河原千恵子

小説家です。著書に「白い花と鳥たちの祈り」「セラピールーム」。「カテゴライズできない愛…

河原千恵子

小説家です。著書に「白い花と鳥たちの祈り」「セラピールーム」。「カテゴライズできない愛」をテーマに書いてます。

マガジン

  • 小説 太陽だっていつか死ぬ

    「茶色い目」の続編です。アイスホッケーを愛する女子高生ゴーリーと、学校ではしゃべれない同級生の男子の物語。

  • 長編連載小説 Huggers

    ハグをするだけで人を幸せにする、ハガーが主人公の物語。

  • 小説 茶色い目

    アイスホッケーを愛する女子高生ゴーリー、髙原さくやは、弟の死を受け入れられない。ある日教室で同級生の男子・楢崎に涙を見られたさくやは放課後彼を追いかけて……

  • 小説  シオンの声

    シオンという名の少年の成長を描く長編小説「あらののはてに」より第一章を公開しています。

  • 短編小説 フォーマルハウト

    夫の不可解な態度に悩む奈津子はある日、プラネタリウムで同じマンションの住人、丘野に出会う。屈託のない丘野と小さな息子とのやりとりに心和んだ奈津子だが、その夜、事件が起こる

最近の記事

連載を終えて。

こんばんは~。 カワハラです。 69話にわたり連載していた小説「Huggers」が終わりまして、思うところなどを書かせていただきます。 お気づきのかたは多いかと思いますがこの作品はもともと10年ほど前に書いたものになります。 なのでスカイプをzoomにしたり、携帯をスマホにしたりと、細かな書き直し、あとは加筆や削除をしながらアップしていました。 たとえそうであっても、やはり作品全体からただよう時代遅れ感というのは否めませんでした。ごめんなさい。 今回痛感したのはやはりWe

    • 長編連載小説 Huggers(69)

      小倉  11    6月下旬のある日曜日の昼前、小倉はJR山手線、渋谷駅のホームに降り立った。  東京に行く勇気が出るまでには、しばらく時間がかかった。 「亀はマンネン」の遺言を読んでから、義理の母親に以前から勧められていた、大学病院付属の認知行動療法の教室に通うことを決めた。  担当になった療法士に励まされ、自分でも毎回宿題をこなす努力をした結果、3か月ほどでだいぶ行動範囲が広がった。  それでも新幹線に乗るには相当の覚悟が必要で、強めの薬を飲まなければならなかっ

      • 長編連載小説 Huggers(68)

        裕子  11 「園田さん、おはようございます」  窓をあけて初夏の風を入れながら、裕子は園田に話しかけた。枕の上の園田の顔に表情はないが、裕子の目には穏やかな微笑を浮かべているように見える。  園田が転院した先の療養型の病院を調べていたとき、それが実家から通える範囲にあることに気付き、思い切って応募した。  そこで働きながら、裕子は今、仕事とは別に新しいプロジェクトに参加している。  それはクラウドファンディングサイトで知った、重度の意識障害の患者専門の病院を立ち上げるた

        • 長編連載小説 Huggers(67)

          沢渡  11          「BPネットニュース、5月2日。  この4月から毎週日曜日、11時から12時の1時間、JR渋谷駅ハチ公前のスクランブル交差点に、『フリーハグ・キャンペーン』をする人々が出現し、話題を呼んでいる。  道行く人に「FREE HUGS」のボードを持ってハグを呼び掛けるこのキャンペーン、数年前に話題を呼んだが、最近は見かけることが少なくなっている。  『ハグ』にこだわる理由のひとつを呼び掛け人の沢渡哲史さん(39)は、『ハグという、日本人にはあま

        連載を終えて。

        マガジン

        • 小説 太陽だっていつか死ぬ
          4本
        • 長編連載小説 Huggers
          33本
        • 小説 茶色い目
          4本
        • 小説  シオンの声
          5本
        • 短編小説 フォーマルハウト
          5本
        • 短編小説 長谷川の弟
          4本

