古札

シマ:11月6日

妻の実家に帰省するや否や義妹からお守りを渡される。
願をかけたお守りのプレゼントかと思いきやそうではないらしい。
職場のロッカーの片付けをしている際に出てきた持ち主不明の古いお守りで、捨てるとバチが当たりそうだから返納してほしいと言うのだ。
よく見るとお守りはボロボロで、擦れているが「浅草寺」と書かれている。
大変に厄介かつ面倒なことを頼まれてしまった。
大変に厄介かつ面倒なことに他ならない。

東京に戻り、義妹から預かったお守りはひとまずテレビ台の上に置くことにした。
箱の中など見えない場所にしまってしまえばこのクエストを達成せずに一生を終えてしまうだろうし、かと言って玄関など何となく気の流れのようなものがありそうな場所に置くのも、元の持ち主(お守りをなくすような人物)の運気が生活に作用してしまいそうで憚られるなぁなどと思い、古びたお守りを持ちながら家の中をウロウロとした結果テレビ台の上に落ち着いたのだ。

テレビ台の上にお守りを置いたはいいが、今度はテレビに集中することが出来ない。恐らく重要なことを言ってる中村倫也のセリフも、ピエロに扮した錦鯉も、視界に映り込むオレンジ色のキラキラしたお守りが気になって結局巻き戻して再生してしまう。
「これは生活に支障を来たしていると言える」
と口に出し、何かのついでとかでなく古いお守りを返納する為だけに電車を乗り継ぎ小一時間かけ浅草寺まで行ってきた。一人で。

浅草寺は賑わっていた。日曜日の浅草寺が混んでいないわけがない。自撮りをしまくる人たちを掻き分け、まるで探偵ナイトスクープの依頼のような頼まれごとをクリアする為に最奥を目指した。「古札納め」という納め口に古いお守りを返納し、自分と知らない持ち主の事を思って参拝して帰宅した。

授与所には、自分が返納したお守りと同じものの新品が飾ってあり「蓮弁守」というもので病気平癒 / 心願成就 / 健康長寿 という願いが込められたお守りだという事がわかった。他のお守りのラインナップと比べて一番奉納料が高く、中に金色の観音様の御影が入っているらしい。

持ち主、無事であれ。

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