木村理事長:
たとえば東京の産婦人科医は、もう動けない、お産が近いような方に関して「ここでまだもう少しお産をとることができますよ」という(施設の)リストを作っておられます。たとえば大阪なんかではそういうリストは公表はしませんが、産婦人科医の中では「ここは大丈夫ですよ」というのは分かっています。ですから、妊婦健診を受けているところでまずご相談ください。個人で妊婦さん自身が電話をかけられると、「もう予約は締め切っております」という返事になると思います。

厚生労働省は、『里帰り出産』の拒否が相次いでいることについて、「詳細は把握していない」とコメントしています。

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里帰り出産は不要不急の外出なのか

「急な里帰り出産を避けて欲しい」と日本産婦人科学会が呼びかけた翌日SNSで「里帰り出産」と検索すると、予想通り受け入れを拒否されたという妊婦の声が多数上がっていました。所定の手続きを踏み、計画的に分娩予約を取っていた彼女たちは学会が注意喚起する「急な里帰り出産」にはあたりません。緊急事態宣言がなければ、実家のサポートがある故郷で出産できるはずでした。しかし、移動による感染リスクなどを考慮し、非常事態宣言の対象となっている都市部からの里帰り出産を医療施設が断るケースが相次いでいるのです。

里帰り出産による移動は不要不急の外出にあたるのでしょうか。今回の取材で見えてきたのは、移動による感染リスクと安全な分娩場所を確保する二つの極めて深刻な問題に直面した妊婦たちの姿でした。特に出産までの時間がない妊娠後期のケースは切実でSNSは彼女たちの情報交換の場となっていました。里帰り出産の問題以外にも、妊婦を取り巻く状況は厳しさを増しています。勤務先からの要請で出勤を続けざるを得ない妊婦たち。コロナウイルスへの感染が判明し病室で闘っている妊婦たち。こうした声をこれからも届けていきたいと思っています。

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【放送された動画はこちら】



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加古  紗都子 記者

1986年生まれ、兵庫県神戸市出身。去年夏、第一子を出産し、4月に職場復帰。学生時代にバックパッカーとしてインドに滞在中、少女の人身売買問題に触れ、報道の世界を志す。女性や子どもを取り巻く社会問題をライフワークにしたいと思っている。