45 、侵略者~  愛する者のために。。。1/5

「ねぇ、お母さんあいってなに?」
「あい? なにそれ?」

久しぶりに家族そろっての夕食の時、カメ子からお母さんへ突然の質問。
カメ子の口から出たのはあい。
それは会いに行くのあいではなく、逢いたいのあいでもない。
カメ子の聞きたいのは所謂LOVEの事だというのを僕は知っている。
だけどまさかこんな時に聞くとは思わなかった。

「人間が使う言葉であるでしょ? 愛してるとかって言うんでしょ、その愛。 お母さんは言ったことないの?」
「えっ?! ちょっと何よいきなりカメちゃん。愛ってそう言う愛?」
「そう言う愛って、他にどう言う愛があるの?」
「他にどう言う愛がって言われても・・・あの・・・ちょっと・・いきなりすぎて・・・」
「お母さん知らないの?」
「知らないのって言われても、知らないわけじゃないけど・・・あ、そうだ。今日はお父さんがいるんだから、お父さんに聞いて見てよ。」

答えに窮する時に出る ”あ、そうだ” は大したアイデアが出てくるわけではないことを僕は知っている。
で、今日のそんな ”あ、そうだ” で出たお母さんのアイデアはお父さんに対する無茶ぶりだった。

「ねぇ? ここの所いそがしくて一緒に食事なんてできなかったんだから答えてあげてよ」
「えっ? 俺が? いや、ちょっとそれは・・・ま、確かに忙しかったは忙しかったけどそれとこれとは、違うって言うかなんて言うか・・・あ、そうだ。丸男はどうだ? 学校で教わったりするんじゃないか?」

久しぶりに家でみんな揃っての食事中、カメ子の言った質問に慌てるお母さんとお父さん。
ふたりとも ”あ、そうだ” っていい事でも思いついた様に言うけど、結局最後は僕にまで回して来る始末。
僕はなんでお母さんもお父さんもそんなに慌てるんだろうと思いながら学校ではそんな事教わらないよと答えた。
これからはどうか知らないけど、今の所本当に教わった記憶は僕にはない。
でも流石にこれで終わったらカメ子がちょっとかわいそうな気がして僕は自分なりに思う事を言った。

「でも、まぁ言葉で説明するとしたらきっと、好きよりももっと好きって事でいいんじゃないの?」
「好きよりももっと好き?」
「そう。 好きって気持ちのずーっとずーっと上って言うか、もっと、もっと好きって感じだよ」

好きのずーと上でもっともっと好きって事かぁ、とカメ子は僕の言った事を口にはしてもしっくり来ていない様だった。
残念ながら僕にもこれ以上の説明はできない。
僕の説明を聞いて、ま、そんなとこかもしれないわねと納得しながらお母さんはカメ子に聞いた。