        記事

          長編連載小説 Huggers(66)

          颯は、「彼ら」に思いを馳せる。颯  2             ハヤテは三階まで吹き抜けのフードコートでポーク・フライド・ライスを食べながら、代表の形見のマックのパソコン画面をのぞいていた。  ハヤテが見ているのは、動画サイトにアップされた、1か月ほど前の日本の朝のニュース番組の映像だった。30代後半の頭の切れそうな女性キャスターが「このたび、日本ハガー協会を、解散することといたしました」という内容の、永野がいくつかの報道機関に送ったファックスを読み上げている。 「以上が

          長編連載小説 Huggers(66)

          長編連載小説 Huggers(65)

          小倉はある女性に会いに行く。小倉  10  小倉は尼崎駅の改札で裕子を見送った。裕子は何度も振り返って手を振った。  昨夜、裕子の寝顔を見ながら思った。  もう何も、思い残すことはない。  日本ハガー協会は解散し、ハガーもホルダーも、みんなバラバラになった。裕子はもう、セッションを続ける気はないという。二度と会うこともないだろう。  自分が生き続ける意味は、もうなくなった。  文具店の中に入るのは、22年ぶりだった。  彼女は22年前と同じように、自動ドアのすぐ右側にある

          長編連載小説 Huggers(65)

          長編連載小説 Huggers(64)

          裕子は一番会いたかった人に連絡をとる。 裕子 10(つづき) 永野に教えられた電話番号にかけると、3回ほど鳴って、男の声がした。 「小倉です」ずっと聞きたかった声だった。 「西野です」と言うと、相手は黙ってしまった。裕子は急いで言った。 「待って、切らないで。小倉さん、あの、今私、大阪に来てるんです。会えませんか? 電車乗れないなら、最寄駅まで行きますから。お願いですから一度だけ、会ってもらえませんか?」  教えられた電車に乗り、約束の夜6時に、阪神電鉄の尼崎駅の改札で

          長編連載小説 Huggers(64)

          長編連載小説 Huggers(63)

          永野は裕子に頭を下げる。裕子 10(つづき) 「これ、おとぎ話だと思って、聞いてくださいね。僕もそのつもりで話しますから」 永野は以前スカイプで話すときによくしていたように、パイプ椅子の背もたれにぐっと背中を預け、胸の前で、両手を組み合わせて微笑んだ。 「もう、10年以上前の話になりますがね。僕は、アメリカ中西部のある田舎町に住んでいました。先日亡くなった、ハガー協会の代表と、数人のごく親しい仲間と共同生活をしていました」 「永野さんは、代表にお会いになったことはないとず

          長編連載小説 Huggers(63)

          Huggers(62)

          永野は裕子を歓迎する。 裕子  10(つづき)   新大阪駅から地下道を通って、ハガー協会のあるビルに行く道を探したが、研修や面接などで何度か通った道であるにも関わらず、裕子はまた迷ってしまった。何度か阪急百貨店と阪神百貨店、幾つかの似たような駅ビルのあいだでぐるぐるしたあと、あきらめていったん地上に出、人に尋ねてやっと目当ての雑居ビルを見つけた。  目的の英会話学校のあるフロアは四階だった。  だがエレベーターが開いたとき、裕子は一瞬、階を間違えたのだと思った。以前来た

          Huggers(62)

          長編連載小説 Huggers(61)

          裕子は大阪へ向かう。 裕子  10  沢渡がたずねてくる1か月ほど前の2月末、裕子は夜勤明けに新幹線に乗り、大阪に向かっていた。  東京駅で駅弁を買おうか、大阪についてから何か食べようかと迷い、結局何も買わずに乗ったが、朝食をとっていなかったので途中でお腹がすいてしまい、車内販売で珍しくもないミックスサンドイッチとコーヒーを買った。熱いコーヒーでツナサンドを流し込みながら、ぼんやり窓に頭をもたせかけ、心のなかに響いてくる声を聞く。 僕は――あなたが――好きなんです、西野

          長編連載小説 Huggers(61)

