#VSCC卵 VTuber Shogi Challenge Cupについて思うこと

「今の時代においても、将棋界の盤上の物語は不変だと思います。」

この言葉は、藤井聡太竜王名人(2024/10/1現在)が、初タイトル棋聖を獲得した際の、"AIが発達する今、人間の棋士の存在意義は?"という記者の質問に対する発言である。

2024年現在、将棋AIはものすごく強く、単純なレーティング差で見るならば、私(アマ初段)がプロ棋士に勝つ難易度よりも、プロ棋士が将棋AIに勝つ難易度の方が高いというレベルにまで到達している。また、アマチュア将棋界においては、県代表クラスがAIの二枚落ちに苦戦するレベルである。
したがって、棋力至上主義という観点に囚われてしまう場合、人類が将棋に関わる方法は、より強い将棋AIを開発するか、将棋AIを使って最善進行手順を探るか、ということになってしまいかねない。

しかし、現在の将棋界はというと、一時期と比較して、かなり盛り上がっていると思われる。藤井聡太竜王名人を頂点として、様々なトップ棋士が切磋琢磨しており、序盤の精緻な研究・中盤の大局観・終盤の勝負術等に多数の視聴者が関心を寄せている。
これこそが、冒頭で紹介した「盤上の物語は不変」という言葉が意味するところの一部なのだと思う。いかに将棋AIの棋力が上昇しようとも、プロ棋士による頭脳勝負はやはり面白いのである。

では、アマチュア将棋界、とりわけ、低棋力帯の将棋にはどのような魅力があるのか。もちろん、将棋はどのような棋力の者が指しても勝負事として楽しいし、努力と実力に強い相関がある性質のゲームなので、自己実現欲求を満たしやすい。ただし、それらは将棋を指す場合における魅力であり、将棋を観戦する場合における魅力ではない。

しかし、低棋力帯の将棋の観戦にも魅力があるということを強く実感する出来事があった。それが、タイトルにある、VTuberによる将棋初心者大会、VTuber Shogi Challenge Cup 卵クラス(以下「VSCC卵」という。 )である。

その魅力とはいわば「盤外の物語」であった。

VSCC卵は、将棋をほとんど指したことのないVTuberを集めて、将棋を練習してもらい、本番の大会に臨むという大会である。
大会の概要としては、以下のツイートのとおりである。

この大会のルールの中で、一番魅力に感じたのが、初心者にコーチが全員つくという仕組みであった。
最近、私はストリートファイター6関連の配信をよく見るが、その中でも極めて人気の高いコンテンツとして、初心者VTuberやストリーマーをプロがコーチングすることによって成長し、本番の大会で活躍するというものがある(CRカップなど)。

VSCC卵の概要を、運営のポメヒさんから聞いたとき、これは将棋配信者界における強力なコンテンツとなりうると思い、大きな大会となるよう協力することにした。

まず、将棋ウォーズ運営のHEROZに話を持っていったところ、協力をいただけることになった。次に、佐藤天彦九段に大会の趣旨を説明したところ、解説を快諾いただけた。将棋ファンからすると、この2つだけでも極めて大きな成果といえるが、将棋を知らない配信者一般に通用する魅力とまではいえないと考えた。

そこで、将棋フリーライターで、Yahoo!ニュースオーサーの松本博文さんに大会の話をしたところ、興味を持っていただけて、取材いただけることとなった。Yahoo!ニュースに載る可能性があるということは、VTuber・配信者にとっては、相当に価値がある。

これで、視聴者・参加者にとって、魅力のある大会が開催される可能性が上がった。しかし、当然、大会自体がコンテンツとして面白くなければ、画竜点睛を欠くことになる。
その点、運営の皆様(かくきりこ・ポメヒ・うーた)は、相当に工夫をし、ルール作りや問題が発生する可能性の排除に尽力されていた。また、初心者VTuberの方々のエントリーもたくさん集まり、各々が将棋コンテンツを配信し、将棋を指す自身の魅力を伝えていた。
将棋ウォーズの級位が徐々に上昇する・指し手の精度が上がっていく・自身の戦法を獲得していくという、成長する過程が見られるコンテンツとして、素晴らしい配信になっていたと思う。コーチ枠(アニキ)の方々も初心者Vに対して、様々な役割(将棋指南・風除け・コラボ招待)を果たしていた。

そして、9/28にVSCC卵、大会予選リーグDay1が開催された。

この配信は、将棋系VTuberの配信の中でも屈指の面白さだったと思う。
将棋初心者が成長して、ここまでの将棋を指せるようになった、しかし、当然完璧な指し手ではなく、不利になってしまう、それでも、粘り強く指したり、光る一手を指したり。

有志の方々の観戦記も上がっているので、指し手の言及はしないこととするが、「盤上の物語」としても、相当面白い内容だったと思う。
また、予選突破できた者の喜び、突破を達成できなかった者の口惜しさなどが強く伝わってくる内容で、成長物語、「盤外の物語」として極めて高水準だった。
棋力は私の方が上であったとしても、配信者として、これを超えるコンテンツを作れるかというと、おそらく不可能だと思うような、素晴らしい配信だったと感じた。

10/6(日)には、予選リーグDay2が始まる。予選リーグDay4には、私がアニキを務める、AIcia_Solidさんが参戦する。
ここからもより大きな盛り上がりを見せるであろうVSCC卵を、視聴者としても最後まで楽しみたいと思う。

(なお、参加者・コーチ枠の人数が読めなかった関係で、運営としては致し方なかったところではあると思うが、初心者のコーチを複数受け持ったり、自分の担当以外の初心者に将棋を教えるという点については、初心者同士の真剣対決という観点から、少し気になるところではあった(職業上、利益相反という点に過敏なのかもしれない。)。)

ここまでご覧いただきありがとうございます。これを読んでくれた方に幸せが訪れますよう!!

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