「でも、そもそもどうしてそんなこと知りたいの?」

このお母さんのもっともな質問には考え込んでるカメ子の代わりに僕が答えた。
ベータの件の後、僕とお父さんは怪我の治療もあり三日ほど研究所に泊まることになった。
お父さんは手当てを受け頭部の検査をして問題ないことがわかると早々にカメ子とカーメルと一緒に東岸さん達の所に戻った。
僕も検査の結果問題は見当たらないという事だったので家に帰ろうとしたんだけど医者だけでなく東岸さんやお父さんも一緒になってあんなことがあった後だからしばらくは安静にしてないという事になり僕としては正直迷惑な気もしたけど念のためという事で渋々了承した。
といっても研究所にいて日がな一日ぼーっと過ごしているだけだと本当に退屈で、研究所内をあっちこっち見て回っても研究所なんて建物は確かに立派だけど見る所なんて全然なくてどこに行っても仕事をしてる人達に気を使うだけで時間の潰し方に困っていた。
そんな所にそれなら最高の時間の潰し方を教えてあげると坂東さんが色々な映画やドラマのDVDを持って来てくれた。
気にしてくれたのはありがたかったけど映画好きの坂東さんのお勧めの多くはいわゆる恋愛もの。
その他は文学的というか僕からすると解釈が難しいものが多かった。
これならホラーとかアクション物のような単純で分かりやすい物の方がいいなと思っていたんだけど一緒に観ていたカメ子にははまったらしく今度はこれ、今度はあれと次から次へと寝る間も惜しんで観ていた。
誰の暇つぶしのDVDなのかわからなかったほどだった。
基本的に僕の為に持って来てくれた物だったんだけど、坂東さんは一人で観るより大勢の方で観る方がいいとカメ子とカーメルにも声を掛けてくれ即興の坂東劇場の鑑賞会はほとんど三人で行われた。
その鑑賞会の中で坂東さんが特にお勧めだという物は、仕事中にもかかわらず、ちゃっかり坂東さんも一緒に観て行くのだ。
カメ子の気になった愛というのはその坂東さんの一番のオススメの映画の中で主人公が病気で亡くなる恋人にかける最後の言葉だった。
カメ子も愛というのが大切な人に使う言葉だというのは理解したみたいだけど、意味がよくわからなかったみたいでそれを坂東さんに聞いてた。
でも坂東さんはそれは自分が答えるより家に帰ってお母さんに聞いた方がいい答えをもらえるわよとうまくかわしていた。
その時の僕はそんなに真剣に考えていなかったのでここに来てカメ子が本当にお母さんに聞くとは思わなかった。

「えっ、坂東さんがお母さんにって言ったの?」
「そんなことがあったんなんてしらなかったなぁ」

カメ子の質問に答えられなかったお父さんもお母さんも困った顔をしていたけど本当に困ったのは僕の方だよと思った。


カメ子とカーメルがドールの放った二人の刺客を倒してからしばらく平穏な日が続きカメ子もカーメルも研究所に泊まり込みんで検査や調査に協力する事はなくなった。
それは今回の事で得られた情報が今後一つ目を迎え撃つにあたっても十分に役立つもので、研究所ではその情報を元に態勢を整える事に重点を置く事になったからだった。
そしてカメ子とカーメルはカメムシの世界との橋渡しを担う事だけになり、何かあればその都度研究所の東岸に知らせるという事になった。
その東岸は一つ目の特徴について纏めると、世界のあらゆる国や機関へ発信した。
それはこれまで「カメムシに頼らなければならないなんて」と難しい顔をしていた者達の考えを一変させることにもなった。
確かにいつまた、ドールがどのような形で攻撃を仕掛けてくるか予測がつかない中だったが、この事を機にそれまで休校だった学校も再開し、相模湾上空に停滞している岩の様な宇宙船の事を考えなければほぼ日常を取り戻していた。

「ねぇ丸男。 カメちゃんってまだ研究所に泊まり込んだりしてるの?」
「ううん。 たまにはいったりしてるみたいだけど。 もうそんなに詰めて行く事はないみたい」
「そうなんだ。 良かったね。 じゃあもうおばさんもミヨさんもやきもきしないですむんだね」
「そうそう。 それだけは本当に助かるよ。 いつ帰って来るんだって二人して落ち込んで暗い顔されても困るからね」
「わかる、わかる」

久しぶりの学校でモロミは丸男にカメ子の様子を聞いてきた。
それはカメ子がまだ研究所に行き来しているのかという事から始まり、カメ子とモロミが会うたびによく話していたテレビドラマは観ているのかとか、文字の勉強はどこまで進んでいるのかというとても他愛も無い事だった。
丸男も聞かれたことには答えていたが、他愛も無い事だからこそ逆に自分に聞くより家に来てカメ子と直接話した方がいいんじゃないかという事で学校帰りにモロミは丸男の家に寄る事になった。

「なぁ丸男、ちょっと来てくんない?」

丸男とモロミが校門を出ようとした所で吾一がやって来た。
サッカーの試合をするのに人が足らないので入ってくれという事だった。

「えっ? 僕でいいの?」
「うん。とりあえず頭数さえ揃えばな」
「なんだよそりゃ」

はっきり言う吾一に対し少々不満もあったが、ここの所家の中に閉じこもりきりだった丸男は苦手なサッカーでも久しぶりに学校で皆と走り回れるというせっかくの誘いに乗りたかったが、カメ子の事を気にかけてくれたモロミと一緒に帰るという約束が先だったので後ろ髪を引かれたが断ろうとした。そんな丸男の心を見透かしたモロミは言った。

