テレワークゆり物語 (177) 改正育児・介護休業法の意義~その1 短時間勤務の代替措置
「すべての女性が、育児期間に『休む』こと、『短く働くこと』を望んでいるわけではありません」
2013年12月25日、総理官邸で安倍信三元総理に、そう熱く語った。
あれから10年以上の月日が流れ、2024年5月24日、『改正育児・介護休業法』が成立。感無量である。
今回の法律改正の意義について、テレワーク視点から、ひとつひとつ語っていきたいと思う。
まずは「短時間勤務制度」の代替措置にテレワークが追加される件から。
「しっかり働きたい女性」のための選択肢を
三人の娘を産み育てたので、出産・育児の大変さはよくわかっている。母親の体のためにも、赤ちゃんのためにも、「休む」ことは大事である。
しかし、すべての女性が「休む」ことだけを望んでいるわけではない。
冒頭の安倍元総理との面会で、私がお見せした資料に以下の図がある。
ちなみに、言うまでもないが(笑)、私は「しっかり働きたい」派である。
女性の生き方に「こうあるべき」というのはない。
しかし、「働きたい」女性のための「選択肢」はあるべきではないか。
そしてそれは、在宅勤務、つまりテレワークではないだろうか。
地方の小さな企業の経営者が、10年も前、当時の総理大臣に、そうお願いしたのだった。
短時間勤務制度は両立支援のための義務
さらに遡る2009年に改正された育児・介護休業法で、3歳までの子を養育する従業員を対象に「短時間勤務制度」が企業の義務になっていた。
育児休業から復帰した従業員が短時間勤務をすることで、子育てと仕事の両立が可能になり、退職せずに働き続けることができたのは事実である。
短時間勤務だとなぜ、子育てと両立しやすくなるのか?
フルタイム勤務だと、保育園のお迎えに間に合わないからである。
18時に会社を出て、帰宅ラッシュの電車にゆられ、保育園に向かい、延長保育の保育士さんに頭を下げ、たくさんのお友達を見送って寂しい思いをしていたわが子を抱き上げ、帰り道にスーパーで買い物をし、家に着いたら急いで支度をし、夕飯を食するのは、夜の20時。
どんなに「働きたい」と思っていても、これでは、パートナーや親など、家族の協力なしでは、母親自身がつぶれてしまう。
短時間勤務で16時に会社を出れば、ゆっくりお迎えに行き、ゆっくり買い物や夕飯の支度をしても、19時までには夕飯を食することができる。
しかし「短時間勤務」には問題もある。給与が減るのである。
フルタイム勤務の8時間が、短時間勤務で6時間になる場合、単純計算で給料が4分の3になる。20万円だった給料が、15万円になる。何かと物入りな子育て期にこれは厳しい。
一方、会社としても、厳しい。子育て中の女性社員が16時に帰社してしまっては、他の社員に負担がかかる。
女性活躍と言われても、重要な仕事を任せにくくなる。
また、短時間勤務者の比率や企業規模によっては、会社の収益にかかわることもあるだろう。
働く女性にとっても、女性を活躍してほしい企業にとっても、企業の義務である「短時間勤務制度」は、最良の解とは言いきれなかっただろう。
テレワークならフルタイム勤務が可能
コロナ禍で、テレワークを実施する企業や働く人が増えた。
その結果、多くの働く人が、その良さを実感した。
あのつらい満員電車は、あの通勤時間は、何のためだったのか。
そして、多くの子育て中の女性が、こう思った。
在宅勤務なら、たとえフルタイムでも、保育園のお迎えに行ける!
しかし子育て中の従業員が、短時間勤務ではなく希望しても、その声に応える企業は決して多くはなかった。
それどころか、コロナの5類移行で、出社に戻す企業が増えている。
→コロナ前に比べるとテレワークは倍増しているけどね…
「コロナ禍で在宅勤務できたのに、なぜ出社しなくてはいけないの?」
一律の答えは難しいが・・・
テレワークの実施は企業にとって何の強制力もないからではないか。
「テレワークできる仕事がない」「一部の人がテレワークをすると不公平」「テレワークだと生産性が低下する」などを理由に、出社に戻らせても、企業はだれからも非難されないし、罰せられることもないのである。
短時間勤務の代替措置にテレワークを追加
「短時間勤務制度」は、法律で定められた企業の義務である。
しかし、業種・業態により、すべての企業が短時間勤務をできるわけではない。短時間勤務ができない場合の「代替措置」が用意されている。
具体的には、育児休業に関する制度に準ずる措置、フレックスタイム制度、時差出勤の制度、保育施設の設置運営、その他準ずる便宜の供与である。
今回の改正・育児介護休業法では、この代替措置に「テレワーク」が追加されることになったのだ。
今回の改正のベースとなる「仕事と育児・介護の両立支援対策に充実について」に記載されている。
男女ともに育休明けの働き方が変わる⁉
「短時間勤務制度」の代替措置にテレワークが追加されることは、比較的小さな改正かもしれない。しかし、大きな意味がある。
ほとんどの企業が実施している「短時間勤務制度」の代替措置だからだ。
3歳になるまでの子を持つ社員は、短時間勤務制度の代わりに在宅勤務を希望しやすくなるだろう。
一方、今回の改正で、子が3歳になるまでテレワークが企業の「努力義務」となる。
つまり、3歳になるまでの子を持つ社員から、(短時間勤務ではなく)在宅勤務を希望されると、企業は応えるよう努力しなくてはいけない。
そして何より、法律は女性のためのものではない。
3歳になるまでの子を持つ男性社員が、在宅勤務をしやすくなることは大きい。
男性は育休を短い期間しか取れてない、という話をよく聞く。
10年前の安倍元総理への資料は「女性」の図だったが、男性だって同様である。「しっかり働きたい」人を、無理に休ませるのは良くない。
パパの育休を終えても、在宅勤務で、育児や家事に関わる時間を減らさずにすむなら、
家族としての「子育てと仕事の両立」に大きく貢献するに違いない。
この改正により、男女かかわらず、育児休業から復帰後の働き方として、テレワークが「当たり前」になることを心から願っている。
※冒頭の写真は、5月24日、改正・育児介護休業法に賛成議員が起立し成立した瞬間。(参議院インターネット審議中継より)