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ネイティブトラウトってなんだ?

※あらかじめお断りしておきますが、単なるヨタ話です。

「ネイティブ」の定義とは

定期的に渓流界隈のSNSでなぜか話題になるワード、「ネイティブ」。

漁協による放流が盛んな地域や川で釣ったヤマメやイワナを「ネイティブ」と言ってしまうのは違うのではないかというような文脈で議論(?)の的になるようだ。

私自身、明らかに成魚放流の魚や管理釣り場から落ちてきた魚を「ネイティブ」と言ったり、野生化したニジマスを「ネイティブレインボー」などと言ってしまうのは抵抗がある。

言葉の意味には大抵幅があって、「ネイティブトラウト」にも狭義のそれと広義のそれがあると考えている。

渓流釣りの本や雑誌を作っている身として思うのは、大前提として「ネイティブ」というワードは「『魚』に対しては使わないな」ということ。「在来種」や「固有種」など、普通に日本語を使えばいいからだ。

では、使うとしたらどういう場面で使うのか。

ずばり「エリアトラウト(=管理釣り場のトラウト釣り)」と対をなす概念としての「ネイティブトラウト(=管理釣り場ではない自然河川・湖沼でのトラウト釣り)」だ。

用例「あの人はエリアのエキスパートとして有名だけど、実はネイティブも相当詳しいんだよね」

なんでも英語にしたがるのはルアーとフライの傾向なので、この言葉選びも主にルアーの文脈で使われることが多い。

実際、いわゆる管理釣り場のトラウト釣り(エリアトラウト)と自然渓流の釣り(ネイティブトラウト)は主に使用するルアーや道具などが大きく異なる。最近ではキャッチ&リリース区間など、管理釣り場寄りのルアーや釣り方が有効な渓流もあるにはあるが、自然の河川や湖沼での釣りの中で純血のヤマトイワナと放流由来のイワナとでは釣り方はそう大きくは変わらないし、イワナとヤマメですら大体同じようなルアーと道具で釣りは成立する。三峰川の源流でも、箱根早川C&RでもDコンは使うわけだ。

しかし、冒頭でも述べたように明らかに在来っぽくない魚をネイティブと呼ぶのはやはり抵抗がある。だから、釣りのスタイルとしてはネイティブトラウトだけど、釣れる魚はネイティブではないというねじれ現象(!?)が生じるのだ。

栃木県箒川C&R区間のニジマス。北米原産の移入種で、レインボートラウトとも呼ばれるが、私はニジマスという呼び名に愛着を感じている。
釣り方としてはネイティブトラウトだが、魚はネイティブとは言いづらい。仮にその川で再生産を繰り返していたとしても、だ。

日本語を使えばいいじゃないか

もっとも、私が携わっているのは基本的にルアーやフライだけではなくテンカラやエサも含めた、和洋折衷、本流でも源流でも里川でも、なんならサケでもサクラマスでも…という節操なしの渓流釣りの本だ。川で釣れるサケ科の魚のことならなんでもあり、ニジマスでもブラウンでもOK。そこに「壁」を作ることはしていない。だから、この「ネイティブトラウト」というワードも正直あまり使わない。「渓流ルアーフィッシング(あるいは渓流フライフィッシング)」なり「渓流魚」なりでいいからだ。

その土地に特有の特徴を持った魚であることを強調したいのなら、「在来(種)」とか「原種」、「地のイワナ・ヤマメ」、あるいは「◯◯(地名やその地域の文化、歴史を背景とした語句+)イワナ」などの言葉を選ぶ。「タナビラ」や「エノハ」などの地方名も雰囲気があっていい。ルアーやフライの用語では、英語を日本語に直訳しただけでは伝わりづらく概念込みで横文字を使った方が伝わりやすいカタカナなら使うが、そうでないならいちいちカタカナは使わない。なんなら「トラウト」もあまり使わない。

それと同時に、私はただただ日本の川が好きで渓流釣りをしているため、ヤマトイワナを求めて南アルプスや木曽の山中へおもむくこともあるし、ゴギは今年絶対釣りに行くと決めているが、いわゆる在来種や原種だけに強くこだわっているわけではない。SNSで見かけた赤の他人にやたらと「そんなのネイティブじゃない」などとお小言をいうのも品がないと心の底では思っている。

放流された魚はすぐ釣られてしまったり豪雨で流されたりで定着せず、成魚放流が盛んでも実はその土地の魚の方が残っている場合だってあるだろう。最終的には釣れた場所などの状況証拠や見た目だけでは判然としない部分も多く、「ヒレ切って調べてみないとわからない」みたいな話になってしまう。

よくある「エラが短いから放流だ」みたいなのも、養魚場で育つ魚がそうなりやすいのは事実らしいが、稚魚期のストレスなどを原因として自然環境下でもありうるとも言われているし、実際成魚放流なんかなさそうな場所でも釣れることがある。この点も本当は見た目だけでは判断できないはずだ。

反対に、どう考えてもあらゆる放流がなさそうな人里離れた山中の源流のイワナでも、昔マタギが食料として源頭放流していたものの子孫だとしたら厳格な「ネイティブ」の定義からは外れてしまう。少なくとも、SNSにアップされた写真の見た目だけで判断はできない。

長野県三峰川のイワナ。車止めから5時間ほど歩いた地点で釣れたものだが、かつては現在よりも奥まで車でアプローチできたらしく、放流由来でないとも言い切れない。


「ネイティブトラウト」の正体

その上で中締め的な結論。

◯ネイティブトラウトはおおむね自然の河川や湖沼に棲息する在来種のトラウトという意味。
◯国外外来種であるニジマスやブラウントラウトをネイティブと呼ぶのはさすがに無理がある。
◯イワナやヤマメは見た目では「ネイティブ」なのかどうかわからない部分もあるし、在来種や固有種を強調したいならネイティブなんて軽い言葉を使わなければいい。
◯「ネイティブトラウト」というワードは釣り界隈では「エリアトラウト」と対をなすものとして便宜上使われているもの。この場合「ネイティブ」には深い意味はなく、「管理釣り場ではない」ぐらいの意味ととらえるのが妥当。

繰り返しになるが、言葉はたいてい意味合いに幅がある。特定の文脈の中で頻繁に使われることで意味が固定されるケースはあるが(「差別語」とされる言葉などが例)、ひとつの意味しか持たない言葉は基本的にはない。その点では「在来種」や「原種」をネイティブというのが英語的に正しいのかという点も疑問が残った。

nativeの英語的な意味

さらっと検索しただけでも、形容詞としてのnativeには以下のような意味があると出てくる。

出生地の、自国の、本来の、その国に生まれた、その土地固有の、土着の、(…の)原産で、土産(どさん)で、生まれつきの、生来の

名詞としては以下の通り。

(…の)生まれの人 、(旅行客と区別して)土地の人、原住民、土着民、土着の動植物

native speciesと言ったら「在来種」のことだろうが、ネイティブ(native)だけを見るなら自然渓流で釣った、国外外来魚以外、あるいは誰がどうみても放流魚以外の、実際には放流魚の系統でもその川で生まれた魚ならあながち間違いでもないのではないかと思える。

native species(在来種)と同じような意味の英語にはendemic species(固有種)もある。「ネイティブ」の意味が揺れていたり、広がりすぎていると感じていて、なおかつどうしても横文字を使いたいなら、「エンデミック」とでも呼ぶようにしたらいいのではなかろうか?

知らんけど。

※トップ画像の写真は取材時のもの。釣具店店舗内での撮影は禁止されているケースがある。ご注意ください。

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