日記 白い春

いきなりしずかになった夕刻、わたしは新鮮な寒さを感じて、いそいで部屋に入る。手をひらいたら、さっきまでのあたたかい笑い声がすりぬけていってしまうようでこわくなる。着替えながら泣く。機嫌取りに紅茶を淹れてみる。茶葉から溶け出る香りと呼応するようにエアコンがいきおいを増す。バランス感覚のずれた温風が部屋に満ちていく。

香木を焚く。福袋に入っていた神様の木。名前は仰々しいけれど、やさしい香り。わたしに会うべきしてきみは来たのでしょう。やっぱりそんな気がする。かぐわしいけむりがまとわりつき、またこわくなり、窓をあけて空気を入れかえる。すこしだけしゅんとする。雪をみのがしたらしい。

スターバックスはテラス席しか空いていなかったが、だれも諦める提案をしなかった。ばらばらの話題がわたしたちをひとつに束ね、その場にとどまらせる。とてもなつかしくなる。おなかが二重にも三重にもふくれていく。それでもさすがに外はとても寒かった。

昔のほうが季節の色がはっきりしていたはずなのに、すべての記憶は同じ箱のなかでぐちゃぐちゃになっている。だから手をつっこんで触れるのは、砂っぽいジャングルジムだったり、イーストボーイのマフラーだったり、大学の2号館だったりする。混ざってしまった色は別にきれいなんかじゃないけれど無視はできない。でも無理に好きにもなれない。この気持ちを何に喩えようにもむずかしい。知らない色だがまだ名前を付けるのはやめておく。

ちいさいしずくから身を守るようにして、せーのでちぢこまったとき、なんだかとてもしあわせだと思った。みんなのことがすきだと思った。悩みのない時間だった。みんなもそうであればいいなと願う。

まるで青春のような日だったけれど、ここに辿り着くまでにもうそれぞれの宇宙を一周して開拓しているくらい、いろんな経験をしている。だから探索が必要なのはスリーコインズのなかだけだった。かわいいと言い合って、同じものは買わず、なるべく長居した。わたしは何も買わなかった。

みんなと食べるごはんはとてもおいしかった。
今日は特においしかった。
だからまたがんばっておいしく食べたい。
まだ泣いている。うれしくて。

みんながしあわせでいられますように。
つらいことがあってもがまんしませんように。
泣いたり弱音吐いたりできますように。
わたしじゃなくても
だれかが寄り添ってくれますように。
これからもかわらず
わたしがみんなのそばにいられますように。
わたしがわたしでいられるようにしてくれて
どうもありがとう。


素直な感想、とても嬉しいです。 お茶代にします🍰☕️