納骨前夜
まだ薄暗いなか、もの音が聞こえる。
じゃーっ、じゃーっ、じゃー・・・
おじいちゃんが風呂に入ってるようだ。ただでさえ早起きなのに、いつにも増して早い。父と母は出掛ける準備をゴソゴソとしている。私はというと、まだ布団でゴロゴロしていた。春になったといえど、南国でふらふら生活を続けてきた私には明け方の空気が肌寒く感じた。私の頭のそばに、おばあちゃんが、ちょこっと座った。おばあちゃんが何か言い、私もまるで毎朝そうして会話してるかのように言葉を返した。そうだ、認知症を患う前のおばあちゃんはこんなだった。可愛らしくて、いつもニコニコしてて、私とは違って歌が上手だった。いつまでも少女みたいだった、おばあちゃん。
「おばあちゃん、旅に出るのはじめて」とおばあちゃん。
「えっ?おばあちゃん、いっぱい旅行したでしょ?外国もたくさん行ったし」と私。
「それは自分で行ったんじゃないから」と、おばあちゃん。
私は不思議に思いながら、座っているおばあちゃんの膝に頭をよせ、久しぶりに甘えた。すると、おばあちゃんが茶目っ気たっぷりに私にたずねた。
「あなたは、だあれ?」
私は冗談ぽく「私は、おちゅん」と答えた。おばあちゃんの幼少期のあだ名だ。そして、「あなたは、だあれ?」と聞き返すと、「私はTさん」と私の母、おばあちゃんにとっての義理の娘の名前を言った。
それから、目が覚めた。
***
そして、おじいちゃん、父、母、私、骨となったおばあちゃんと先祖代々お世話になっているお寺へと向かった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?