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生産者と消費者を直接つなぐふるさと納税/第一次産業の再生可能性を紡ぐ
トラストバンク地域創生エバンジェリストの奥野と申します。
食品と農業の分野で、食品の商品開発やブランディング、新規事業企画、経営企画支援など幅広く携わってきました。
その経歴を活かして、noteでは「地域創生における第一次産業とスタートアップ」をテーマにコラムを書いていきます。地域のブランディングに課題意識をお持ちの方、第一次産業に興味のある方にとって、なにかのヒントになりましたら幸いです。
1本目の今回は「ふるさと納税でできる第一次産業への支援について」、事例と共にお伝えしていきます。
第一次産業の重要性と、その課題
まずは、第一次産業の重要性と課題についてから始めましょう。
私は、第一次産業は「食料自給の根幹」と定義しています。そのように捉えると、失うと国としての大きな損失であることはお分かりいただけるのではないでしょうか。
しかし近年、第一次産業は深刻な課題に直面しています。生産と消費の現場が離れすぎたことで生産現場への関心が薄れ、食糧の海外依存度が高まっています。それによって、後継者不足も顕著となり、産業として成立しにくくなっています。
ふるさと納税が“持続可能な第一次産業”の一助に
このような状況下で、ふるさと納税制度が第一次産業支援の新たな可能性を示しています。
まず1つ目は、従来の流通構造を変革する点です。ECサイトの運営など、自力での販路開拓が困難だった生産者にとって、ふるさと納税は画期的な機会となっています。これは納税という誰もが関わる税制の仕組みであることや、自治体が関与することで公共性を帯びるという点で、単なる直販サイトやアプリとは一線を画す、産業支援の側面を持つ仕組みと言えるでしょう。
2つ目は、そのような地域の生産者・事業者がふるさと納税を通して、生産物を全国の消費者に届けられるようになり、全国からの反響を直接受け取ることができるようになった点です。これによって、地域に限らない全国の需要をより知ることになり、地域外の消費者に目が向くということです。そこから、まったく新しい商品開発のヒントを得ることができるようになりました。
例えば、島根県浜田市の事業者・株式会社シーライフ様は我々トラストバンクの「お礼の品共同開発プロジェクト」を通じて、我々とともに、今までとは異なる形で商品開発を行いました。
それは一大産地である同市で水揚げされる一級品の「のどぐろ」と、京都の老舗料亭とのコラボレーションです。
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私も実際に現地に行ってお話を聞いたり、代表者の方を始めとする若い事業者さんの熱意を間近で拝見したりすることで「地域にアクションが起きている!」と実感しました。
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どのようにふるさと納税を活用していくことが、第一次産業の未来に繋がるのか?
ふるさと納税による“大ヒット商品”は今でこそたくさんありますが、第一次産業の行く末を考えると「大ヒット=寄付額が伸びた」という点より、「『販路開拓』・『商品開発』によって新しい道を見つけられた」ということが素晴らしい点だと考えています。
前述したように、自分たちの地元に販路を閉じてしまっていると新しい視点は生まれないので、切り口や商品が生み出せません。ふるさと納税を活用することで「自分たちがこういうことができるんだ!」と気づいて新しいアクションを起こした=そこが大事なポイントではないでしょうか。
ずっと変わらず売り続けられる商品というものは無く、だからこそふるさと納税で生み出された新たな価値は、ふるさと納税に留まらず、その生産者・事業者の事業を一時的な売買でない、持続可能なものにしていきます。
また、第一次産業を絶やさないためには、そこから世代を超えて「循環」していくことも重要です。
鹿児島県いちき串木野市では、同市内にある県立市来農芸高等学校に通う高校生が、愛情とこだわりを持って育てたブランド豚「金の桜黒豚」をふるさと納税として提供しています。
そしてふるさと納税の寄付金は、同校の取り組みにも一部活用されているようです。
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このような、未来の第一次産業を担うであろう学生との産学官連携の取り組みは、まさに「循環」を生んでいると言えるでしょう。
持続的な第一次産業を実現するには…支援の先にある地域の未来
第一次産業の持続的発展は、地域の未来を左右する重要な要素です。
その実現には「生産と消費の継続的循環の構築」が鍵となります。この点で、ふるさと納税制度は生産者・事業者と消費者を直接結びつける有効な手段となり、第一次産業の再生と地域文化の保護・継承に希望をもたらす可能性があると考えています。
寄付者は、ふるさと納税を通じてお礼の品を受け取ることで、生産者との距離を縮め、日常の消費活動では気づきにくい生産現場の課題に触れ、支援する機会を得られます。
一方、生産者・事業者の方々には、ふるさと納税を「循環」に繋がる新たな機会と捉え、積極的に自らの可能性に挑戦していただければと思っております。微力ながら我々も、引き続き協力させていただく所存です。
ふるさと納税が、第一次産業の活性化と地域の持続可能な発展への道筋となることを、心から願っています。
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