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書評『ハヤブサを盗んだ男 野鳥闇取引に隠されたドラマ』(ジョシュア・ハマー 紀伊國屋書店)
久しぶりに読んだ本について。あまりに忙しすぎて、記していませんでしたが、本は読んでます。
『ハヤブサを盗んだ男 野鳥闇取引に隠されたドラマ』(ジョシュア・ハマー 紀伊國屋書店)は今年後半に読んだノンフィクションの中でベストかもしれない。
ニューヨーク生まれのジャーナリストが、ロンドンタイムズに載った「ハヤブサの卵泥棒」の記事を目にしたことがきっかけで、天才的なハヤブサ泥棒であるジェフリー・レンドラムに興味を持つ。タイトルを見たときはキワモノのドキュメンタリーかと思った。しかし、卵を隠しもったレンドラムがエミレーツ空港のビジネスラウンドで捕まる冒頭部から、とにかく面白い。
舞台は、レンドラムの生まれ故郷、ローデシア、イギリス、ドバイ、ブラジル、パタゴニア——。レンドラムを捕まえようと執念を燃やす元ラガーマンの世渡りの下手な捜査官、マクウィリアムスも魅力的だ。
虚言癖、犯罪者ではあるが、盗みの技術——アートは凄い。この才能を別に道に行かせばひとかどの人間になったのではないかと思わせるのは、吉村昭さんの「脱獄」の主人公と同じだ。そして、マクウィリアムス、著者のハマーも泥棒のレンドラムに次第に惹かれていく。「脱獄」よりもスケールが大きい。金に飽かせて、不法にハヤブサを集めるドバイの闇も少し描かれている。
いつも思うが、こうした作品を取材して描けるのが英語圏の作家の強みだ。日本はどの版元も尻込みするか、新聞社がチームで取材すると総じて薄いものになる。そもそもなぜこんないい作品が日本で話題にならないのか、首を捻る。
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『誰も農業を知らない2』(有坪民雄 原書房)も刺激的な一冊。養父市における農業の国家戦略特区の失敗、アフリカで農業が成長しない理由、有機農業の真実など、なるほどと思う。しかし……なにかひっかかる。文章の中に、「……と思われる」「……らしい」という表現が散見するためか。自説を主張するために、手を広げすぎて論じている感がある。農業に詳しい人に評論して欲しい一冊。