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テレワークゆり物語 (126) 80歳を越える思い出のキンモクセイ
「なんかいい匂いがする。何だろう」
生後5か月から北海道で育った三女は、「金木犀(キンモクセイ)」の花の香りを知らなかった。寒さに弱いキンモクセイは、北海道で出会えないのだ。
→芳香剤では知っているが、本物とは違う
一方、奈良で生まれ育った私にとって、キンモクセイの香りは秋の到来を感じさせてくれる懐かしい香り。
私のキンモクセイの思い出は、祖父(特許でひと儲けしたじいちゃん)と祖母が暮らしていた家にある。生駒駅から歩いて数分。石の階段を降りると、そこに「金木犀」の木があった。秋になると、オレンジ色の小さな花を咲かせて、良い香りを漂わせてくれた。
祖父の家の前で撮った、私の写真が残っている。
左手で触っているのが、「じいちゃんちのキンモクセイ」である。
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祖父の家は、生駒市の再開発で取り壊された。私が生まれ育った家も、私が大学生の時に立ち退きになった。このとき両親が別の場所に建てた家が、現在、年老いた両親が住む『実家』である。
今の実家の小さな庭には、何本か木がある。しかし、その家に住んだことがない私は、何の木があるのかまったく気にしていなかった。
しかし、ここ数年、母の体調がすぐれず入退院を繰り返し、ひとり娘である私は、頻繁に実家に戻り、親の介護をする日々が続いている。
昨年の秋、長年ほったらかしだった庭の木を剪定してもらう際に、玄関に一番近い木がキンモクセイであることを知る。
しかし、秋になっても花が咲かない。香りも無い。
私「このキンモクセイ、花をつけへんのかなぁ。じいちゃんの家のキンモクセイは、とてもいい香りやったのになぁ。」
母「なんでやろうなあ。おじいちゃんの家から持ってきたのに・・・」
私「えっ? これって『じいちゃんちのキンモクセイ』なん??」
母「そうや。私が8歳の頃からあった木や。ここに持ってきたんや。」
驚いた。母は今年90歳。このキンモクセイは、80歳を超えていることになる。感激しつつ、もう年だから花が咲かないのか、と残念に思ったのが、ちょうど1年前の秋だった。
そして、2022年9月29日。出張から実家に戻ってきた私を、玄関で迎えてくれたのは、キンモクセイの香りだった。
「花が咲いている!」
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昨年の選定が功を奏したのか理由はわからないが、キンモクセイの花が咲いた! 最近、外に出なくなった母を無理やり連れ出すと、「ほんまやな。懐かしいな」と喜ぶ。
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「キンモクセイ」の花と香りは、一週間程度しか持たないらしい。
短い期間だが、やさしい香りが、親の介護の大変さをやわらげてくれる。