「あたしは大丈夫だよ。一人で行って来るから。それに会いたいのはカメちゃんだし。丸男もみんなとサッカーなんて久しぶりなんだし行ってきなよ」

そう言われ丸男はモロミにゴメンと手を合わせると吾一について行ってしまいカメ子の所にはモロミが一人で行くことになった。

「こんにちは。 カメちゃんいますか?」

カメ子に会いに来たモロミの久しぶりの訪問に母のサチコは喜んだ。

「あれ? 丸男は一緒じゃないの?」
「丸男は吾一に誘われてサッカーやりにいっちゃいました。あたしは久しぶりにカメちゃんに会いたくて一人で来ちゃいました」

サチコはありがとうと言うとカメ子を呼んだ。

「ねぇカメちゃんここの所家に閉じこもりっぱなしだし、せっかくモロミちゃんが来てくれたんだから、ちょっとその辺お散歩でもしてくれば」

そのサチコの言葉で二人は家を後にした。
そして二人きりになるとカメ子は早速モロミに質問した。

「ねぇモロミ。聞きたいことがあるんだけど」
「あたしに? めずらしいね。 なに?」
「ちょっとわからないことがあって」
「わからない事?」
「うん。モロミは愛ってなんだかわかる?」
「愛? 愛って、恋愛の愛?」
「うん」
「どうしたの突然?」

モロミは久しぶりに会ったカメ子から突然愛とはとの質問を受け正直ドキリとしたが研究所で観たドラマのセリフの一部だと聞くと、知らない言葉の意味を知りたいのかと納得した。

「なんだ、そういう事ね。ちょっとびっくりしたけど。それなら納得。でもおばさんとかには聞いてみなかったの?」
「お母さんもお父さんも教えてくれなかった。その代り丸男が教えてくれたんだけど・・・・」
「丸男はなんて?」

カメ子は丸男が教えてくれた事を話した。
モロミはそれに対しても納得したようだった。

「はははは。 好きのずーっずーっと上か。丸男らしいね」
「モロミはどう思う?」
「あたし?」

カメ子に聞かれて少し考えたモロミは言った。

「確かに好きの上っていう考え方もあるかもしれないけど、好きって結構一方的なんじゃないかなって思うな。あたしが思う愛っていうのは、そういう一方的じゃないもので、うーん。見返りを求めないもの。 そう、自分の全てを出しても見返りを求めないものなんじゃないかな」
「見返りを求めない?」
「そう。何かして欲しいとかじゃなくて、うーん。あ、ほら無償の愛って言うじゃない」
「無償の愛?」
「うん。あたしもこれ以上はなんとも言えないなぁ。 でもさぁ、いままでだって難しい言葉なんて色々あったんじゃない? どうして愛にこだわるの?」

確かに今までも理解が難しい言葉はあったがその都度皆丁寧に教えてくれた。
それと同じ様に愛と言う言葉も最初は知らない言葉なので意味を知りたいというだけだったが、この愛に関しては誰もがはっきりとしない言い回しだったのが気になり、はっきりとした意味を知りたかったからだと言った。

「まぁ確かに説明は難しいかな。でもこれって自分で感じるっていうか、カメちゃん自身がそういう気持ちになるしかはっきりとした意味はわからないんじゃ無いかな」
「あたしがそういう気持ちになる?」
「うん。 ま、そうは言っても今すぐそういう気持ちになれって言っても無理だよね」

そこまで言うとモロミは以前カメ子が丸男に宿題とは何かと聞いて困らせたという話を思い出した。

「あ、 そうそう、とりあえず宿題ってことにすればいいんじゃない」

そう言うと初めての宿題だねとモロミは笑った。
ここでもはっきりとした答えを見つけられなかったカメ子だったが、そうだねと答えるとモロミに笑顔を返した。



#創作大賞2023

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