          長編連載小説 Huggers(60)

          沢渡は最後に裕子にあるお願いをする。沢渡 10(つづき) 「僕は、神を呪って、悪態をつきました。それから体中の水分がなくなるかと思うくらい泣いて泣いて、そしていつのまにか寝ていました。玄関ですわったまま。目が覚めたとき、立ち上がろうとして、びんを蹴とばしたんです。義母が、僕にもたせてくれた、梅の実の醤油漬けが入った透明なガラスびんでした。廊下を転がっていって止まったびんに、カーテンのすきまからもれてくる外の明かりが当たって、光るのが見えました。濡れてるみたいに。とても、きれ

          長編連載小説 Huggers(60)

          長編連載小説 Huggers(59)

          沢渡は、ふたたび裕子をたずねる。沢渡  10  久しぶりに土日が連休になり、のんびりと過ごしてから出勤すると、日曜出勤だった桐尾から、辻のアパートの賃借人が来て、五月が更新月なので、来月、四月いっぱいで退去したいと手続きをすませていった旨の報告があった。 「誰?」 何気なく聞いた。 「えーと、誰だっけ。2階の人です、地味な感じの女の人。確か……」  ドキッとした。 「西野さん?」  「あ、そうですそうです、西野さん」 「そうなんだ。何か理由は言ってた?」 「いや、別に。あん

          長編連載小説 Huggers(59)

          長編連載小説 Huggers(58)

          小倉は最後のブログを更新する。 小倉  9  いつもの喫茶店の、いつもの窓際に座って2時間、今日はまだあの人の姿を見ていない。  いったいあの人を本当に見たいのか、それとも見つめるだけしかできない自分をあわれみたいのか、正直なところ、小倉にはもうよくわからなくなっていた。  裕子を突き放してから数週間、精神的には生きているのか死んでいるのかはっきりしないような日々を過ごしていた。  マンション管理員の仕事はしていた。おそらく、はたから見る限りではそう大きな変化はなかったは

          長編連載小説 Huggers(58)

          長編連載小説 Huggers(57)

          裕子は激しく動揺する。裕子  9(つづき)  しつこく食い下がろうとする男をなんとか振り払い、玄関のドアを閉めて急いで鍵をかけた。  冷え切った室内を暖めるためにとりあえず暖房のスイッチをいれ、コートも脱がないで男に渡されたコピーに目を走らせる。  その記事には、最近のミアの奇行の数々――取材や打ち合わせへの遅刻が目立つ、用意された弁当や差し入れを食べず、傍目にわかるほどやせた、インタビューでインタビュアーの問いに答えずただ微笑むだけだったり、相手を煙に巻くような返答をし

          長編連載小説 Huggers(57)

          長編連載小説 Huggers(56)

          裕子はミアの異変を知る。 裕子  9  ミアの変調を最初に知ったのは、永野からでもキンモクセイからでもなく、いつもチェックしている若手俳優のブログのサイドバーに表示されるエンタメニュースの見出しからだった。「歌手のミア クリスマスコンサート後倒れ入院」という文面が目に飛び込んできて、「詳細」と書かれた部分に急いでマウスを合わせクリックする。  だがそこには、全国ツアー中だったミアが、クリスマスイブの24日、コンサート直後に急に意識を失い倒れ、都内の病院に運ばれたとだけ書か

          長編連載小説 Huggers(56)

          長編連載小説 Huggers(55)

          沢渡は、NYからの知らせを受け取る。沢渡  9 「沢渡哲史様 初めまして、疋田愛華(ひきたあいか)です。 メールありがとうございました。 文面から、沢渡さんの誠実なお人柄、詩帆への真摯な思いがひしひしと伝わってまいりました。ですので、「主人から問い合わせがあってもナイショにしてほしい」という詩帆との約束は破って、このようにお返事させていただいています。 ご拝察の通り、詩帆は先月の終わりに、弟さんのところからここニューヨークに来ました。私のアパートメントに3泊し、その後、

          長編連載小説 Huggers(55)