書評『ボイジャーに伝えて』(駒沢敏器 風鯨社)『ハーレム・シャッフル』(コルソン・ホワイトヘッド 早川書房)
基本、ノンフィクションが多いが、小説も手に取る。
小学館時代の元上司である稲垣伸寿さんが担当していた、駒沢敏器さんの『ボイジャーに伝えて』(風鯨社)をようやく読んだ。
阪神大震災で無くなった元恋人を引きずりながら、生と死の境目の「音」を探し求める男と、その恋人のファンタジー。
小説とは、荒唐無稽であってもいかにその嘘を信じさせるか、でもある。そこが甘くなると、(特にファンタジー系に対して男性読者の)評価は厳しくなる。この小説はぎりぎり合格点かな。かなり前に書かれた本だが古さは感じない。透明感のある装丁もいい。
小説誌での連載から単行本までかなり時間が掛かっている。その間に著者は亡くなっている。ページをめくりながら、なぜ単行本に進めなかったのかと考えた。
後書きで稲垣さんが書いているのと違って、ぼくはかなり冗長な部分があると感じた。ただその冗長な部分にこの小説の大切な部分も含まれている。
スティーブンキングは、「削れ、削れ」と書いている。書き手にとって自分の子どもでもある原稿を削って行くのは辛い作業で体力と気力を使う。その作業に彼の身体が耐えられなかったのではないか。
一方『ハーレム・シャッフル』(コルソン・ホワイトヘッド 早川書房)は圧倒的な男の世界。ザ・ハードボイルド。
主人公は、ヤクザな父を持つ黒人の家具商。裏では盗品を捌いている。1950年代後半から64年のニューヨークの空気が立ち上ってくる。当時の黒人差別、黒人の中でのヒエラルキー、騙し、裏切り、リベンジ。チャンドラー、ハメット、原寮さんが好きな人ははまる。お薦め。
書庫を探してみたら、駒沢敏器さんの『ミシシッピーは月まで狂っている』(講談社)が棚にあった。読み返してみよう。
『サッカー・グラニーズ』(平凡社)は共同通信からの依頼で書評を執筆。近々、共同通信が配信している新聞予定。いい本です。