テレワークゆり物語 (49)アンデルセンのパン生地
IT業界で「アンデルセンのパン生地」を見つけたい
そう思ったのは、企業からIT業務を受託する会社「ワイズスタッフ」を立ち上げて数年経った2000年初め頃。『クロネコヤマトの宅急便』の生みの親である、故・小倉昌男氏のインタビュー記事を読み、心を揺さぶらされたのだ。
国と激しく戦い、新しいビジネス「宅急便」を実現させた敏腕経営者が、障がい者の給与が「1万円」であることに怒りを覚え、障がい者でも「10万円」を稼ぐことができるしくみを作りあげた。
すごい。すごすぎる。ビジネスで成功した経営者が、お金の寄付という形で障がい者への支援をすることはあるが、ビジネスとして成り立つ「しくみ」を作ることで持続させる。なんと素晴らしいことだろう。
そのしくみのポイントは「アンデルセンのパン生地」だった。人気のベーカリー「アンデルセン」の冷凍パン生地であれば、誰でも美味しいパンを焼くことができる。障がいがあっても焼くことができる。美味しいパンが売れれば、焼く人の給料が払える。
そして、生まれたのが「スワンベーカリー」だ。障がいのある人が「アンデルセンのパン生地」を一生懸命焼いたパンを売る。以下で紹介している記事では、小倉氏のこんな言葉が残されている。
「『スワンベーカリーで働くようになり、月給10万円をもらうようになって、顔つきが変わりました』。そう親御さんに喜ばれました。いままでめったに笑わなかった子が、スワンで働くようになって、始終笑顔を浮かべている」
起業して、数年。自分の会社の経営に翻弄されている状況ではあったが、感動した私は、当時、コラムを書かいていた「日経デシタルコア」に、
「ITは障がい者の就労機会を創り出せるのか?」を寄稿した。
残念ながらその記事は残ってはいないが、会社の旧ホームページで探し出すことができた。
以下、その一部だ。
東京パラリンピックで活躍するパラアスリートをテレビで見ながら、
自分は、あの時の思いを忘れてはいないか?
「テレワーク」という働き方だけに頼っていないか?
「アンデルセンのパン生地」を本当に探して続けているのか?
自問自答しながら、この記事を書いている。
※写真は、スワンベーカリーの第一号の銀座店。初めて行った時の感動を覚えている。残念なことに、令和3年6月25日に閉店したとのこと。でも、「スワンベーカリー&カフェ」は、全国に広がっている。